カニエ・ウェストが長い間引っ張ってきた新作『DONDA』をとうとう発売した。こちら。
https://songwhip.com/kanye-west/donda
また8月26日にシカゴのソルジャー・フィールドで行った3回目のリスニング・パーティで、最後にバレンシアガのウェディング・ドレスで登場したキム・カーダシアンが、“Come To Life”の映像を公開している。
個人的には、赤いキャップをかぶってホワイトハウスに行った頃から時間も経過し、気を持ち直してこの新作を聴けると思っていた。が、3回目のリスニング・パーティでなんとマリリン・マンソンが登場。気持ちが落ちた。
ご存知のように元婚約者のエヴァン・レイチェル・ウッドが19歳でマンソンが38歳の時から虐待されていたと告白した他、今年7月の段階で元恋人も含めた4人の女性がレイプなどで訴えている。加えて、フィービー・ブリジャーズやウルフ・アリスのエリー・ロウゼルまでがマンソンとの嫌な思い出を告白している。マンソンは、全否定していて、まだ決着が付いていない。
https://www.bbc.com/news/entertainment-arts-57685153
エヴァン・レイチェル・ウッドはマンソンが登場した直後のライブで、ニュー・ラディカルズの“You Get What You Give”をカバーし、《マリリン・マンソン》という歌詞のところので中指を立てている。インスタでその映像を公開し、「今週侮辱を受けて(虐待から)サバイバルした人たちへ。アイ・ラブ・ユー。諦めないで」とコメントしている。
カニエはマンソンと一緒に、最近AIDSに関する誤解やゲイ差別をする発言をしてフェスを次々に降板させられたダベイビーも登場させた。アルバムのクレジットを見たら、マンソンは、“Jail”と“Jail pt 2”の2曲に名前があり、ダベイビーは、“~pt 2”でクレジットがあり、ラップしている。
マンソンは、“~pt 2”の方で、《人間はみんな嘘つきだ》《今夜刑務所に行くのは誰だ?》とカニエと一緒に歌っている。
色々な記事を読むと、この2人の登場はキャンセルカルチャーに対するカニエなりのコメントなんだろうと書かれていた。
ビリー・アイリッシュが、“Your Power”を発表した時に、「これは、私だけの体験じゃない。力がある男性による女性への虐待は世界中で起きている。それに我慢できなかった」と言っていたのを思い出さずにいられない。
実は、個人的には気を取り直していたばかりか、2回目のリスニング・パーティを観にアトランタまで行き、カニエが昇天していく様に感動していたくらいだった。だから、かなりガッカリした。
アルバムはまだ発表されたばかりなので、レビュー数は少ないが、現時点では、あまり良いレビューはない。
https://www.albumoftheyear.org/album/262792-kanye-west-donda.php
しかし、そんなこととは関係なく、いくつもの記録を樹立している。
1. Spotify:なんとオリヴィア・ロドリゴの記録を抜いて2021年に24時間で最もストリームされたアルバムに。まじで!?
2. Apple Music : 数々の新記録を樹立。
a)3回行われたアップル・ミュージックでのリスニング・パーティのライブ・ストリーム数がアップル・ミュージック史上最高で、しかも毎回記録更新した。
1回目320万ビュー
2回目540万ビュー
3回目590万ビュー
b)発表から24時間で152ヶ国で1位。アップル史上最高を記録。
c)発表から24時間でアメリカでは6000万回ストリーム。今年最高を記録。
つまり、引っ張って待たせた効果と、マンソンやダベイビーの登場によるお得意のコントラバーシャル、さらに離婚手続き中と思われていたキム・カーダシアンがウェディング・ドレスで登場。またアルバムを出してすぐに、「許可してないのに、ユニバーサルが勝手にアルバムを出した。“Jail pt 2”をアルバムに収録しないようにした」とインスタしていた。話題作りにかけても天下一品で、おかげでさらに注目を浴びて大成功した。
その他、相変わらずグッズのセンスも抜群で、私が行ったアトランタのリスニング・パーティではなんと会場で約7億7000万円もの売り上げを記録。これは会場となったメルセデス・ベンツ・スタジアムで史上最高記録だったそう。
https://www.instagram.com/p/CSdCI0tsfC3/
バレンシアガとのコラボによるグッズもすでに発売されている。一番安くてもキャップで$60。これは前からのカニエの賢いところだけど、アルバム1枚だと$10なわけで、単純に換算できないしろ、ファンは1回で6倍も使っていることになる。
https://shop.kanyewest.com/
また、ステム・プレイヤーなる聴いたこともないものも$200で発売した。これはマンソン前だったので、実は急いで買ってしまった。
3回のリスニングでのセットや演出も最高だったし、イノベイティブであるところと、ファッション・センスは健全だ。個人的には、リスニング・パーティを観た限りでは、少し長いのでもう少し編集してそれぞれの完成度を上げればもっと良い作品になったのに、と思った。しかし、いくつもの記録樹立を見る限りでは、少数派の意見だろう。
カニエがリスニング・パーティでも着ていたGapとのコラボによる$200のジャケットも予約で即完売。最近では、CNNなどもカニエがGapを救えるかもと報道していた。
シカゴで行われたリスニング・セッションはアップル・ミュージックで明日にでも再び配信されるという噂もある。
あ、そう言えば、個人的に今回びっくりしたこと。アルバムが出る前に、ジャック・ドーシーが、「この制作過程を全て発表すればいい」とツイートしていたので、「パブロの時やってたよね」と思わず返したら、なんと即コメントが返ってきたのだ! 「そうだったね。あれは最高だったよね」と。カニエについてジャック・ドーシーと会話(?)するなんて(笑)! ちゃんとツイート読んでるんだね。
カニエは、演出も、パフォーマンスも、グッズも、話題作りも、全てにおいていまだずば抜けた才能を発揮しているし、強烈に世界に求められている。ただ残念ながら、私には、アルバムだけが未完成に聴こえる。私とジャック・ドーシーのツイートを参考にして(笑)、『ザ・ライフ・オブ・パブロ』の時のように、すでに配信したアルバムをこれからどんどん編集してくれたらいいのにと思う。
『ロッキング・オン』最新号のご購入は、以下のリンク先より。
ロッキング・オン10月号は、9月7日発売です。ご購入は、お近くの書店または以下のリンク先より【予約購入できます】