あまりに2021年的な体験だった。8月21日にNYでコロナ後の街の復活を祝い、6万人をセントラル・パークに集めて、盛大なフリー・コンサート『We Love NYC: The Homecoming Concert』が行われた。しかし!無事に始まったのだが、ザ・キラーズも、ブルース・スプリングスティーンとパティ・スミスの共演による“Because the Night”も、そしてポール・サイモンのライブを観られないまま、半ばくらいで雷が落ちて、ハリケーンの接近により大雨となり、中止になってしまったのだ(涙)。なんと2021年を象徴するような出来事だったんだろうか。
希望に満ちているはずのイベントが、衝撃的に中断。まるでまだコロナは収束していなんだ、祝ってる場合か、と告げられているような気持ちになった。
もともとこのイベントが発表されたのは6月始めで、NYではコロナが収束し始めたばかりか、大人が1回でもワクチンを接種した率が70%を越えようという時だった。それから間もなく、実際70%に達成した時には花火も上げたし、6月の終わりには、フー・ファイターズから、ブルース・スプリングスティーン、ザ・ストロークスまでが15ヶ月ぶりにライブを行ったくらいだった。NYは希望でいっぱいだった。
しかし!その後デルタ変種株が急激に拡大し、事態が豹変した。
今回のイベントも、当初は、ワクチン接種者か事前の検査で陰性だった人のみが入れるものだったが、当日までにはワクチン接種者のみに変更された。実際入り口では、ワクチン接種カードとIDを見せてからの入場となった。アルコールは売られていなかったが、中に入れば、ソーシャルディスタンスもなしで、歓声も上げて良いし、マスク着用も必須ではなかった。しかし、デルタ変種株の猛威に、このイベントでクラスターが起きるのではと批判している人たちもいた。私は幸いプレスパスをもらってスムーズに中に入れたが、入ってくるまでに混む箇所などもあり、みんなワクチン接種していても、これじゃクラスターが起きると帰る人たちも見かけた。
しかしコンサートは、とりあえず開催された。
もちろんセントラル・パークの広大な芝生の上で音楽が聴けるのは、最高に気持ちが良い。
ここでいくつかのパフォーマンスが見られる。
https://www.cnn.com/videos/entertainment/2021/08/22/barry-manilow-anderson-cooper-new-york-homecoming-concert-vpx.cnn/video/playlists/we-love-nyc-the-homecoming-concert/
NY出身のクライヴ・デイヴィスがキューレーションしたライブでは、アース・ウィンド・アンド・ファイアーが、ベイビーフェイスと共演で“September”を歌い、カルロス・サンタナがワイクリフ・ジーンと“Maria Maria”で共演し、“Smooth”ではロブ・トーマスも登場したことも話題になった。
アンドレア・ボッチチェリに、現在アメリカでは、アレサ・フランクリンを演じた『リスペクト』が話題のジェニファー・ハドソンがNYフィルとプッチーニのオペラ“Nessun Dorma”を熱唱。ジャーニーは“Don’t Stop Believin’”、LL Cool Jは、“Mama Said Kncok You Out”を、今回のラインアップではとりわけ若いPolo Gも “RAPSTAR”を披露と、各アーティストが惜しみなくヒット曲を披露した豪華な内容ではあったのだ。
が、なんとバニー・マニロウが“Copacabana”などをやり、3曲目、“Can’t Smile Without You”を演奏している最中に、場内アナウンスがあった。映像はこのガーディアン紙のサイトで見れる。
「天候が危険なため、全員外に出てください」と。
翌日の日曜日にハリケーンが接近する予定ではあったが、この日は1時間くらい雨がぱらつく予報だったのだ。それが急激に悪化し、しかも雷も落ちた。ただ当初は、再開するかもともアナウンスされていたので、私も近くで待機していた。が、結局キャンセルになった。
結局、その前の日に観客を入れての初のライブを行い準備万端だったザ・キラーズも、パティ・スミスとの共演が楽しみだったブルース・スプリングスティーンも、何より最大の目玉にしてかつては歴史的なセントラル・パークのフリーコンサートを行ったポール・サイモンも観られないで終わった(涙)。
https://twitter.com/PaulSimonMusic/status/1426968494751551488
コンサートは10時に終了の予定だったがクライヴ・デイヴィスは、当初10時に再開を目指していた。待っている間にザ・キラーズが楽屋から“Mr. Brightside”をパフォーマンス。
https://twitter.com/Launerts/status/1429263429240508420
前日のリハーサル風景。
セントラル・パーク外で待機していたパティ・スミスがCNNのインタビューに答えている。彼女は、CNNが放送するイベントだったので、世界にむけて音楽で語りたいことがあった、と言っている。
「私たちはまだ世界的な感染症のパンデミックの最中にあり、さらに地球環境のパンデミックの最中でもあると伝えたかった。このイベントは祝祭ではあるけど、その事態を認識してもらうのは非常に重要なことだと思った。本来は祝祭のイベントであったわけだけど、今祝福することは何なのか? 本当に祝福することなんてできないと思っていた。世界中で火事が起きているし、洪水が起きているし、ハイチでは地震が起きて、カブール陥落があった。
そして、デルタ変種株は、急速に拡大している。
ありがたいことに多くの人たちがワクチン接種をしているので、重症になることないと分かっている。だけど、こう言ったことは実際に起きていることだ。
だから私たちはここで何を祝っているのか?
私にとっては、それが自分自身に問いかけた疑問だった。そして自分なりのその回答は、私たち一人一人に、生命力があり、心があり、反骨精神があること。そして変化を起こせる可能性を持っていること。それが今夜私が思っていたことだった。それを今ここで話せて嬉しい」
さらに、コロナ禍になって以来1年以上もの間に絶望したことはあるか?と訊かれて、
「私たちには、十分な知識を持っているはずだから、解決の道を見つけて、リセットできるはずだと思っていた。そして一人一人が目先のことだけではなくて、世界を見て、世界が本当に危機にあるということ、感染症のみならず地球温暖化についても危機にあることを自覚して努力しなくてはいけないと思っていた」
「物事は絶対にかつてのようには戻らない。だから、一人一人が犠牲を払い、一歩下がって、新しい世界と対峙しなくてはいけないと思う。自分が犠牲を払い、変化とともに、その新しい世界と対峙していくことに協力しなくてはいけないと思う」
パティ・スミスは、この日、“People Have The Power”と、“Land”の歌詞を地球環境問題に変えて歌い、また“Because of the Night”をスプリングスティーンと共演する予定だった。
「世界中の人たちが葛藤している中で、音楽が人々を団結させたり、インスピレーションを与えることができたかもしれない夜だった」だから(パフォーマンスできなかったら)「すごく残念だけど」「ある意味、自然が支配力を持っている、ということを象徴しているとも思った。私たちはその自然を破壊し、今自然はカオスとなり、予想不可能というところまで追い込んでいる」
「私は今日NYのスピリットというよりも、どんな最悪の時でも私達が失うことがない、世界中の人間のスピリットを祝福したかった。今日は満月だからそれに敬礼して、どうなるのか見届けたいと思う」と。彼女が語った後に、キャンセルが正式に発表された。
パティ・スミスがInstagramでも上で語ったことを詩にして書き記している。
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