サカナクション/all pics by 橋本 塁(SOUND SHOOTER)ビクターエンタテインメントが主催するロックフェスティバル「ビクターロック祭り~音楽の嵐~」が2月22日、幕張メッセ国際展示場で華々しく開催された。出演するのは、所属アーティストであるSPECIAL OTHERS/家入レオ/THE BACK HORN/Cocco/サンボマスター/THE BAWDIES/くるり/Dragon Ash/サカナクションの9組(出演順)。ここまで大きなイベントをビクターが主催するのは初めてのことだけど、これだけ大きな会場で、これだけのラインナップを揃えられるというのは、さすが日本のロックシーンを長らく支えてきた老舗レコード会社の成せる技といったところだ。ビクターのトレードマークであるニッパー犬の特大オブジェが飲食エリアにどーんと構え、老若男女多くのロックファンが集った場内には、開演時刻の12時を前にして並々ならぬ期待感と熱気が立ち込めている。
■SPECIAL OTHERS
SPECIAL OTHERS
SPECIAL OTHERS所属アーティストのプロモーション映像が流れていたステージ左右のビジョンに「3、2、1」のカウントダウンが映し出され、「ビクターロック祭り」のロゴを背面に記した青いスタッフ用ハッピを羽織って登場したのはSPECIAL OTHERS。軽い音鳴らしを経て“PB”へ雪崩れ込むと、4つの音が押し引きを繰り返しながら緻密に絡み合っていくアンサンブルが、広い会場の隅々まで沁みわたっていく。芹澤 "REMI" 優真の印象的なオルガンのフレーズで幕を開ける“AIMS”では、イントロから大歓声とハンドクラップが沸き起こり、眩い高揚感に包まれるフロア。続く“Uncle John”では陽だまりのようなサウンドスケープを描き出し、スペアザならではの、極上の祝祭感とチアフルなムードがみるみるうちに色濃くなっていく。MCでは自分たちの好きなように音楽をやらせてくれているビクターへの感謝の気持ちを述べた後、宮原 "TOYIN" 良太(Dr):「デビュー曲の“IDOL”。最初こんな長い曲がメジャー・デビュー曲でいいのかな?って思ってさ」→芹澤:「でも逆に伸ばせって言われたんだよね。伸ばすことがこの曲の良さだって。こんないい会社は他にないよ」というやり取りを経てラスト“IDOL”へ。終盤に向けて徐々に熱を帯びていく10分近くに及ぶインプロビゼーションで会場全体をカタルシスへと導いて、イベントのオープニングを華々しく飾ってみせた。
1. PB
2. AIMS
3. Uncle John
4. IDOL
■家入レオ
家入レオ
家入レオ燦々と降り注ぐような歌声を“太陽の女神”で響かせて、会場に清らかな風を吹き込んでみせたのは家入レオ。「大人になることを決意して作った曲です」と披露された2月19日にリリースしたばかりの2ndアルバムの表題曲“a boy”では、キッと前を見据えた鋭い眼差しとともに凛とした歌声を届けていく。音楽の道を志して16歳で単身上京、ひたむきに音楽に身を捧げてきた彼女。その熱い思いが、迷いのない歌となって聴き手の心にまっすぐと突き刺さっていくさまには、得も言われぬ感動があった。その後は燃え上がるようなバンドサウンドを背に、ラウドなナンバーを叩きつけていく彼女。「みんな、もっと盛り上がっていける? まだ元気が足りないよ! もっともっと手を上げて!」と果敢にフロアを煽りながら、華奢な身体を躍動させてエモーションを爆発させていく姿もまた、彼女の音楽に対する熱い闘志をダイレクトに映し出しているように思える。そしてラストはデビュー曲“サブリナ”。溌剌とした歌声とともにフロアの大ジャンプを導いて、弱冠19歳とは思えない堂々たるパフォーマンスででっかい高揚感を生み出してみせた。
1. 太陽の女神
2. Shine
3. a boy
4. Who’s that
5. Bless you
6. Linda
7. PaPa&Mama
8.サブリナ
■THE BACK HORN
THE BACK HORN
