6年ぶりの単独公演で来日したホンネにインタビュー──最新作『アウチ』に込めた想いと東京でのひととき

6年ぶりの単独公演で来日したホンネにインタビュー──最新作『アウチ』に込めた想いと東京でのひととき

名前を聞くだけで親しみを持たずにはいられないUK発のデュオ:ホンネが、新作『アウチ』を携えて来日した。サマーソニック(23年)でのライブが記憶に新しいが、単独公演としては実に6年ぶり。この間、韓国ではフェスのヘッドライナーを務め、フィリピンやインドネシアの単独公演では1万人超えを動員するなど、アジアを中心に確かな存在感を築いてきた。その勢いが反映され今回の公演は一段とスケールアップ。従来のバンドにサックス、フルート、トランペットが加わり、オープニングアクトのリアン・ローレンスもコーラスで参加。ステージには新作ジャケットに載っているマスコット“Poco”のバルーンや雲のポップな装飾で新作のポジティブで遊び心のある世界観が表現されていた。そんなバンドの進化が見られつつも、エレクトロソウルをベースに、懐かしく温もりのあるホンネ・サウンドは変わらず心に響く。内省的でありながらも多幸感にあふれ、パーソナルでありながら誰もが共感できる——そんな空気が会場をやさしく包みこんでいた。今回東京公演直前のアンディ(Vo)とジェイムス(Multi)に、話を聞くことができた。
(インタビュアー:石原有紗 rockin'on6月号掲載) 



6年ぶりの単独公演で来日したホンネにインタビュー──最新作『アウチ』に込めた想いと東京でのひととき

●2年ぶりの来日ですが、久しぶりの日本はどうですか?

ジェイムス「日本に戻ってくるといつも、ハッピーな気持ちになれるよ。昨日は大阪に行ったんだけど、できるだけ早起きして、大阪城までランニングもしたし、街をとことん体験し尽くしたんだ。日本酒の醸造所見学とかね。確か創業200周年とか言っていたと思う。すっかり日本酒に詳しくなったよ。で、今日新幹線で東京に来たんけど、気が狂ったように街のあちこちを走り回っている。まずは代官山と……」

アンディ「……中目黒だね。代官山の蔦屋書店にも行ったよ」

ジェイムス「もう東京には何回も来てるから、ここだけはぜひ行っておきたいっていう場所が山ほどあるんだ」

●前回の来日はサマーソニックへの出演だったので、単独公演は6年ぶりです。今回の来日公演にはどんな気持ちでのぞんでいますか?

ジェイムス「そんなになるんだ」

アンディ「前回はコロナ前だったかな? 今回はライブのプロダクションもかなり大掛かりになって、僕たち2人なりにいろいろ考えて工夫を凝らして、照明も小道具も充実させたんだ。バンドも今までで一番規模が大きくてステージに登場するミュージシャンも増えた。それは、僕たちにとっても、来てくれるお客さんにとっても、できるだけ楽しいものにしたいっていう気持ちがあるからなんだよね。ファンからのフィードバックを見てると、みんなも心からライブを楽しんでくれていると思う」

●ライブ、楽しみにしています。このインタビューの掲載号ではダンスロックを特集します。ダンスロックに馴染みはありますか?

ジェイムス「僕たちはケミカル・ブラザーズみたいなバンドを聴いて育ってきたよ。すごくエネルギーに満ちていて、聴くだけでドキドキする。どこにいてもその場の雰囲気を一変させて、場の熱気がワンランクアップする。みんなで盛り上がって感じるものがあるところがいいと思うね」

アンディ「僕はグラストンベリー・フェスでケミカルのステージを観たけど、あれは自分が観た中だと史上最高クラスだったな。みんなすっかり我を忘れて盛り上がっていたよ。それと、僕たちのようなミュージシャンにとっても励まされるものがあるんだ。これは乱暴な言い方かもしれないけど、ダンスミュージックって、シンセやコンピューターがベースにある音楽だから、基本的にステージ上にいるミュージシャンの数は少ないよね? だから、グラストンのような大きなステージでやる時は、プロダクションをかなり大掛かりなものにしなければいけない。それがわかっているだけに、ケミカルみたいなステージを観ると、『ライブでこんなことができるんだ』って、ヒントをもらえるんだよね。ビジュアル面ですごく力が入っているから」

●では、最新作について教えてください。今作は何にインスパイアされたんですか?

