不朽不滅のギター・ヒーローによる、驚異的なヴァイタリティと肯定性に裏付けられたステージだった。1973年の初来日から実に40周年を記念するというジャパン・ツアーの武道館公演。世界中の音楽に息づく多種多様なマインドに理解を示しながら、並々ならぬ技量を誇るバンド・メンバーと共に、そのサウンドを普遍的な愛のメッセージ(ときにセクシーでエロティック)へと変換しオーディエンスの身体へと叩き込んでくれるサンタナ。翌13日には、東京国際フォーラムで追加公演が行われる。以下レポートはセット・リストなどネタバレを含むので、閲覧にご注意ください。
タイミングとしては、昨年に自主レーベルからリリースした新作『シェイプ・シフター』を携えての来日というところであり、カルロス・サンタナ自身を含め11名(+1名)に及ぶバンド・メンバーの過半数は同作の製作陣でもあるのだが、いざ蓋を開けてみるとサンタナ初期のナンバーを大フィーチャー、『シェイプ・シフター』は全曲スルーしてしまうという驚きの選曲であった。この割り切り方は凄い。『シェイプ・シフター』は、『スーパーナチュラル』以降の豪華ゲストを迎えた歌モノ・シリーズとは一線を画し、久々にインストゥルメントの魅力を前面に押し出した好盤だったのだが、では今回の公演が単純に懐メロ祭りだったのかというと、そういうわけでもない。余りにも表情豊かでパワフルな演奏は間違いなく現行サンタナ・バンドのそれであり、リアレンジされた楽曲の中にメンバーの技巧が冴え渡り、唐突にほろりと零れ落ちる懐メロに大歓声が沸き上がる、といった具合なのである。
序盤から強力なリズム・セクション(ドラマー1人、パーカッショニスト2人、男性ヴォーカリスト2人も両手にマラカスやらギロやらタンバリンやらを携えている)とのコンビネーションによってギター・プレイに熱を込め、飛ばしていったカルロスは、ヴォーカリストの歌い出しよりも先に“ブラック・マジック・ウーマン”の旋律を切々と語るようなギター・プレイで届けてくる。ラテン・グルーヴで尻上がりに加熱する展開を見せ、続いては名オルガン・リフが鳴り響く“Oye Como Va(僕のリズムを聞いとくれ)”である。朱に染まったステージ上のスクリーンには往年の名盤のジャケット・アートワークやライヴ映像などが映し出されていた。音楽の効果を最大限に活かす、心憎いアレンジと演出の数々も素晴らしい。ペコリと深くお辞儀をしたカルロスは、「初めてのときは1973年だったね。今もこうしてやっているよ……あの頃よりもずっと力をつけてね!」と言ってのけるのだが、まったくビッグ・マウスとしては聞こえてこない。
「じゃあ、ここにいるすべての……女性をハッピーにしてあげるよ(笑)」と、お茶目なカルロスは“マリア・マリア”や“フー・フー”といった『スーパーナチュラル』以降の現代的なポップ・チューンの数々ではスタンドに据え付けられたギターも駆使しつつオーディエンスのジャンプを誘うのだが、この辺りのナンバーにおいても生バンドの爆発力と豊かな表現力が衰えることはない。楽曲の中に“さくらさくら”の旋律も忍ばせてサーヴィス精神旺盛だ。デビュー時に鳴り物入りでウッドストック出演を果たしたことや、『スーパーナチュラル』で世紀を跨いだ大成功を収めた過去を振り返りつつ、「数多くの人々が、俺の人生の扉を開け放ってくれたんだ。日本への扉を開けてくれたのは、ウドーサンだよ」と、40年前の初来日から前回2006年のウドー・ミュージック・フェスティヴァル、そして今回に至るまで、サンタナ来日公演のパートナーであり続けてきたウドー音楽事務所社長の有働誠次郎氏をステージに招き入れ、ギターをプレゼントするという一幕もあった。すわ、『ロータスの伝説』に収められた“ミスター・ウドー”の再現なるかとも思われたのだが、この場面の後に演奏されたのは“哀愁のヨーロッパ”だ。カルロスのギター・サウンドがこの夜で最も泣きまくり、美曲の名演となった。
ダビーなベース・ラインが牽引する“タブー”がボブ・マーリーの“エクソダス”にメドレーで連なると、「世界にはバランスが必要で、俺にはクイーンが必要なんだ(笑)。彼女は俺の奥さんで、ベスト・フレンドなんだよ」とドラム・セットに収まるシンディ・ブラックマン・サンタナを紹介する。ジャズ畑やレニー・クラヴィッツのツアーで活躍してきたという、ものすごい美人でかっこいい53歳だ。彼女を交えた編成での“コラソン・エスピナード”のキューバン・グルーヴが、また素晴らしかった。ベース奏者のベニー・リートヴェルド、パーカッションを叩くカルロスと共に3人でジャム・セッションを繰り広げ、遂には武道館でドラム・ソロを叩きまくった嫁。カルロスは彼女との連発キスを見せつけてくれる。正ドラマーのデニス・チェンバースが定位置に戻ると、今度は熱狂的なアフロ・ビートの中でホーン・セクション2名を含めたバンド・メンバーが次々にソロを披露する“ジンゴー”へと向かうのだった。
“イヴィル・ウェイズ”は、ピアノのフレーズを合図にジョン・コルトレーンのラテン・ジャズ・カヴァー“A Love Supreme(至上の愛)”へと移り変わる。「すべての旗と国家を愛しているよ。美しい人生を送っておくれ」とカルロスがメッセージを投げ掛けるスピリチュアルなクライマックスだ。ブルースとサウダーヂ、情熱と、もののあはれ。音楽を通して、数限りない感情の形を理解しながら人生を歩んできたカルロスが語る愛は、絶大な説得力に満ち満ちている。本編を“スムーズ”からのメドレーで締め括ると、スクリーンにはウッドストックでの、オーディエンスが雨止みの祈りを捧げる姿が映し出され、そしてアンコールの“ソウル・サクリファイス”に連なっていった。気がつけば既に開演から2時間が経過していたのに、自らの耳に手をかざし、ひと際大きな歓声を誘うカルロスは、まだまだエネルギーがあり余っているように見えた。(小池宏和)
01 Cloud Nine
02 Love Is You, Love Is Me
03 Black Magic Woman / Gypsy Queen
04 Oye Como Va
05 Maria Maria
06 Foo Foo
07 Europa
08 Batuka / No One To Depend On
09 Taboo / Exodus
10 Corazon Espinado
11 Jingo
12 Incident At Neshabur
13 Evil Ways / A Love Supreme
14 Smooth / Dame Tu Amor
EN Soul Sacrifice / Bridgegroom