先頃にはニュー・アルバム『÷(ディバイド)』の世界同時リリース(つまり日本盤も)が3月3日とアナウンスされたところだが、それに先行して年明けにエド・シーランの新曲2曲が発表された。UKチャートでは1位・2位を記録している。まず、“キャッスル・オン・ザ・ヒル”である。この歌はビートルズで言えば“ペニー・レイン”であり、ブルース・スプリングスティーンで言えば“ザ・リバー”である。一方で、U2の“ホエア・ザ・ストリーツ・ハヴ・ノー・ネイム(約束の地)”でもあるかも知れない。心を躍らせて目指しているのだが、その記憶の中の眩いぐらいの原風景は二度と訪れることのできない場所だ。心温まる、色めき立つような望郷の念が曲調から立ち上ってくるからこそ、逆にどうしようもなく切ない一曲になっている。本当は、自分を含めて誰も彼も、何もかもが変わってしまったことに気づいているのだから。エド・シーランのストーリーテラーとしての技量が遺憾なく発揮され、しかも彼はそのストーリーテリングのスケール感に見合ったサウンドを手に入れた。約1年の活動休止期間を経て、もともと根なし草のシンガー・ソングライターとして始まったエド・シーランのキャリアは、荷物にならない胸の内の原風景を抱いて再び始まる。そのことが感動的だ。同時発売となった“シェイプ・オブ・ユー”は、恋人たちのロマンチックな物語がじわじわと高揚感を描く、エド流のチェンバー/トラップ・ソング。クラブのフロアではなくバーを舞台にしているところが実に彼らしい。(小池宏和)