「始める」ことから逃げない
『Chime』からもう2年も経つのか。sumikaにもいろいろあったし、僕らは僕らでいろいろな時間を過ごしてきた。前作の最後に収められた “Familia”で片岡は《世界中変わり果てても/変わらないBelieve Me》と歌っていたけれど、その時はまさか本当に世界がこうも変わり果てるなんて、誰も思ってもいなかったろう。でも、sumikaの歌の揺るぎなさ、日常と人間を全力で肯定し続ける強さは相変わらずだ。変わらないわけがないと思いながらも「お変わりありませんか」と書く手紙のように、sumikaはまたしても笑顔で手を振ってくる。《ここからがサビだよ/まだまだイントロ/ヨーイドン》と背中を押す“Lamp”のメッセージが彼らの哲学であり、《晴れのち雨になってもゆく/傘差す気はないから》という“祝祭”がこのバンドの基本姿勢だからだ。半分が既発曲という構成になっているが、そのことがどんなシチュエーション、どんな季節にあっても彼らがいちばん大事なことから目をそらすことなく音楽にし続けてきたことの証明になっている。“本音”や“Happy Birthday”のシンプルきわまりないサビの歌詞には、どんどんメッセージを研ぎ澄ませていくsumikaの今が表れていると思う。2020年、ライブができない状況下にありながらも、sumikaは立ち止まることなくアクションし続けていた。それができたのは、彼らにとってそのアクションが「特別」でもなんでもなかったからなのだろう。困難も傷も当たり前。「それでもまた始めようぜ」と、このアルバムは何度も何度も伝えてくる。それこそが音楽の存在意義だし、彼らが鳴らすべきものだからだ。「失音楽症」を意味する言葉であると同時に、「ひとつの音楽」とも読める『AMUSIC』というタイトルから、そこに対する決然とした態度を感じる。(小川智宏)
最高に心地いいポップの傑作
“イコール” “絶叫セレナーデ” “本音”、そして新曲の“祝祭”など、2ndアルバム『Chime』以降の数々のタイアップ曲を並べてみるだけでも、この2年間のsumikaの活動がいかに濃密であったか、また彼らのポップがいかにさらなる滋味を携えてきたかがよくわかる。その自由自在なポップセンスは1stアルバム『Familia』の頃から群を抜くものだが、今作では、彼らのポップミュージックがより自由に、より洗練度を増して、バンドサウンドと歌声は驚くほどコンフォータブルに響く。収録された数多くのタイアップ曲のみならず、初めて耳にする新曲たちを聴くにつけ、その認識はより強くなる。アレンジの遊びや細部のニュアンスなど、何度聴き込んでも新たな発見が得られるような、隙のない、それでいて肩肘張らずに耳を預けることができるポップの理想形のひとつが、ここに示されている。まず1曲目“Lamp”のアイリッシュな小気味のいいサウンドでめくるめくポップワールドへと誘うと、楽曲はそれぞれに様々な景色を見せていく。なかでも、荒井智之作曲の“Jamaica Dynamite”は見事だ。エレクトロサウンドにネオソウル的なグルーヴを内包させながら、時代も国境も越えたsumikaならではのファンタジー感を醸し出す。しかも、それが洗練された大人のポップミュージックとして粋な佇まいを見せながら。また、“惰星のマーチ”はテンポ感のいいソウルのフィールをまとったsumikaの得意とするバンドサウンドの素晴らしいアップデートだ。黒田隼之介作曲の“アルル”もまた、sumika流の日常に寄り添うポップソングとして、「今」こそ必要な歌。ポップの普遍性を追求し、リスナーの日常に寄り添い続けながら、全力で音楽を遊ぶ――そんなsumikaの真髄を存分に味わえるポップの傑作だ。(杉浦美恵)
(『ROCKIN'ON JAPAN』2021年4月号より)
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