さらに、さらに磨き上げられたバンドに酔った。初めて観たときから、デレク・トラックスの神業的なスライド、ギター・プレイ、スーザン・テデスキの情感豊かなボーカルに惹かれたの言うまでもないが、ナマでこそ感じたのが、大型バンド・アンサンブルの素晴らしさだった。
今回も総勢12名、2月に出たアルバム『サインズ』を持ってライブは、新作のタイトル・トラックでオープニングを飾った“サインズ、ハイ・タイムズ”で幕を開ける。
ステージ右手にコーラスやホーンの6人が陣取る迫力だけで嬉しくなるが、一つ一つの音が粒立ちながら、混ざるべきところが混ざり合うのが気持ちいい。2曲目の『メイド・アップ・マインド』からの“ドゥ・アイ・ルック・ウォリード”ではさっそくデレクの超絶スライドが挨拶変わりに飛び出す。土台にドーンとあるのは南部のグルーヴだが、細かい部分で数多くの新しい要素を加え、変化していっているのが新作アルバムでもよくわかったし、それをライブで具現化していく。
そしてこのグループのライヴのお楽しみは、何が飛び出すかわからないカバーだが、まずザ・ボックス・トップスの“ザ・レター”をスーザンがハンドマイクでジョー・コッカーのマッド・ドッグス&イングリッシュメンで決め、次にボブ・ディランの“ダウン・イン・ザ・フラッド”を男性ボーカル、マイク・マチスンがじっくりと聴かせる。
続いて、ウィリー・ネルソンの“サムバディ・ピック・アップ・マイ・ピーセズ”を今年亡くなったバンドのメンバー、コフィ・バーブリジュ(キーボード&フルート)に捧げるとスーザンが語ってから、しっとりと歌いあげ、彼女、そしてバンドの思いが会場にも広がっていった。
そして後半は、グイグイとテンションを高め、『サインズ』からの“ハイ&マイティ”や“シェイム”は、バンド全体がこの新しいレパートリーに嬉々として挑んでいるのがわかるし、誰もが待っていた“ミッドナイト・イン・ハーレム”ではじわじわと盛り上げていき、その先でくり広げられるデレクの圧巻のギター・プレイ、そこに絡んでいく豊かなホーンに100%満足しきった空気が充満する。曲として、単純に素晴らしいのだが、それが会場の反応を受けて表情豊かに変化していくのを感じられるのはナマのライブなればこそ。
大満足の観客に届けられたプレゼントが、アンコールでのゲストとしてドン・ウォズの登場だった。現ブルーノート社長で、9月に公開される映画の取材やプロモーションで来ていたそうだが、原点はベーシスト。彼が加わり弾き出されるのは、オールマン・ブラザーズ・バンドの代名詞、“ステイツボロ・ブルース”で、会場の爆発的な歓声のすごいこと。ドンの優しいベース・プレイには、彼がプロデューサーとして大物たちからの信頼を得ている秘密が垣間見えたし、何よりデレクの鬼気迫るスライド・ギターのプレイには、会場中が叩きのめされ、<スカイドッグ>(デュアン・オールマン)が降臨していたのを確認できたはずだ。
最後は“メイド・アップ・マインド”の大盛り上がりで幕となったが、サザン・ロックの正統な継承者としての頼もしい姿と同時に、ホーンも含んだビッグ・バンドが、どれほど音楽的に豊かで楽しい体験をさせてくれるものなのかを、とことん見せつけた一夜だった。(大鷹俊一)
デレク・トラックスのインタビュー記事は現在発売中の『ロッキング・オン』8月号に掲載中です。
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