amazarashi @ Zepp DiverCity TOKYO

前作から僅か半年で届けられたニュー・アルバム『ラブソング』に伴う、『amazarashi LIVE TOUR 2012 [ごめんなさい ちゃんといえるかな]』。大阪、名古屋に続く東京公演をレポート。ただし東京公演はファイナルではなく、8/10に福岡での公演を控えているため、そちらに参加予定の方は、閲覧にご注意ください。文末に掲載するセット・リストを含め、ネタバレがあります。

どうしてネタバレしてしまっても良いのだろう、と思いながら会場に足を運んだ。もちろんUSTREAMでの生放送があったし、公演終了後の会場ではセット・リストが掲示されていて、多くの人が写真に収めていた。リストがインターネット上に出回ることも承知の上で公開しているのだろう(あたりまえだ)。開演してすぐに、その理由が分かった。セット・リストを公開したところで、あるいは生放送してしまったところで、どうこうなるレヴェルのクオリティじゃないのだ。ライヴの内容が。僕は今回がamazarashiのライヴ初体験で、かなり楽しみにしていたのだけれど、そんな期待を遥かに凌ぐ圧巻のパフォーマンスであった。

雄弁な言葉数とは裏腹に、まるで赤子のようなとめどない衝動的欲求が連なる“ポエジー”によって、amazarashiの若き視界が叩き付けられ、そして新作のタイトル曲“ラブソング”へと続くオープニング。ラブソングとは何ぞやという、極めてポップで攻撃的な問いかけに、胸ぐらを掴まれるようだ。ステージは薄いヴェールで覆われ、秋田ひろむを含む5人のバンド・メンバーの表情を柔らかく包み隠しながら、同時に映像のプロジェクターとして機能する。あの“ラブソング”のハイ・クオリティなアニメーションMVが、歌の表現世界を視覚的に押し広げていった。

全15曲の演奏曲のうち、新作『ラブソング』からのナンバーは実に半分にも満たない。これまでの作品に収められた一曲一曲をリスナーがそれぞれに深く愛し、昨年、待望の初ライヴを行ったバンドとは思えないほど、ファンとの深い関わりあいを目指したセット・リストになっている。これもamazarashiならではの特異なスタンスと言えるだろう。個人的には、序盤5曲の最後に披露された“無題”(『爆弾の作り方』収録)がとても好きな一曲なので嬉しかった。ある画家と恋人の物語。この曲の歌詞に出てくる《誰もが目をそむける様な 人のあさましい本性の絵》が、一体どんな絵なのかと想像を膨らませる。例えばゴヤ作の『我が子を食らうサトゥルヌス』あたりをイメージしてみたりもするが、プロジェクターに映し出されているのはただ、空っぽの額縁だけだ。凄い。

秋田ひろむは間違いなく優れたメロディ・メイカーである。しかし一方で彼の歌には、生き難さを抱え込んだ果てしない自問自答と激しい感情の蠢きから生まれくる思いを、文学的なボキャブラリーによって描き出すという側面がある。思考と感情が言葉になり、言葉が音階とメロディを呼び込む。今後の彼のスタイルがどうなってゆくかは分からないけれど、だからこそ単なる流麗なメロディからは溢れてしまうような言葉数の歌になったりもするし、ステージでは時折、彼のポエトリー・リーディングが挟み込まれてもパフォーマンスとしての緊張感は乱れず、一貫している。

オーディエンスは、そんなパフォーマンスを固唾を飲んで見守り、神経を張り巡らせて聴き入っているから、満場のフロアが信じられないほどに静かだ。一曲を終えるたびに、誰もが我に返ったように拍手し(今回は披露されなかったけれど、“ワンルーム叙事詩”には《サイレンでふと我に返った 帰るべき我があることに驚いた》という素晴らしい歌詞があったっけ)、歓声というよりも感嘆の声が漏れる。amazarashiのこうしたスタイルが、遠回りをしながら将来見つけるかも知れない「みんなの歌」はどんなに凄いだろうと、また勝手な妄想を膨らませてしまったりもする。

公演タイトルに歌詞が引用された“アポロジー”は、泡の浮かび上がる水中で行われるようなパフォーマンスだ。ビートだけでエモーションの形をくっきりと描き出してしまうようなドラムス、ドラマティックに楽曲を彩るピアノの響き、そして歌詞がそのまま熱を帯びるような秋田ひろむの歌唱力。それらが、より多くの人々に聴かれるべきステージを形作っている。ヴェールのプロジェクターとは別に、バンド・メンバーの背後にももうひとつのスクリーンがあって、映像が2重になっているのも面白い。あれ、何か不思議な感じがしないだろうか。背面投射型のプロジェクターを使ったりしているのだろうか。

ステージに炎の柱がゆらめく“カルマ”の後は、再びポエトリー・リーディングを挟み、水面に映り込む花火を見つめながらの“隅田川”だ。儚くも美しい歌と映像。生々しい物語がエモーショナルなこと極まりない音像と共に綴られる“夏を待っていました”も圧倒的で、“ハルルソラ”にはamazarashiによる「みんなの歌」の胎動を受け止めることが出来た気がする。そしてここで、秋田ひろむの、ポエトリー・リーディング以外ではこの日初めてとなるMCが届けられる。

「どうもありがとう。amazarashiは負け組の歌だって親父に言われた、という手紙を貰いました。わいはそのとき、なんか敵が見つかったという気がして。これからも、そういうもんに抗う歌をやっていきたいです……負け組なんて、言わせないから」。遠回りだろうが何だろうが、こうと決めた生き方を見つけて歩く人に、掛けられる言葉はそう多くはない。この日のステージがまさしくそうであったように、ただ見守るだけだ。最後のポエトリー・リーディングから、万感の“ナモナキヒト”へ。無数の、男女の名前が浮かび上がる映像の中には、「ひろむ」の名も確かにあった。

演奏終了後、プロジェクターにはamazarashiのロゴ・マークが浮かび、エンディング・テーマ的に未発表の新曲が響き渡る。情景描写と強い意志の形を織り込む、これまた素晴らしい曲だ。ポップ・ミュージックはすべての人に開かれているが、価値の大きさは受け止めた人それぞれに違う。amazarashiの歌を受け止め、それを生きるためのエネルギーにすることが出来る人と、そうでない人と。果たして本当に「勝ち」を拾っているのは、どちらだろうな。なお、11/30には渋谷公会堂にて、『amazarashi LIVE 「0.7」』が開催される。(小池宏和)

SET LIST
01: ポエジー
02: ラブソング
03: ナガルナガル
04: 空っぽの空に潰される
05: 無題
06: 逃避行
07: アポロジー
08: 光、再考
09: 少年少女
10: カルマ
11: 隅田川
12: アイスクリーム
13: 夏を待っていました
14: ハルルソラ
15: ナモナキヒト
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