突然、届けられたイギー・ポップの新作『Free』リリース(9月6日発売)のニュースだが、これまで彼が作ってきたどんなアルバムとも違い、それでいてとても挑戦的なものとなっている。クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジのジョシュ・オム等と作った16年の『ポスト・ポップ・ディプレッション』は、新旧ファンの歓喜を受け大ヒットしただけに、その続編的なものでもやりそうだが、さすがイギー、まったく違ったアプローチで、表面的には激しいサウンドもボーカルも殆どないが、聴けば聴くほど本質的なスリルが渦巻いている。
非常に内省的なテーマが瞑想的なサウンドで展開されるが、重要なのは詩でイギー自作もあれば、ルー・リードが72年に書いたものや、ボブ・ディランの名のネタ元であり多くの信奉者を持つ詩人ディラン・トマスの、映画『インターステラー』でも使われた著名詩があったりと、非常にバラエティに富んでいる。トラックによってはフリー・ジャズによくあるポエトリー・リーディング的なのもあるが、インプロビゼーションとボーカリゼーションの拮抗した世界をロック的に、とイギーはどこかで思っていたのだろう。
今回、その重要なパートナーとなったのが、「Post Pop Depression Tour」のオープニングに起用されたニューヨークをベースにする女性ギタリスト、Sarah LipstateのプロジェクトであるNovellerと、ジャズ・トランペッターでBilal等ともやっているマルチ・アーティストのLeron Thomasで、この二人がサウンド・メイク、およびプロデュースを担当している(Leronはソングライティングの部分でも重要な役割を担った)。
イギー自身「このアルバムは、他のアーティストが俺に変わって表現したものなんだ…俺は、ただ声を貸しただけなんだ」と発言しているが、声の存在感と表現力で、どこまで詩やサウンドと合わさり、深いところに到達できるのかを追究した試みだ。
とはいっても先行発表された“James Bond”のように、映画『007』のテーマをモチーフにした脱力系のナンバーもあったりして、バラエティにも富み楽しめる。そんななかで圧巻は、ディラン・トマスが死の床にいる父親に向かって書いたと言われる<死滅してゆく光りに向かって、怒り狂え、怒り狂え>と激烈な言葉を投げかける詩をイギーが、まるで自身にむち打つように語るトラックで、これには感動させられた。
お楽しみはこれからだぜ、とのイギーからのメッセージを聴くかのような新作だ。(大鷹俊一)
●リリース情報
イギー・ポップ 『Free』
2019.9.6 on sale
国内盤:UICB-1002/¥2,500+税
1. Free
2. Loves Missing
3. Sonali
4. James Bond
5. Dirty Sanchez
6. Glow In The Dark
7. Page
8. We Are The People
9. Do Not Go Gentle Into That Good Night
10. The Dawn