成長中の期待のアーティストを紹介する『ROCKIN'ON JAPAN』の「Look Up!」コーナーで、この秋Dannie Mayを取り上げた。その特集に踏み切ったきっかけのひとつがライブだった。ライブではメンバー3人の音楽にかける想いに触れることができ、楽曲のメッセージ性が一段と増していく。多彩な音楽を生み出す器用さを持ち合わせつつも人間味があって、たくさんの人にバンドそのものを愛してもらえる魅力があると確信した。
11月9日に渋谷CLUB QUATTROで行われたDannie May 2nd Album Release Tour「Magic Shower」ファイナル公演をひもとくことで、彼らがどんなバンドであるのか、Dannie Mayという「物語」を伝えたいと思う。
今回のツアー全5公演はすべて完売。そう文字にすると単なる事実に過ぎないが、マサ(Vo・G)の地元・広島と、福岡に関してはワンマンライブを行うこと自体初めてだし、Dannie Mayが最も多くステージに立ったライブハウスなのではないかと言われている大阪・心斎橋 Music Club JANUSや、ファイナルの地である渋谷CLUB QUATTROは今年3月にもワンマンライブを行っているが完売はしておらず、どちらも今回ついにソールドアウトを果たした。田中タリラ(Vo・Key)は「クアトロのフロアが両サイドにも観覧できるスペースがあるのを知らなかった」と面白おかしく話していたが、その状況から約半年で満員にできたのだと思うと感慨深い。
今年5周年を迎えたDannie Mayの音楽活動は決して順風満帆ではなく、MCでYuno(Vo・Kantoku)が「バンドを組んですぐコロナ禍になって、あんまりライブもできない中でどうやって音楽をやっていけばいいかわからなくて、数年前にはバンドが終わりかけたこともあった」と語っていた。取材時に聞いた話によると、バンドの目標を達成するための考え方の違いでマサとタリラが衝突し、初ワンマンライブを最後にタリラは本気でバンドを抜けようとしていたのだという。「でも、終わりそうになると終わりたくないと思うのが人間の性。クアトロをソールドアウトさせるのに5年かかったけど、こうして3人で立てているのはものすごく奇跡」というYunoの言葉の通り、Dannie Mayは「諦めなかったこと」の積み重ねの上で音楽を鳴らしているバンドなのだ。
Dannie Mayは、それぞれボーカルグループなどで活動をしていたけど長くは続かず、それでも音楽の道を諦めたくなかったマサが「人がいいやつら」を集めて始まった。この音楽ジャンルをやりたいとか、必要な楽器パートを補完するために集めたメンバーではない。3人に共通するのは、ただ「歌うことが好き」だということ。Dannie Mayの多くの楽曲は、1曲を3人で歌い繋いでいくことで構成されている。そして、音楽性はあえて幅広く、人生のどんな場面でもどんな気持ちにも音楽で寄り添うことを目指している。メインで作詞作曲を担当するのはマサだが、タリラやYunoが作った曲もDannie Mayの多彩な音楽を構成する一要素だ。
たとえば、アルバム『Magic Shower』収録の“肌合い”は、作詞作曲をしたタリラがひとりで歌う曲。柔らかで優しく包み込むようなバラード曲はDannie Mayの中でも彼にしか出せない味だと思う。今回のライブでは彼だけがスポットライトを浴び、白いキャンバスのような鍵盤伴奏の上に、丁寧に絵を描いていくような優しい歌声に息をのんだ。この“肌合い”のように、ひとりのボーカルにすべてを任せる曲があるのも、3人の誰が歌っても「Dannie Mayの音楽」になるというメンバー間の信頼関係があってこそだろう。タリラの演奏にそっと耳を傾けるマサとYunoの姿にもグッときた。
今回のツアーひとつとっても、Dannie Mayは「物語」に尽きない。「『Magic Shower』ツアーは、悔しいことも嬉しいこともいろんなことがありました」と振り返るマサ。名古屋公演の当日にはYunoの声が突然出なくなるというアクシデントがあり、マサが「俺らってほんとにひとりも欠けちゃいけないから」と切実な想いを口にしていたのが印象的だった。結果的にYunoはステージに立つことができたのだが、3人で歌ってこそのDannie Mayなのだと実感させられる出来事だった。
