くるりが主催する音楽イベント「京都音楽博覧会2024 in梅小路公園」(通称「京都音博」)が10月12、13日、京都・梅小路公園芝生広場で開催された。
rockin'on.comではその2日間をそれぞれ徹底レポート! 2日目の模様をお届けする。
初日に続き、司会のFM COCOLOのDJ・野村雅夫が出演アーティストを紹介する中、くるりの岸田繁(Vo・G)、佐藤征史(B・Vo)もステージに登場し、この日出演予定だったmiletが体調不良により急遽出演がキャンセルになったことを告げる。milet本人から熱い意気込みを聞いていただけに残念だと語りつつ、「ぜひ来年の『京都音博』出演を」とエールを送るくるり。そして空白となった時間を、ダニエレ・セーペ&ギャラクティック・シンドロームとくるりの2組で「肉増し」したロングセットのステージでひと踏ん張りしたいと、タイムテーブルの変更を告知。楽屋では今まさにダニエレ・セーペらが予定外の曲を練習しているらしく、貴重なステージになることは間違いないとを告げ、「今日という1日を楽しんで! 2日目、『音博』ここに開催いたします!」と宣言。2日目が開幕した。
●SHOW-GO
2日目のトッパーを務めるのは世界的ヒューマンビートボクサーのSHOW-GO。岸田が「魔術に踊らされてください」と語っていたように、前日もその人間離れしたスキルを披露してくれたが、それは彼の才能の一片でしかなかったようだ。“Downcast -Freestyle-”、“Jasmine”と人間の発話器官だけで音を出しているとは思えない驚異的なサウンドを、たった1本のマイクで放っていく。ビートが重なっていたり、トランペットやディジュリドゥに似た音があったり、観客の中には「どこから音が出てる?」「口が2個あるんじゃない!?」とザワつく人もいるほど。「自由に楽しんでもらえたら嬉しい。マイク1本で(『京都音博』に)出れると思ってなかった。不思議な感覚」と謙遜していたが、ラスト“A Lil Bit More”では怒涛のビート、ロングブレスでしっかりと観客を踊らせ、見事な1番手を飾ってくれた。●玉井詩織(ももいろクローバーZ) feat. 武部聡志
玉井詩織 feat. 武部聡志の出演に驚いた人も多いだろう。去年発表された、武部聡志がプロデュースしたスタジオジブリのトリビュートアルバム『ジブリをうたう』の参加アーティストに名を連ねていた玉井と岸田。そのあとに行われたコンサートで共演した際に玉井のステージを岸田が絶賛。それをきっかけに今回の出演が実現したという。たくさんのタマノフ(玉井詩織のファンの呼称)の声援を受ける中、玉井はももいろクローバーZの“ROCK THE BOAT”から柔らかな歌声を響かせると、次曲“風の谷のナウシカ”ではエレクトロポップにアレンジした楽曲にアルトボイスを乗せる。ソロでの出演に緊張感を感じながらも「開放感のあるこの空間を楽しんでいきたい! せっかくお呼びいただいたので、岸田さんと歌えたら」と岸田を呼び込む。岸田は「初共演では“崖の上のポニョ”を歌ったけど、今日は“となりのトトロ”で。別のクリーチャーも歌おうかな」と“となりのトトロ”をコラボ。意外すぎるコラボはもちろん、名作映画の楽曲ということもあって、チビっ子たちが一緒に歌っているのも「京都音博」ならではの景色だろう。さらにくるり主催イベントということで、くるりの“男の子と女の子”もコラボと、貴重なステージを連発し、観客は玉井と岸田のハーモニーに心酔しきりに。たった数曲でも彼女のステージに魅せられたのか、その後のステージでは“泣くな向日葵”“走れ! -ZZ ver.-”でタマノフだけでなく、たくさんの観客がタオルを掲げてライブを楽しんでいた。
●平野和