THE BACK HORN勇壮なSEに乗って登場、2月19日にリリースされたばかりの新曲“コワレモノ”の地の底から噴き上がるような歌と音で会場に戦慄を走らせたのは、THE BACK HORN。そのまま“声”“罠”と畳み掛けると、フロアの前方ではけたたましいコールが勃発。メンバーとオーディエンスが激情を燃やし合いながら快楽の極地へ上り詰めていくような、鬼気迫る共犯関係が築き上げられていく。中盤の“シリウス”“バトルイマ”では、テンポチェンジや転調に富んだ複雑な曲展開を見事なチームワークで演奏してみせ、昨年で結成15周年を迎えて円熟期に達したバンドの「今」を見せつけていく彼ら。「結成15年。バンドだけでも活動できなかったと思うし、ビクターと一緒にいろんなアイデアや思いを分かち合いながらここまできました。いろんな音楽やバンドの形があると思うけど、結局は信頼関係だと思うから。今日バックホーンの音楽を聴いて少しでも信頼できると思ったなら、僕らを信じて欲しいなと思います」という松田晋二(Dr)のMCも、重みを持って胸に響く。そんな松田の高らかなマーチング・ドラムが轟く新曲“シンメトリー”で煌びやかな祝祭感を生み出した後は、“コバルトブルー”“刃”をアグレッシヴに叩きつけて終了。まさに生きることへの渇望感を剥き出しにしたような全身全霊のステージは、「信頼できるバンドのアクト」としてオーディエンスの心の中にしっかりと刻み込まれたはずだ。
1. コワレモノ
2. 声
3. 罠
4. シリウス
5. バトルイマ
6. シンメトリー
7. コバルトブルー
8. 刃
■Cocco
Cocco
Coccoそして――。万雷の拍手に迎えられ、根岸孝旨(B)/椎野恭一(Dr)/堀江博久(Key)/藤田顕(G)のバンドメンバーに続いてステージに現れたのはCocco! 舞台やイベントへの出演はあったものの、ライヴとしては実に2年4カ月ぶりのステージだ。目の覚めるようなコバルトブルーのドレスを纏ったCocco、「沖縄の海に、辺野古のジュゴンに捧げます」と歌い出したのは、3月12日にリリースされる約3年半ぶりの新作『パ・ド・ブレ』に収録された“ありとあらゆる力の限り”。裸足でステージを踏みしめながら上体を大きく揺り動かすお馴染みのスタイルで、あの、母なる大地のようにたおやかで慈愛に満ちた歌声を会場いっぱいに届けていく。“強く儚い者たち”で緩やかな横揺れを生み出した後は、天に向かって何度も腕を突き上げながら“夢見鳥”を熱唱。その歌声と動きのひとつひとつが切実で、思わず目頭が熱くなる。“ドロリーナ・ジルゼ”の間奏では、マイクを置いてバレリーナのように華麗な舞いも披露。ラスト“樹海の糸”を情感たっぷりに歌い上げると、「ありがとう!」とフロアに手を振り、根岸とハグを交わし、最後はバンドメンバーとともに手を取り合いながら一礼して充実感に満ちた笑顔を弾けさせた。久しぶりのステージにもかかわらず、魂に訴えかける歌とパフォーマンスの力を燦然たる輝きでもって見せつけたCocco。類まれなる歌い手による、類まれなるアクトだった。
1. ありとあらゆる力の限り
2. 強く儚い者たち
3. 夢見鳥
4. ドロリーナ・ジルゼ
5. 樹海の糸
■サンボマスター
サンボマスター
サンボマスター「お前ら準備いいかコノヤロー! 俺たちビクターに来て日が浅い。だけどビクターの人たちが安月給でいかに頑張っているか知ってるんだよ。だから俺らもビクター始まって以来の無茶苦茶なロックやってもいいですかぁーー!」という山口隆(Vo/G)の絶叫で、いきなり場内を沸騰させてしまったのはサンボマスター。そのまま“世界をかえさせておくれよ”“ミラクルをキミとおこしたいんです”を連打すると、すっかり興奮したオーディエンスによる一斉のハイジャンプが幕張メッセを襲撃する。その演奏中も「体力温存してんじゃねぇぞ、コノヤロー!」「宇宙一のロックやりましょう!」などと果敢に煽り立てていた山口、「何度も言いたくねぇけどビクターはみんな安月給なんだ。特に山上ってヤツは一番安い給料で頑張ってんだ!」と自らのスタッフの名前を上げて爆笑を巻き起こすと、続く“未練は残さず踊るつもりだ”では「山上! 山上!」「安月給! 安月給!」コールを誘引。さらに「オリンピックでメダル取れなくても真央ちゃんに号泣するわけよ。感動をありがとう!」という旬なネタも繰り出して、笑いと感動の入り混じる巨大な狂騒空間を築き上げていった。最後は“世界はそれを愛と呼ぶんだぜ”で「愛と平和!」コールを呼び起こし、“できっこないをやらなくちゃ”で完全燃焼! 汗だくで届けられた3人の熱意がオーディエンスに伝播して、巨大な一体感が生み出された圧勝のアクトだった。
1. 世界をかえさせておくれよ
2. ミラクルをキミとおこしたいんです
3. 未練は残さず踊るつもりだ
4. そのぬくもりに用がある
5. 世界はそれを愛と呼ぶんだぜ
6. できっこないをやらなくちゃ
