ポップの前衛を探しつづけて——ステレオラブの新作は、ロックを再びインスパイアするか?!

ポップの前衛を探しつづけて——ステレオラブの新作は、ロックを再びインスパイアするか?!

ステレオラブが活動再開後初となるアルバムをリリースする。活動休止後にリリースされた『ノット・ミュージック』(2010年)が最後の作品なのでじつに15年ぶりとなるが、同作は未発表音源集であったため、オリジナルアルバムとしては『ケミカル・コーズ』(2008年)から17年ぶりだ。はっきり言って、これは事件である。

1990年代にロンドンから登場し、クラウトロック、ジャズ、ラウンジ、50〜60年代のポップス、シューゲイザー、そしてエレクトロニカをミックスする独自の音楽性によってポストロックの先駆け的な存在とされたステレオラブ。アバンポップとも評される彼らの音楽の面白さは、語義通り前衛性と大衆性の両立とせめぎ合いにあったわけだが、90年代のブリットポップに浮かれるイギリスのシーンではどこか浮いた存在でもあった。その後ポストロックが浮上した際にその先駆性が際立つことになったが、彼らはあくまで自分たちのサウンドを追求し続けた。

2000年代が終わるとともに活動を休止した彼らが再始動したのは2019年のこと。数々のフェスティバルに出演するとともに、過去作のリイシューやシングル集を発表し、その音楽が古びていないことを証明してみせた。ストリーミングサービスが一般化した現代だからこそ、ステレオラブの折衷的なサウンドは伝わりやすくなったと言えるかもしれない。そして、若い世代から発見され再評価が高まっていたところ、抜群のタイミングで新作がリリースされるというわけだ。

そして、そのアルバム『インスタント・ホログラムズ・オン・メタル・フィルム』は長年の空白を埋める新たな代表作と言える逸品に仕上がった。エレクトロニカ風の電子音から始まり、ジャズやフレンチポップなど様々なジャンルを行き来するのはまさにステレオラブの真骨頂だが、「アバン」と「ポップ」の融合はさらに洗練されている。彼らはいかにしてこの音にたどりついたのか、また、ときに「マルクス主義的」とさえ言われた彼らがいま何を見つめ、何を描いているのか。彼らがシーンに復帰した意義を、引き続き考えたい。(木津毅)


ステレオラブの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』6月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。

ポップの前衛を探しつづけて——ステレオラブの新作は、ロックを再びインスパイアするか?!
rockin'on 編集部日記の最新記事
公式SNSアカウントをフォローする

人気記事

最新ブログ

フォローする
音楽WEBメディア rockin’on.com
邦楽誌 ROCKIN’ON JAPAN
洋楽誌 rockin’on