ヤッベー、チョーサイコー!と思わず書き出したくなってしまうライヴだった。やっと実現したニッキー・ミナージュの初めてとなる来日公演。といっても来日自体は初めてではなく、セカンド・アルバムにして最新作『ピンク・フライデー:ロマン・リローデッド』発売直前の今年3月後半に日本にやってきて、ショウケースとして“Super Bass”“Moment 4 Liffe”“Turn Me On”“Starships”の4曲を披露。わずか15分、ヒット曲のみをメドレーで連発する姿は衝撃的だったが、フルスケールのニッキー・ミナージュを堪能する機会としてはあまりに短すぎた。そして、ようやく今日のライヴがやってきたわけだが、全貌を現したニッキー・ミナージュは、完膚なきまでにニッキー・ミナージュだった。ここからは具体的な曲名に触れて書いていく。
Opening DJのDJ TOSHIYA a.k.a. The CHEFが場を作っていった後に開演から1時間あまりが経とうという頃だろうか、場内が暗転する。既に会場は異様な熱気で、DJ TOSHIYAが去った後もBGMとして流れるデヴィッド・ゲッタ、クリス・ブラウン、リアーナの楽曲にシンガロングが起こる状態。ステージ前では係員からの「下がってください」という声が聞こえ、ステージには白い幕が張られている。配られたセットリストに「Musical Intro-Kabuki Drop」と書かれていたオープニング、不穏なSEが流れるなか、ザッと白い幕が落ちると、そこに現れたのは、フード付きの黒いマントに身を包んだニッキー・ミナージュの姿。場内はもちろん大歓声。曲は新作のオープニングと同じく“Roman Holiday”。ステージには一段高くなった玉座があり、それを取り囲むように階段が設置されているのだが、その階段の側面がスクリーンになっていて、魔法陣のようなおどろおどろしい図形が映し出されている。黒魔術かい、と思わず突っ込みたくなるが、この大袈裟なオープニングがまったく違和感とならない。むしろ彼女の鮮烈なキャラクターの前ではこれぐらいやってくれないと、と否応にも納得させられる。トラックは一手に女性のDJ、DJ DIAMONDが担っている。
2曲目で早くもファーストからの“Did It On'Em”を披露。この曲に入る前に、例のマントを颯爽と脱いだのだが、もちろんそこにはニッキーならではの原色溢れるド派手な衣装が登場。「ビッチはみんなあたしの子供みたいなものよ」というヴァースを持つこの唯我独尊讃歌では男性ラッパーを相手にしながら自らの股間に手を当ててみせる。続く“I'm Your Leader”では女性ダンサーを引き連れて、踊りもラップも見事にキメ、そしてあの破壊力抜群のコーラスがやってくる。ニッキー・ミナージュのライヴというのは、いわゆるコーラス部についてはバックトラックと一緒にコーラスが音源として流れているのだが、それがまったく気にならない。というか、これまで多くのプロデューサーから「素材」としてあらゆる要求に驚異的な音楽的反射神経で応えてきたオートチューン以降の歌姫である彼女にとって、こうした構成そのものが必然と言えるものだ。そして、“I'm Your Leader”の最後では客席に向かって、お尻を一振り。ああ、これこそがニッキー・ミナージュである。
音源ではつい先日逮捕されてしまった2 Chainzをフィーチャーしていた“Beez In The Trap”や“Stupid Hoe”など、ラップのスキルが剥き出しになる曲が続くが、こういうところではまったくブレない。淀みなくフレーズを繰り出す姿は、まったくもって異能の音楽的才能の塊であることをいとも簡単に証明してしまう。Big Seanにフィーチャーされた“DANCE (A$$)”では、もちろんA$$の部分でお尻をパチパチ。けれど、そうしたシーンでもまったく下世話さがないのがすごい。彼女のキャラクター自体がテーマパーク化しているというか、音楽的な力で包容していしまうというか、リアルな陽性のエンタテインメントに仕立て上げられてしまうのがすごい。前半戦の最後は比較的メロウな楽曲が並んだセクション。“Right By My Side”“Champion”、そして必殺の“Moment 4 Life”という流れ。“Moment 4 Life”ではイントロ部分の時点で怒号のような歓声が起きる。ニッキーの表現の幅の広さが支持されているのを実感する瞬間だ。この曲が終わったところで、一旦ニッキーは化粧直しのため一旦ステージを降りる。“Va Va Voom”などニッキー・ミナージュの楽曲を織り交ぜて、DJ DIAMONDが盛り上げたところで後半戦に突入となる。この本人がいないのに、本人の楽曲が流れるというのも、まさにニッキー・ミナージュのライヴらしい演出だった。
先ほどとは打って変わって、白を基調とした衣装に身を包んでステージに歩いてきたニッキー、おもむろにしゃがんだかと思うと取り出したのは、スモーク銃。最前列の観客に向かって、ブシューッとスモーク銃を打ち放つ。唐突な演出だが、それが成立してしまうのも次が約束された楽曲だから。“Starships”のイントロが流れ始めると、会場は再び興奮の坩堝へ。しかし、ここからの流れはすごかった。“Pound The Alarm”“The Whip”と、アルバムの『ピンク・フライデー:ロマン・リローデッド』とまったく同じ流れを再現する形になるのだが、このレッドワン・プロデュースによるユーロビート導入楽曲3連発こそ、彼女が文脈などというものをいとも簡単に飛び越えてしまう希有なキャラクターかの証明になっていた。そして、デヴィッド・ゲッタに客演した“Where Them Girls At”を畳み掛けるという反則技。ニッキーとダンサーが一緒になって、遠くからだったので確認できなかったのだけど、小袋みたいなものを配っていたのだがあれはなんだったのか。
再びお色直しのためのDJ DIAMONDタイムを挟んで、次は“Fire Burns”~“Save Me”というセクションへ。ニッキーはピンクのドレスに身を包んでいる。このセクションはシンガーとしての彼女に焦点を当てたもので、コーラスの音源も切られ、ダンサーも一切出てこない。彼女が歌という一点でどれだけの実力を持っているか、あらためて炙り出すパートと言える。このパートをこれだけ後半に持ってこれるというのがまずすごいというか、自信の裏返しとも言えるが、まずはなによりもエンタテインメントとして勝たなければならないという焦燥感がこうした構成を生んでいて、それこそがニッキー・ミナージュの最大のすごさと言える。
その意味で、3度目のDJ DIAMONDタイムを経て、辿り着いたフィナーレはもはや余裕の域。これまでの衣装のなかでも最もド派手な極彩色の衣装に身を包み、日本人の通訳を呼んで、ニッキー様から「このなかで“Bottoms Up”を歌える人いる?」の一言。思い思いの手が挙がるが、結局あの高速ラップをできる人は皆無。痺れを切らしたニッキーが自らあの高速ラップをまくし立てると、場内は再沸騰。さきほども発射したスモーク銃も撃ち放ちつつ、さらに決定打となる“Turn Me On”と“Super Bass”という鉄板の2曲でフィニッシュ。終演後、最前列のファンにサインをして回るニッキーを見ながら、あまりに強い巨大なアイコンの全貌を見てしまった感慨を覚えた。(古川琢也)
1. Roman Holiday
2. Did It On 'Em
3. I Am Your Leader
4. Beez In The Trap
5. Stupid Hoe
6. Dance (A$$)
7. Right By Your Side
8. Champion
9. Moment 4 Life
Intermission
10. Starships
11. Pound the Alarm
12. Whip It
13. Where Them Girls At
Intermission
14. Fire Burns
15. Save Me
Intermission
16. Turn Me On
17. Super Bass