何しろソロでのセールスが累計で5500万枚という怪物である。あまり期待しないで聴いたのだが、本人の哲学的な瞑想(迷走)が素直に音楽に反映された、面白いポップ・ミュージックになっていて、はっとした。シナトラ然とした王道キャッチーなボーカルは健在なのだが、ところどころ、不思議なほつれ方をしている。改めて「表現」という摩訶不思議な世界に迷い込んで、あれやこれやと格闘しているさまが面白い。歌詞に天竺菩提樹やキリストが登場する“ボディーズ”なんて、『聖☆おにいさん』の世界ですよぉ。
タイトルも直訳すると、つまりは「リアル世界の住人が虚構スターに殺された」ということか。幾分かの皮肉と、深い内省を込めて表現という変性意識に没入していくロビーの、男35歳にして戸惑っている感じがナイスです。難を言うならちょっと収まりが良すぎる? プロデューサーはトレヴァー・ホーンじゃないほうがよかったかもだな。(小田島久恵)