だから、「この曲は俺ひとりで歌っても完成しない。そう思って作った」とYunoが言ってクアトロにいるみんなと歌った“ハッピージャック”からは、本当に幸せなオーラが放たれていた。Yunoのメインボーカルを、ギターのマサ、サポートドラムのたいちゃんこと成瀬太智、エアベース(?)のタリラの3人が笑顔で向き合い演奏で支えている姿にも思わず顔がほころんだ。さらに2番ではYunoが上手から下手に移動し、タリラと肩を組み歌う場面も。3年前の衝突を経て、今はすごく仲のいいバンドであることは間違いないのだが、その光景を見て、これも音楽という魔法がもたらした特別な瞬間なのかもしれないと愛おしく思った。
その後の“ダンシングマニア”が盛り上がらないわけがなく、Yunoの言葉を借りると「Dannie Mayの真骨頂」のパートへ突入していく。“ダンシングマニア”もそうだが、Dannie Mayの歌詞にはどうにもならない世の中の理不尽さなど暗い部分を描いた歌詞が多い。にもかかわらず、そんな音楽を全身で浴びるライブの瞬間がこれ以上なく楽しいと感じる。ネガティブで苦しい感情からポジティブで楽しい時間を生み出すことができる。そんな音楽の力を魔法と呼ばずしてなんと表現すればいいのだろう、と思わせられるパフォーマンスだった。
“ぐーぐーぐー”で《Get or NoT》の指差しや、お決まりの《お年頃》コールをみんなでピッタリ揃えると、今度は“アストロビート”のサイドステップでフロアが一体感に包まれた。
報われない日々は夢を叶えるための通過点で、だからこれからも走り続けるのだと歌う“アストロビート”は、Dannie Mayが歩んできた道のりと重なる。こんなに明るい応援歌なのにライブで聴くたびに胸がいっぱいになるのは、彼らがどんな覚悟を持って音楽を続けているのかに想いを寄せ、自分が追いかけている夢までも一緒に重ねてしまうからだ。
ライブ終盤に披露した“コレクション”もまた、Dannie Mayの3人をそのまま表したような曲だ。この曲を歌う前、「音楽続けてるといいことあるなって思った」と言ったマサが、専門学校時代のエピソードを語り始めた。
「9年前上京してきて、専門学校に通ってて。1年いろんな勉強をして、最後にここ(クアトロ)で音楽事務所の人とかが200人くらい集まって(ライブを)見てもらう場があった。同級生はみんな20社とかたくさんオファーをもらうわけですよ。でも僕は2社しかもらえなかった。1年間、音楽を書くこととか歌うことに関してはすごく成績がよくて。でも、外から見たら俺の価値ってこんなもんかって。どうしようかなって思って、そのあと始めたのがDannie Mayで。今日、クアトロを満員にすることができました」
マサの言葉にこの日いちばん大きな拍手が沸き起こり、その手を止めないフロアに「泣かせようとしてる?」と照れながらも、さらに話を続ける。
「終わらせなかったことに勝るものはない。2社の結果が出て、チャリで中目黒から帰ったあの日々は無駄ではなかった。今日こうやって、ひとつの答え合わせができたこと、本当に嬉しく思います。僕は普通の人間なんです。特に取り立てて何ができるわけでもない。でも、こんな僕が大きくなっていくからこそ夢があると思って活動しています」──《うだつの上がんない冴えない/過去だって蹴散らして》《不器用に何千何万回だろうと/やり直せるから》という歌詞は、そんな実体験もベースになっていると思うと言葉の重みが一層増していく。
間奏では「俺たちも、絶対終わらないから。みんなにとっての大事なもの、絶対に終わらせるなよ。今日ここで約束しよう、俺たちと」とYunoが声を発した。続けることがどれだけ大変なことなのか、この日のライブでメンバーが話してくれた言葉から痛いほどに伝わってきた。“コレクション”は、Dannie Mayが必死にもがき続けてきた過去がなければ、生み出せなかった曲だと思う。悩みとか挫折とか、知らないで済むならそのほうがいいに決まってるけど、こんなにいい歌を届けてくれる「今」があるのなら、3人で音楽を続けてくれて本当によかったと、リスペクトと感謝の気持ちが心の底から込み上げてきた。
「この魔法が、どこまでもどこまでも遠くまで響きますように」──本編ラストを飾ったのは、アルバム『Magic Shower』の表題曲であり、今回のツアーのテーマソングとも言える“マジックシャワー”。Dannie Mayの音楽がこの先もっともっと広がっていくことを高らかに歌の中で宣言して本編は幕を閉じた。
