すでにその声を耳にしている人は多いと思う。自分のSNSを遡ると「心惹かれる歌と出会ってしまった」とポストしていたのが昨年6月。《EyeとEyeが合ったの/気のせいじゃないよね》という歌は瞬く間に国境も超えた。その名は、冨岡愛。
4歳から15歳までオーストラリアで暮らしていた彼女は中2の頃にギターを始め、テイラー・スウィフトの楽曲を弾きまくった。高2で作詞作曲をスタート。2021年には、優里が審査員を務めたオーディションで優勝したことを機に彼が書き下ろした“ラプンツェル”をリリース。そして昨年、冒頭で紹介した“グッバイバイ”がバイラルヒットとなり、最近もENHYPENがコンサートでカバーを披露、韓国での初ワンマンライブはソールドアウトを記録するなど、国内に限らず韓国を中心にアジア全体で広がりを見せている。
“グッバイバイ”は、彼女の中にあった「J-POPとはかくあるべき」という思い込みをほどいて作った一曲だった。メロディは動きすぎず、ここぞというところでグッと高音を生かす。サビは大胆にも英語始まり(その発音は当然パーフェクト)。そして細部までこだわったというビートの質感が絶妙で、これが海外リスナーの耳を掴むことができた要因のひとつではないかと私は思っている。
2月リリースの“恋する惑星「アナタ」”も着実に広がっている中で発表されたのは、他者への嫉妬心を綴った新曲“ジェラシー”。《持ってるもので勝負しなさい/そんな綺麗事で幸せに/なれるなら苦労なんてしないわ》など、現代を生きる私たちが言いたくても言えなかった言葉が並ぶ。この曲でも英語と日本語を面白く交ぜていて、意味とともに心地いい音として耳に入ってくるし、《メロディー キラーマシーン》などの言い回しは妙に言いたくもなる。
「音楽に国境はない」という常套句が実際に現実味を帯びてきた今、世界に届く新しい形のJ-POPを作り始めているのが、冨岡愛だ。「応援歌を作りたい」とはっきりと語る彼女は、世界中の人にとって憧れでありお守りでもあるアーティストを目指して駆け上がっていく。
文=矢島由佳子
(『ROCKIN'ON JAPAN』2024年9月号より抜粋)
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【JAPAN最新号】冨岡愛、国境を超えるポップソング、ここに誕生
2024.08.02 12:00