■THE BAWDIES
THE BAWDIES
THE BAWDIESお馴染みサム&デイヴ“ソウル・マン”のSEに乗って揃いのブラック・スーツで登場したのはTHE BAWDIES。まずは“ROCK ME BABY”をどっしりとしたリズムで届け、オーディエンスの腕を突き上げさせる。「ひとことで言いますと、ロックンロールでございます。ロックして、ロールする。つまり歌って踊って燃え上がればどうですか?」というROY(Vo/B)の挨拶に続いての“IT’S TOO LATE”では、「♪アーアアアーアーアア」のコーラスに乗ってフロア一面のハンドウェーブが。その後もROYの火を噴くようなヴォーカリゼーションやJIMとTAXMANのギター・コンビの掛け合いが冴えわたるダンス・ナンバーを連打して、フロアを心地よく揺さぶっていく。MCでは「ビクターさんに拾ってもらってなかったら……特にドラムのMARCYくんは、今頃キュウリばっかり食べてたと思います」の笑い混じりに感謝の気持ちを伝えるROY。さらに「俺らってこんなカッコいんだぜ!ってことよりも、ロックンロールってこんなに楽しいんですよ!ってことを伝えたいだけのバンドです」と続けて、3月5日リリース予定のカヴァーALから“SHAKE A TAIL FEATHER”を披露する。そして「ビクターといえばニッパー君かなと。ニッパー君といえばビクター・ドッグかなと」(ROY)と“HOT DOG”へ! そのまま“SING YOUR SONG”“JUST BE COOL”と駆け抜けて、最後はTAXMANの音頭による会場一丸の「ワッショイ!」コールで大団円! 今年で結成10周年。6月に開催する対バンツアーの告知もきっちり行い、大きな拍手と歓声に見送られながらステージを去った。
1. ROCK ME BABY
2. IT’S TOO LATE
3. YOU GOTTA DANCE
4. DANCE THE NIGHT AWAY
5. LAMONADE
6. SHAKE A TAIL FEATHER
7. HOT DOG
8. SING YOUR SONG
9. JUST BE COOL
■くるり
くるり
くるり「ビクターロック祭り」もいよいよ佳境。7組目に登場するのは、くるり。「えーと、くるりと申します。よろしくお願いします」という岸田繁の挨拶に続いて「♪ジャジャ!」というギター音が鳴り響くと、たちまち大きな歓声が沸き起こる。1曲目は“ワンダーフォーゲル”だ。ファンファンのトランペットが彩を添える、煌びやかな四つ打ちのサウンドでフロアを心地よく揺らすと、ゆったりとしたグルーヴから突如ソリッドなバンドサウンドが走り出す“ブレーメン”へ。その後もロマンチックな歌心あふれる“ロックンロール・ハネムーン”、瑞々しい輝きと躍動感に満ちた“everybody feels the same”と繋げて、カラフルで多幸感あふれる音世界をじわじわと広げていく。MCでは「機嫌はどや? ビクターのフェスをやりたいって聞いてきてみたら、こんなにぎょうさん人がいて凄いですね。ビクターの機械持ってる? ウッドコーンっていうスピーカーがいいのでよかったら買ってみてください」と、マイペースなトークを繰り広げる岸田。そのムードそのままに、バンドは極彩色のアンサンブルと郷愁漂うメロディの妙が味わえるミドルテンポのナンバーを連発し、会場全体を緩やかに高揚させていった。そして「ビクターの人たちが頑張っているおかげで、こうしてライヴができてます。拍手してあげてください」という岸田の呼びかけで温かな拍手を巻き起こしたところで、デビュー曲“東京”で感動のクライマックスへ。レコード会社とともに歩んできた15年間のバンドの軌跡そのもののような、青くエモーショナルなサウンドが、高らかに鳴り響いていた。
1. ワンダーフォーゲル
2. ブレーメン
3. ロックンロール・ハネムーン
4. everybody feels the same
5. 花の水鉄砲
6. Loveless
7. 虹
8. 東京
■Dragon Ash
Dragon Ash
