【インタビュー】omeme tenten、セルフタイトルの1stアルバム完成! オルタナとポップが弾け合い輝き合うバンドマジックの理由に迫る

【インタビュー】omeme tenten、セルフタイトルの1stアルバム完成! オルタナとポップが弾け合い輝き合うバンドマジックの理由に迫る - photo by Fumiya Hitomiphoto by Fumiya Hitomi
こんがらがった感情の渦を突き抜けて心に飛び込んでくる、クリスタルの如き透明度と強度を備えた灯のボーカル。そして、時にオルタナ系のアグレッシブなサウンドで、時にカラフルな包容力をもって、灯の歌声とせめぎ合い響き合うギターアンサンブル──。omeme tentenというファニーなバンド名の奥底には、ロックもポップも目映く体現する才気と、ジャンルの垣根を次々に越境する冒険心が息づいている。自身初の全国流通盤となるセルフタイトルの1stフルアルバム『omeme tenten』は、まさにそんなomeme tentenの「今」を高純度で凝縮した名盤だ。
2022年4月リリースのEP『祈りたちよ』の制作からバンド活動をスタートさせたomeme tenten。その原点は、コロナ禍の最中に灯がひとりで楽曲を紡ぎ始めたことにあったという。バンドの成り立ちからその基本構造、そして「これから」へのビジョンまで、灯とYujiのふたりにじっくり訊いた。

インタビュー=高橋智樹


灯が弾いたコードをそれぞれ耳コピして弾くんで、コードも全然合ってないことがある。でも、それも含めたバンドらしさがあるなって(Yuji)

── 去年の1stミニアルバム『The Gourd Ailand』はタワーレコード限定盤でしたけど、1stフルアルバムの今作は初の全国流通盤としてのリリースですね。

灯(G・Vo) そうですね。タワレコ限定流通だけでも北海道から沖縄まで届いてるのを見て、びっくりしました。でもまだ実感が湧かないというか。そのうえで、これはタワレコ以外にもさらに届いていくので、「どこの誰に届くんだろう?」って、めちゃくちゃ楽しみですね。「頑張れよ!」、「行ってらっしゃい!」って思います。

── (笑)。灯さんの詞や歌い方もあって、omeme tentenの楽曲はひと言ひと言が胸に迫ってくるんですけど、切迫感はあっても絶望的じゃないんですよね。「今は不安だったりつらかったりするかもしれないけど、歩んでいく先に明日は来る」的な開放感も同時に備えている、不思議な音楽だなあと以前から思っていました。それは灯さんの性格やキャラクターからくるものなんでしょうか?

 どうなんですかね? でも、音楽を作るうえで最近考えていたのは──「自分が悩んでる時にほしい言葉」を入れたいなと思っていて。「誰かに音楽を届けたい」、もちろんその気持ちもあるんですけど、自分が落ち込んでる時に聴いて、「こんな言葉があれば救われるな」みたいなものがあったらいいな、っていうのは常々考えています。今回も、特にリード曲の“POLARIS”なんかは、「自分の道標になるもの」が自分を見た時に、こう思ってくれてたらいいのにな、みたいな希望や救いを書きました。だから、自分の性格もあるのかもしれないですね。落ち込みやすい性格だし、戻りやすい性格でもあるので。明るいわけではないけど、落ち込んだ自分を俯瞰して見れるタイプではあるのかなと思いますね。

── Yujiさんは、そういう詞の内容について、何か灯さんと話すことってあります?

Yuji(G) いやあ⋯⋯基本的にはあんまりないですね。

 質問されたら話すけど⋯⋯もともと本当にただの友達から始まったので、歌詞の説明をじっくりコトコトはしゃべらないですね(笑)。逆に「自由に聴いてね」みたいなフシはあります。

── ある意味、第一のリスナーみたいな感じですね。

Yuji そうですね。僕のほうでも、歌詞からインスピレーションをもらってアレンジをしたりすることもあって、その時に「この歌詞ってこういうこと?」みたいな感じで話して。答え合わせじゃないですけど、世界観の共有をして、「ああ、そういう意味なんだ。じゃあここはこういうふうにしようかな」ってアレンジを考えたりしますね。

── アレンジに関して、ソングライターがディテールまで決める場合と、原型だけ作ってメンバーに託す場合があると思うんですけども。omeme tentenの場合はどちらが多い?

 omeme tentenの場合は、私の弾き語りが最初のデモになって、それをメンバー、サポートメンバーも含めて共有して、後日スタジオで「じゃあ、どういう解釈でやってきたのか?」をせーので突き合わせる感じですね。そこで、ああでもない、こうでもない、そこそういうふうに捉えたんだ、でも私はこうで、みたいなやりとりをして作っていきます。

Yuji 灯が家で弾き語りで録音したデモに、車の音とかも入ってることがあって──。

 救急車とかね。

Yuji でも、俺はその作り方がすごくいいと思ってて。全員、ベースならベース、ドラムならドラムの解釈があって。で、灯が弾いたコードをそれぞれが耳コピして弾くんで、コードとかも全然合ってないことがあるんですよ(笑)。でも、その「合ってない」っていうのも含めたバンドらしさがあるなと思って、そういう作り方に落ち着いてますね。

 だいぶ遠回りだよね(笑)。

Yuji 遠回りだけど、自分たちの身から出る感じというか(笑)。そこに、それぞれが肉づけすることで、最後完成するイメージですね。

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最初は、配信EPを出して終わる予定だったんですけど、配信したら誰かに聴いてほしくなっちゃって、「ライブがしたい」ってなって(灯)

── もともと灯さんはひとりで曲を書いてらっしゃって、コロナ禍の時期を経てバンドが形作られていったわけですけども。そもそも「いつかはバンドで」みたいなビジョンはあったんですか?