アンディ「僕らのアルバムはどれも、それまで数年の自分たちの人生を振り返ったもの。僕はこの2年で子どもが2人産まれて父親になった。そういう経験が、このアルバムに反映されているのは間違いないね。『アウチ』(痛い!)っていうタイトルだから、ちょっと悲しげに聞こえるかもしれない。でも実際はむしろすごくポジティブなアルバムなんだ。表現されている感情の振れ幅も大きくて、うれしかったことがたくさん表現されていて、そこにちょっとは落ち込んだ話も入っている。でも振り返ってみても、すごくいい数年だったと、心から言えるよ。『アウチ』は個人的なエピソードを語ったものだし、未来へのメッセージも込められている。子どもたちがもう少し大きくなったら、聴いてもらいたいと思ってね」

●アルバムタイトルを『アウチ』にした理由は?

アンディ「いつも思うんだけど、ミュージシャンになって、ツアーに出てばっかりいると、気分は“大きな子ども”っていうか、成長しないんだよね。でもこの数年の間に、僕は父親になり、ジェイムスも結婚した。そういう『ああ、ひょっとしたら自分たちももう大人なのかも』と感じるようなことをいろいろとしてきたんだ。その中で、本当に向き合うのが大変な、ヘヴィーな出来事もあった。だからタイトルの『アウチ』は、『大人になるのはちょっと難しいし、大変なこともあるよ』っていうことを表現したつもりだよ。まあ、もっと大きな目で見れば、つらいことも人生の一部だし、誰もが経験することだから文句は言えないけどね」

●今作は今までのアルバムの中でも最もパーソナルな作品ということで、特に印象に残っている曲があれば教えてください。

アンディ「“デンツ・イン・ザ・ソファ”かな。僕に最初の子どもが生まれた時の大変な体験がもとになっている。子どもが生まれる時にいっときは緊急事態を知らせる赤いボタンが押されて、10人くらいの医者が病室に詰めかけたんだ。と言っても、僕は病室の壁際で見守るしかなかったし、何が起きているのか理解ができなかった。この曲はいろんなことが頭をめぐって、最悪の事態を想像している時のことを書いたんだ。『これからどうなるんだろう? 最悪のことになったら?』って、心配で仕方なくなるっていう」
ジェイムス「幸い、そうはならなかったけどね」

アンディ「すべてうまく行って本当に良かった」

●サウンド面では、金管楽器やストリングス等、多様な楽器が使われています。なぜそのようなアレンジを加えることになったんですか?

ジェイムス「アルバムを作るたびに、サウンドプロダクション的には、どうしたら他にない、ユニークなものにできるか?と考えるようにしているんだ。今回だと、“ガール・イン・ジ・オーケストラ”っていう曲ができた時に、学校のオーケストラで使うような楽器の音を入れたら面白いんじゃないか?って話になって。で、そういう音を使うなら、僕たちが自分で演奏するしかないと思ったんだ。めちゃくちゃ下手くそだからさ(笑)」

アンディ「あはは(笑)」

ジェイムス「たとえば、トランペットなんて、とてもまともに吹けない。一度もやったことがなかったからね。それで地元の楽器店に行って、今までやったことがない楽器をいろいろと買い込んだんだ。それをスタジオに持ち込んで、まるで子どもが演奏しているみたいなサウンドを作っていった。それが本当に楽しくてね。そうやって“ガール・イン・ジ・オーケストラ”ができたところで、『これをアルバムを通じたテーマにできるかも』とひらめいたんだ。それで他の曲にも金管楽器の音を入れたりして、つながりを持たせていった」

●ではその曲がアルバム全体の方向性を決めたということですか?

ジェイムス「実は学校のオーケストラの要素はレコーディングの最後の方でひらめいたんだよ。もう曲は全部できていたんだけど、オーケストラのパートを書き直したんだ。しかもアンディは2人目の子どもが産まれそうだったから、奥さんや子どもの面倒を見るのに1カ月オフをとることになって。それで、オーケストラ的な音を曲にプラスする前に、現場をあとにしてしまった。それで僕だけでスタジオに戻って、すでにレコーディングしていた曲のほとんどをやり直したんだ(笑)」

●最後に、ホンネの楽曲を通して、リスナーに届けたい思いがあれば教えてください。

アンディ「基本的に、ホンネではポジティブで明るいものを作っている。よりダークなテーマを扱った内容の曲もいくつかあるけれど、全体的には聴いていて前向きになれるアルバムにしたいと思うんだ。僕たちの曲を聴いて旅に行った気分になって、曲が終わるころには心が弾んでいる、みたいな。『アウチ』の最後の曲が“ライフ・ユー・オンリー・ゲット・ワン”(人生は一つきり)なんだけど、タイトルだけを聞くと、ちょっと不吉な感じもするよね。でもこれは基本的に『人生は一度だけなんだから、できるだけやれることをやろう、精いっぱい楽しもう』っていう曲なんだ。だから、何よりみんなに伝えたいのは、僕たちの曲を聴いて温かみを覚えたり、ノスタルジックになったりしてもらえたらいいな、ってこと。過去を振り返りつつ、未来にも前向きになってくれたらいいな」



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