これまで知らなかった国内外の音楽に出合えるのも「京都音博」の魅力のひとつだが、真昼の野外でまさかオペラのステージを体験できるとは。しかも平野和は現在もウィーンで活躍するバス・バリトン歌手で、その経歴も輝かしい。そんな彼がどんな楽曲を披露してくれるのか、期待高まる中1曲目にセレクトしたのは“島唄”と、まさかの選曲! さらに「岸田繁と出会って丸9年。平野和、初見参!」と、蝶ネクタイの正装で宣言すると、シューベルトの“死と乙女”、“魔王”といった初心者でも楽しめる有名曲を連投。やはり選曲は悩んだらしいが「岸田繁を楽しませたい! ほくそ笑んでほしい! さっきまでがハイライトで、ここからマイナーへ! どれか胸に引っかかれば」とキレッキレのトークで場を和ませたかと思えば、ドイツ、フランス、ロシア、英語の4ヶ国語でマーラーの交響曲やバーバーの“軍勢がこの国に”などを太くしなやかな歌声で歌唱。表現力豊かな歌唱に圧倒される中、ラストは「今いちばん好きな作曲家の曲を」と、くるりの“Remember me”を披露。くるりへの、岸田への深い愛を感じるステージに拍手喝采が送られた。●Daniele Sepe & Galactic Syndicate
ダニエレ・セーペ&ギャラクティック・シンジケートのステージは前日とはひと味もふた味も違う、濃厚なステージとなった。先述の通り、この日は急遽「肉増し」でのロングセットとなったが、そこはさすがのベテラン。アクシデントをものともしないどころか、2日目ですでに「京都音博」への「土着」を感じさせるダイナミックなサウンドで観客を踊らせていく。“Peaches En Regalia”でのスタートは前日と同じだが、ダニエレ・セーペはまるでサックスで会話をしているかのようで、合図ひとつで大所帯のバンドでもさらりとテンションを高めてしまう。ラテンのサウンドに血が躍る“Peixinhos do mar”、“Lunita Tucumana”ではダニエレ・セーペのサックスが表情豊かな音を鳴らす中、メンバーも次々に個性を打ち出したサウンドを鳴らしていく。前日のセットリストにはなかった楽曲だが、バイタリティー溢れる陽気なサウンドは観客の心を掴むのもあっという間だ。ラスト“Calabrian Tarantella”のタランテラはナポリの舞曲をアレンジしたもの。徐々にテンポが早くなる楽曲を無我夢中で追いかける観客たちをぐっと引き込んだところで前半のステージは終了。このままダニエレ・セーペ&ギャラクティック・シンジケートのステージが続くと思いきや、約20分の休憩時間が設けられた。実はこの時間、隣接する京都水族館で名物のイルカショーが開催されていて、館内の利用者の迷惑にならないよう配慮しての結果だという。これまでのステージでも転換中に開催されていたのだが、時折水しぶきが見えたり、イルカの鳴き声が聞こえてくるのも「京都音博」ならではの光景だ。
●Daniele Sepe & Galactic Syndicate & くるり
ステージ再開後は“Camel(’Na Storia)”から、くるりも加わってのセッションで観客の心を解していく。次曲は、先日発表したばかりのくるりとの新曲“La Palummella”で、ナポリ民謡を基に作られた古いオペラのアリアだ。岸田の盟友であり、翻訳家としても活動し、「京都音博」の司会も務めてきたFM COCOLOのDJ・野村雅夫の協力のもと日本語訳詞を仕上げたという。古いモチーフの楽曲ながら、多彩な音のアプローチや情感は唯一無二。さらにライブにもなると、その迫力は圧巻。岸田は「京都音博」でダニエレ・セーペらとともに音を鳴らせる喜びからか、満面の笑みを見せているのも印象的だった。●フジファブリック
「(彼らを)観れるチャンスはほぼない。目に焼き付けてもらって。歴史の生き証人になりますよ。(僕も)いちファンとして踊らされたい」(岸田)と、観客の気持ちを代弁するようにメッセージを送ったのがフジファブリックのステージ。2025年2月をもって活動休止することを発表し、今現在発表されているライブ本数も限られていることから、岸田の言葉通り、この日のステージがどれだけ貴重かがよくわかる。西日が強くステージを照らす中、今年2月にリリースしたアルバム『PORTRAIT』から“ショウ・タイム”でステージが始まる。加藤慎一(B)の中毒性あるグルーヴィーなベースライン、金澤ダイスケ(Key)の華やかなメロディがしっかりと観客を踊らせる。続く“KARAKURI”も同作からピックアップ。