作品作りに関して、ゲーム、イラスト、マンガ、アニメとかからの影響が強い(古閑)
――古閑さんのそういう発想はどこからインスピレーションをもらうことが多いんですか?古閑 完全にゲーム脳かもしれないです(笑)。僕は、選択肢があったり、すごく伏線が張られていたり、何十年もかけてやっと何かの正体がわかるようなゲームがすごく好きで。作品がナンバリングされている『キングダム ハーツ』とか、僕らが小学生くらいの時に出てきて。それが今もまだ続いてるんですけど、それも心をテーマにした作品なんです。伏線もすごくて、結構僕は影響受けてると思うんですよね。『BE ALL LIE』の死生観は、『Life is Strange』ってゲームからの影響が強くて。選択肢で友達が死んじゃったり、時間を巻き戻す能力があったりするゲームなんですけど。ゲーム以外にも、イラスト、マンガ、アニメとかからの影響は強いですね。音楽もしかりなんですけど、セリフとかも。自分じゃない人が選び抜いた言葉が僕にとっても響くものだとしたら、たくさんの人にも残る言葉だと思いますし。
――ユアネスはそういった作品群の集合体という構造なんですね。それは昔からですか?
古閑 そうですね。でも途中から曲作りの仕方が大きく変わったんですよ。僕たち、最初は結構フワッとした曲作りをしてたんですけど、しらこさんっていうイラストレーターの方と“色の見えない少女”のミュージックビデオを一緒に作ってから、ばちっと変わったんです。元々しらこさんの『色の見えない少女』っていう同じタイトルで発表された4ページの漫画を見て、「曲を作らせてください」って連絡を取って。今の言葉でいうと、その漫画はすごくバズってた作品だったので、MVに対しての批判もあったんですけど。しらこさんがそこで感じたことを、かなりの長文で僕に伝えてくれたんですね。その時に、僕もひとりの作り手として、作品に対してしっかり考えてやっていきたいなって思ったんです。そこから、その作品でどういうことを伝えたいかをみっちり考えながら曲を書くようになりました。それまでは、もうメンバーみんなでスタジオ入って、なんとなく音出してみるけど、全然曲が生まれないことも多かったし(笑)。
黒川 僕が曲の雰囲気だけ伝えてもらって、歌詞書いてましたからね。メンバーは、僕を除いてすごくプレイヤーとしてのポテンシャルがある人たちなので、できることがすごく幅広くて、その作り方だと逆にまとまらなかったんです。そういう曲に、どういう感情の歌詞を乗せればいいか僕はわからなくて。だから、今みたいに、古閑がある程度のことを受け持って、音と歌詞がしっかり結びつくものを書くっていうのは、歌い手としても表現がしやすくて。このバンドによって、僕は人の曲を歌うのがすごく向いてるんだなって感じました。ゴールがないと走れないタイプなので(笑)。「ロックスターになりたい」みたいな感情がないからこそ、今のスタイルが向いてるのかもしれないですけど。
僕らはどんな曲でも書けたほうがいいと思っている(古閑)
――根本的な改革が起こって、古閑さんのゲーム脳でどんどん曲が作られていく状況で、坂本真綾さんに提供した『Fate/Grand Order』第2部後期オープニング主題歌の“躍動”が生まれたという流れなわけですね。古閑 “躍動”もすごく作りやすかったんです。『Fate』シリーズの世界観も知ったうえで、真綾さんの歌詞の感じもわかってるし。『Fate』からの要望もかなりあったんですけど、それも逆にやりやすくて。お題というか、何かを提示されるほうが僕は作りやすいんですね。だから、まずはコンセプトを作るところから始めるんですけど。
――“躍動”のヒットは、ユアネスにどんなフィードバックを与えましたか?
古閑 僕の作曲は一段階上にいけたかなとはすごい思います。『BE ALL LIE』のストリングスを生でやらせてもらったんですけど、その前に、“躍動”で初めて生でやらせてもらったんですね。目の前でプロのオーケストラの人たちが、スッと弾いてスッと帰って行くのを見て、「ヤバい!」って思って。あとアレンジの要望のやり取りの中で、コード進行とかも改めて勉強したりして、そういう部分でも成長できましたね。専門学校で勉強はしてたので、ある程度知識は持ってたんですけど、今の音楽シーンに対応するためだったり、作品の世界観を広げるためだったりの知識をつける機会になったと思っています。『BE ALL LIE』を改めて聴いても、その経験によって、コードのアプローチがバンドサウンドっていうよりは、ゲーム音楽やアニソン寄りになってきた実感もありますね。
黒川 ユアネスは歌をいちばん前に出しているバンドですけど、やっぱりメンバーの楽器のポテンシャルがすごくあるバンドで。僕はいちばん近くで見たり聴いたりしてるからそれを知ってるわけですけど、“躍動”で各々のポテンシャルを改めてわかって。ライブとかじゃないと、楽器のすごさになかなか気付けないと思うんですよね。でも『Fate』の力もあって、音源で多くの人にそれが届けられた。それを経て、『BE ALL LIE』っていう自分たちの作品に活かせたのは、僕はすごく嬉しかったし、これからのことも含めてワクワクしましたね。
――古閑さんが本来持っているポテンシャルが最大限活きる方向にどんどん進んで、ユアネスがバンドの枠組みを越えたおもしろい存在になっていってる。自分としてはこういうことがやりたかったっていう実感はあるんですか?
古閑 ありますね。特に、アニメの『イエスタデイをうたって』の主題歌として“籠の中に鳥”って曲を書きおろさせてもらった時は、僕らの音楽ってこういうアプローチがすごく向いてるのかなって思いました。作品の世界感を広げる音楽のあり方だったり。「このバンドはこういう曲だ」っていうイメージがバンドにはあったりしますけど、僕らはどんな曲でも書けたほうがいいと思っていて。だから、同じような曲はあまり書かないようにしてるし、その時その時のシーンの流れを感じさせるようなサウンド感をどんどん出していって、地道に成長し続けられればと思ってますね。