フロアから自然と“コレクション”のシンガロングが巻き起こり、再びメンバーがステージに登場して届けられたのは“東京シンドローム”。《張り切り過ぎた日々のことや/散り散りになった夏のこと/僕らが起こした全てのことを/いつしか伝記にしてやろう》──Dannie Mayはたくさんの物語を背負っているバンドだから、人気者になったDannie Mayが自伝小説を書いたら絶対に面白いだろうなと、この大サビをライブで聴くたびに勝手な妄想を繰り広げてしまうのだけど、メンバー、スタッフ、ファン全員で実現させたこの満員の渋谷CLUB QUATTRO公演は、間違いなく物語の1ページに記されるだろう。
「俺たちは諦めない姿をどんどん見せ続けて、さらなる高みをまだまだ目指していきます。その姿を見て、いいなって思ってくれる人がいたら、一緒にみんなの夢を追いかけて、一緒に頑張ろうぜ」とYuno。Dannie Mayはいつも自分たちの物語をリスナーと共有しながら活動をしている。チケットが完売しなかったとか、目標が達成できなかったら包み隠さずしっかり言葉にする。だから、Dannie Mayが何かを成し遂げたとき、自分のことのように嬉しい気持ちが湧き上がってくる。この日渋谷CLUB QUATTROがソールドアウトしたことも観客は心から祝福していたし、タイアップが決まったり嬉しいお知らせがあるときは、メンバーと一緒に歓ぶファンの想いがSNSからも伝わってくる。“ふたりの暮らし”を歌う前、マサが「幸せは人と共有しないと感じられない」と口にしていたが、それはDannie Mayの活動にも当てはまっていると思った。
ここでマサが、ツアー中に制作をしていたという新曲“ラムジュート”を12月4日にリリースすることを発表。さらに来年の3月18日に6周年アニバーサリーライブ「SUPER FUTURE」の開催も告知された。周年ライブで発表したい未来のことがたくさんあって、このタイトルになったのだという。そして、「未来の曲」と言って届けられたこれからの明るい日々を歌い描くポップソング“めいびー”には大きな歓声が沸いた。
「Dannie May、もっともっと大きくなっていきましょう。頑張っていきましょう」と左右のタリラとYunoに向けて声をかけるマサ。「来年はフェスも出て、ワンマンもでかいところでやって。Zeppでやりたいって夢があるからね。みんなを連れていきたいと強く強く思っています。これからのDannie Mayをどうかよろしくお願いします!」──ラストはもちろん、Dannie Mayにとって大切な曲“御蘇 -Gosu-”。この曲はタイムカプセルになっていて、アウトロに隠された3人それぞれのボイスメッセージを、Zeppのステージで聞くことを前々から宣言している。Dannie Mayにはまだまだ回収しなくてはならない「物語」がたくさんある。
夢を追い続けるひたむきな姿が投影された歌が共感を呼び、だんだんとDannie Mayの周りに人々が集まり始めている。私はこの日のライブを観て、《いつか高く飛べよ/輝く未来へ》という“コレクション”の歌詞を、輝く未来を掴み取ったDannie May自らが歌い、ものすごく大きな説得力を手に入れてたくさんのリスナーの背中を押している姿を思い描いた。どんな映画やドラマよりもロマンのあるDannie Mayのこの先の物語を、もう1秒たりとも見逃せない。(有本早季)
●セットリスト
Dannie May ONEMAN LIVE 2nd Album Release Tour「Magic Shower」
2024.11.9 渋谷CLUB QUATTRO
01. ええじゃないか
02. 玄ノ歌
03. ゲッショク
04. 黄ノ歌
05. ふたりの暮らし
06. 強欲
07. 異形
08. 適切でいたい
09. Night Flower
~interlude
10. KAMIKAZE
11. OFFSIDE
12. 肌合い
13. ハッピージャック
14. ダンシングマニア
15. ぐーぐーぐー
16. アストロビート
17. カオカオ
18. コレクション
19. マジックシャワー
Encore
20. 東京シンドローム
21. めいびー
22. 御蘇 -Gosu-
●リリース情報
配信シングル『ラムジュート』
2024年12月4日(水)配信
●ライブ情報
Dannie May Presents「Welcome Home!」
2024年12月26日(木) 渋谷・Spotify O-nest
w/レトロリロン
Dannie May 6th Anniversary One Man Live「SUPER FUTURE」
2025年3月18日(火) 渋谷CLUB QUATTRO
提供:SKID ZERO
企画・制作:ROCKIN'ON JAPAN編集部