Dragon Ash3rd AL『Viva La Revolution』のイントロが鳴り響くステージに、真っ赤な照明を浴びて登場したのはDragon Ash! 桜井誠の激しいドラミングから“Run to the Sun”へ雪崩れ込むと、たちまち「ウォオオー!」という勇壮なコーラスが響きわたる。神々しいほどの輝きを放ちながら、パワフルに突き進む骨太なサウンド。その勢いは“Trigger”“The Live”“Still Goin’ On”と攻撃的なナンバーを繰り出すごとに凄みを増していき、フロアの拳を無尽蔵に突き上げさせていく。中盤には「17年前の昨日、初めてビクターからCDを出して。今日からDragon Ash、デビュー18年目です。宜しくお願いします!」というKjの挨拶から、名曲“百合の咲く場所で”を披露。さらに「最近は激しい音楽が主流じゃないかもしれないけど、俺たちはいつまでもこのスタイルでやっていくからよ。ミクスチャー・ロックは好きですか!」のコールに続いた“Fantasista”でフロア大激震! そして最新シングル“Lily”を高らかに歌い上げると、「19年前ぐらいか、まだ16歳で原宿のルイードって所でライヴをやってたときに、ビクターのディレクターが観に来てくれて……」とデビュー前の思い出を語るKj。「そのディレクターは死んじゃったんだけど……俺たち本当にビクターを愛してやっているんで。これからも誠意を持って、音楽を裏切らずにやっていきたいと思います」の言葉に万雷の拍手が送られたところで、ラスト“Viva La Revolution”へ――最後は「ありがとうございました。ブリトニー・スピアーズでした!」とブチかましてステージを去ったKjだったが、そんな照れ隠しにも似たネタ投入もひっくるめて、どこまでも熱い血の通った感動的なアクトだった。
1. Run to the Sun
2. Trigger
3. The Live
4. Still Goin’ On
5. 百合の咲く場所で
6. Fantasista
7. Lily
8. Viva La Revolution
■サカナクション
サカナクション
サカナクションそして――。ここまで8組のアーティストが熱演を繰り広げてきた「ビクターロック祭り」、その最後のアクトを務めるのはサカナクション! 最新アルバム『Sakanaction』のイントロと盛大なハンドクラップに迎えられて、颯爽と登場した5人。ステージ前方に5台のコンピューターを並べたお馴染みのスタイルで“ミュージック”をスタートさせると、たちまちどよめきにも似た歓声が沸き起こる。曲中盤の暗転時にバンドスタイルへと華麗な変貌を遂げると、フロアは更にヒートアップ。強力なダンスビートと熱を帯びた山口一郎(Vo/G)のヴォーカルに導かれ、早くもクライマックスのような興奮が押し寄せる。さらに“アルクアラウンド”“セントレイ”と攻め立てて、「一緒に踊ろう!」という山口の呼びかけから“夜の踊り子”へ。殺傷力あるビートとフレーズを各々に繰り出していく5人の演奏も凄いが、一糸乱れぬハンドクラップ/シンガロング/オイ・コールを次々と巻き起こしていくオーディエンスの結束力も凄まじい。そこにドラマティックな照明やレーザー光線も加わって、会場全体で絶頂へと上り詰めていくさまは、もう圧巻の一言! その後もコーラスでの大合唱が巻き起こった“アイデンティティ”、岩寺基晴(G)&草刈愛美(B)の祭り太鼓がトライバルに鳴り響いた“ルーキー”と畳み掛けて熱狂のレベルを更新していくと、山口も「ビクターロック祭りー!」と大絶叫! 疾走感抜群の“Aoi”で会場の空気をスパークさせると、「ありがとうございました、サカナクションでした」と一言だけ告げて5人はステージを去った。
アンコールでは、両A面の最新シングル“ユリイカ”をしっとりと披露。そしてMCの一切なかった本編から一転して、当フェスを今後も続けていきたいという意志を山口が語り出す。そして「ライヴを作り上げるのに沢山の人が関わっているように、一枚のCDを作るのにも沢山の人が関わっています。皆さんの耳に届くまで、僕らの曲を持ってラジオ局やテレビ局を回ったり、お店にCDを持っていく人もいたりして。いろんな人が関わってみんなの元に届いているっていうことが実はあって。そういう人たちのおかげで僕らはここに立てているんだと実感しています。だから今日出たミュージシャンだけじゃなく、ビクター全体の応援を今後とも宜しくお願いします」と告げて、同じく両A面の最新シングル“グッドバイ”を最後に披露。祈りに満ちた壮大なサウンドスケープとともに、「ビクターロック祭り」という初開催のフェティバルは、感動的なフィナーレを迎えたのだった。(齋藤美穂)
1. ミュージック
2. アルクアラウンド
3. セントレイ
4. 夜の踊り子
5. アイデンティティ
6. ルーキー
7. Aoi
encore
8. ユリイカ
9. グッドバイ