 それがまったくなくて。それこそコロナ禍の時期に、ものすごく暇になっちゃって、家でやれることをやり尽くして、最後にアコギを持って弾き語りでもやるか、って曲を作ったという。あまりにもコロナに生活を奪われすぎていたので、そこにフラストレーションを感じて、「1曲作って、友達と思い出作りでミュージックビデオでも撮って、それで終わろう」っていう活動だったので。最初は、バンドをやってまさかアルバムを出すまでに辿り着くとはまったく考えてなかったです。本当に趣味で、暇で、手探りで──自分が何者であるかを見失ってしまった中でできたのが“祈りたちよ”という曲で。今回再録したこの1曲が、ポンと生まれた感じでした。

── あの時期は本当に空白というか、アイデンティティ・クライシスというか、多くの人が何をしていいかわからない時間だったと思います。そこで最後に、自分を託したのが音楽だったと。

 そうですね。もう、できることを全部やりました。絵を描いてみたり、映画を観たり、本も読んでみたり⋯⋯どれもしっくりこなくて。でも、音楽だけは「これはできるかも」って思ったのは覚えてます。

── そこからバンドにはすんなり移行したんですか?

 いや、全然です。最初は本当に「友達とミュージックビデオを1曲」っていう想いだけでやっていたので。当時は彼(Yuji)はいなかったんですけど、オリジナルメンバーとやっていくうちに、「なんかやっぱり、EPとかにしてみたくね?」って。「せっかくなら⋯⋯」、「じゃあバンド名が要るよね? 考えなきゃ」となって、ほんとにノリで「omeme tentenってどう?」って(笑)。当時は配信EPを出して終わる予定だったんですけど、配信したら誰かに聴いてほしくなっちゃって、「ライブがしたい」と。ただそこで、その時のギターが「制作だけって聞いてたから⋯⋯」って抜けてしまって。それでYujiに「ライブでもやんない?」って声をかけました。

Yuji 俺はたまたま近くにいたから(笑)。

 そう(笑)。ギターが抜けた時に、たまたま思いついたのが彼で。それも本当に、「Yujiとかいいんじゃない?」みたいな感じの──。

Yuji ノリでね(笑)。ノリで誘われたから。

 半笑いで電話してましたね。「暇? バンドやんない? 音楽やんない?」みたいな(笑)。それこそ彼はもともとめちゃくちゃメロコアキッズで──。

Yuji ハイスタ(Hi-STANDARD)とかHAWAIIAN6とかを通って、昔のも含めて、全部のメロコアが好きだったんです。

 っていうイメージが強い中、omeme tentenは結構歌モノというか、女性ボーカルだし、タッチが真逆なので、「めっちゃメロコアキッズだけど、ギター弾ける仲いい子は彼ぐらいだしなあ」って。

Yuji もともと高校生の時に、オリジナルのバンドをやってたんです。高校を卒業して、そのバンドは続いてたけど、僕は当時のメンバーとは別の大学に行って⋯⋯(新しく)バンドをやってみたいなと思ってたタイミングで誘われて。「ああ、面白そうだからやってみよう」って感じで、二つ返事でOKしたので、俺もこんなことになるとは思ってなかったんですけど(笑)。

 もともと友達なのもあって、ちゃんと喧嘩とかができるのはいいなと思います。思ったことを内に秘めたり、ギスギスしたりすることは一切なく、裏表なしでお互いにやれてるのは、友達だからかなあって思いますね。

Yuji 言いたいことも普通に言ったりして、「は?」みたいな。

 それこそ「せーの」でアレンジを出してるので、「そこの解釈が違う」とか、そういう意見の食い違いはありますね。でも、それをちゃんと話し合いで解決できて、最後は「ごめん!」で終われるのが、友達だからかなあって。

── それはいいですよね。フロントマンがソングライターでもあるとなると、どうしてもその人の意見が尊重されがちですけども。

 そうですね。そういうふうにはなりたくない、と私は常々思っていて。私が作詞作曲して、歌も歌ってしまっているので、どうしても自分が主軸になってしまうのは仕方がないんですけど、「それを恐れないで」とはずっと言ってます。ひとりで始めた活動じゃないので――自分が何かをしたくて始めたわけじゃないから、みんなでやりたいとは思ってますね。


次のページ様子を窺いながらではなくて、いけるところまで一回やって「なんか違う」、「なんか違うってなんだよ!」って。そこで気を遣わずに言い合えるのが、ギリギリまでせめぎ合えるポイントだと思う(Yuji)
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