不穏さもポップさも加味しながら変幻自在に展開していく山内総一郎(Vo・G)のギターサウンドにワードセンスがよく映える。過去にはくるりのサポートギターを務めた時期もあった山内は学生時代からくるりが好きで、尊敬するふたりから「盟友」と語ってもらったことに感謝しつつ「くるりが大好きで、ただのファン。そんなバンドに支えてもらって、(『京都音博』に)呼んでもらって感無量。思いを込めて全力でやっていく」と意気込みを語ったのち、“LIFE”、“Feverman”へと繋げていく。最終曲を前に山内は「このステージに立てることが嬉しい。またここに戻ってくることを祈りつつ、盟友、世界でいちばんかっこいいバンド・くるりへ心を込めてバトンを渡したい」と語り、“若者のすべて”へ。今まさにこの瞬間の気持ちを代弁するような郷愁を誘うメロに涙を流す人もいて、最後の最後までじっくりと彼らの音を堪能することができた。
●くるり
2日間にわたって繰り広げられた「京都音博」もついにラスト。「くるりです。よろしくお願いします」、岸田がさらりと挨拶し1曲目“Morning Paper”へ。ダニエレ・セーペと同じく、タイムテーブルの変更により、セットリストを大幅に変更。ガツンと腹にくるバンドサウンドで一気に加速度を上げようとしたのだろうか、気合いを入れるように岸田が大きく腕を振り回す姿が目に入る。悠然とした青の照明に照らされる中、次曲はさらりとした質感の“In Your Life”へ。前日は終始にこやかな表情を見せていた岸田も、この瞬間まではぐっと真剣な眼差しを見せていて、ステージがどう展開していくのかを考え抜いていたに違いない。「ナポリから愉快な仲間を。1日で1年を過ごしたよう。もうブラザーです!」と、「京都音博」の2日間で師から盟友へと絆を深めたというダニエレ・セーペを呼び込み“Time”へ。実はこの曲も当初は予定になかった曲なのだが、驚くのはダニエレ・セーペの即興力だ。くるりバンドと息ぴったりなだけでなく、さらりとアレンジも加え、岸田に向けて「どうだ!?」と言わんばかりの表情を見せる余裕すらある。さらに「京都音博」といえばな“京都の大学生”では哀愁漂うジャジーなサウンドにダニエレ・セーペのサックスがさらに情感を高めていく。岸田もそれに煽られるように身を乗り出し熱量たっぷりに歌い、その姿に観客も思わず声を上げる。さらにストリングスとSHOW-GOも加わった“ばらの花”と“ブレーメン”はより一層贅沢で、質感のよい音に誰もが恍惚の表情を浮かべる。「京都音博」では名曲が進化する瞬間に立ち会えることも多く、岸田、佐藤のふたりも唯一無二のステージを互いに満足そうに見つめている。
「京都音博」もそろそろ終わりの時間を迎える頃、岸田は少し寂しそうな表情を見せつつ「胸がいっぱい。一期一会のステージで18年目。憧れの人に会えたり、起きることがないことが起きたり。願ってたり、思ってたら叶うんやなって思った、そんな曲を」と、“奇跡”で今まさに自らが体現している瞬間を噛みしめるように歌う。この曲もまた当初の予定にはなかった楽曲だが、この瞬間、この曲順で歌うことで誰もが忘れられないシーンとして記憶に刻まれたに違いない。ステージのハイライトはまだまだ続いていく。壮大なメロディで感情を大いに揺さぶる“潮風のアリア”ではSHOW-GO、ダニエレ・セーペが加わり前日以上に心地よく、たおやかなサウンドが描かれていく。最後に岸田は改めてダニエレ・セーペとの出会いについて語り、音楽を続けること、愛することで想いが繋がっていくと感謝の気持ちを伝える。そんな盟友の思いに、最高のステージに応えるように、ダニエレ・セーペも渾身のホーンを鳴らす。「また来年。ありがとう、くるりでした」、岸田と佐藤は集まった観客や出演者、スタッフ、そして開催に向けて協力してくれた地域の人への感謝の言葉を告げ、アンコールはやっぱり“宿はなし”で。新しい音楽との出合い、音楽への愛に満ちた2日間。来年はどんな音楽に出合えるのか今から楽しみで仕方がない。(黒田奈保子)
DAY1
提供:京都音楽博覧会2024
企画・制作:ROCKIN'ON JAPAN編集部