80’s映画を代表する『トップガン』のテーマとしておなじみ“デンジャー・ゾーン”が流れるなか、ほぼ満員のフロアの歓声に迎えられステージに登場したハドーケン!の5人。なんともらしいSEで最高かも。確かに今夜はここが熱くてヒリヒリした、デンジャー・ゾーンになっていくことをみんなが期待しているのだから。
フロントマンのジェイムスは両手に赤色の誘導灯。ライトセーバーのようにそれを振り回し、観客を煽る。キーボードのアリスはミニドレスがキュート! 色とりどりのサイリウムとLEDの光が、フロアの中で波打っている。ジェイムスの「プレイ・ゲーム」というMCに続き、エネルギッシュなジャンプ・アップ・ナンバー“ゲット・スマッシュド・ゲート・クラッシュ”になだれ込む。男の子も女の子も、ニュー・レイヴ世代からオリジナル・レイヴ世代までがごっちゃになったフロア。ビートが増幅されるにつれ、ステップもどんどん軽やかになっていく。サビが「トーキョー」に置き換えられていて、そこでもまた歓声が。ステージにを縦横無尽に動きまわりながら、ギターのクリスもオーディエンスを煽る。曲によっては、フロア前方でクラウド・サーフも起こる盛り上がり。
今年デビュー・アルバム『ミュージック・フォー・アン・アクセラレイテッド・カルチャー』を発売し、全英12位に送り込んだ彼ら。ここ日本でもスマッシュ・ヒットを記録し、サマーソニック08ではダンスステージのトリに抜擢され、幕張会場では入場規制がかかる盛況をみせた。サマーソニックから1ヶ月ちょっとでの来日となるが、今回はファン待望ともいえる初の単独ツアーなのだ。
ツアーは昨日のリキッドルームでスタート(新人ながらリキッド2デイズ!)、この後大阪(12日)、名古屋(14日)と続くので、詳しいセットリストは控えるが、短いMCを挟みながら、ほぼノンストップで駆け抜けていった。
ハドーケン!は、中産階級出身でありながら、ロンドンのゲトー・ミュージックとして知られるグライムのシーンにとびこみアーティストとしてのキャリアをスタートさせたジェイムスが、同シーンで辛酸をなめた後、リーズに移住し、彼の地でインディ・ロックの魅力にとりつかれて結成されたバンドだ。
グライムからゲーム・ミュージック、メタルからインディ・ロックまで様々なジャンルのサウンド要素をごったにしたハドーケン!のサウンドだが、ライブでは、彼らの根幹は、ロック・バンドとしてのサウンドにあることがあぶり出される。
アルバムだと、ブリブリとフリーキーなシンセのサウンドが強調されているが、ライブでは生ドラムとベース、ギターが主体の音作りがされている。バンド名から思わず連想してしまう、はっちゃけた飛び道具的ライブを想像していると意表を突かれる。そのパフォーマンスは実に地に足のついたものだ。
バンド・サウンドを主体にしているから、タテノリ8ビートな“リープ・オブ・フェイス”みたいな曲が実にハマる。一方でキーボードのエフェクトは控え目。ダンス・バンドだけど、ブリブリとしたシンセの音色に頼るのを極力避けて、ラップとバンドの生演奏ならではのグルーヴでフロアを加速させていこうとしているように映る。まだまだ未完成なところもあるが、新たな形のダンス・ロックを生み出していこうという気概が、パフォーマンスをスリリングなものにしている。
グライム・マナーでは表現しきれなくて、バンド・サウンドに出会うことで爆発したジェイムスの衝動。彼らは、グライムからの影響を、ありそうでなかった形でバンド・サウンドに昇華してみせた。そして、この先に向けてまだまだバンドの可能性を広げようとしているのだ。(森田美喜子)
ハドーケン! @ 恵比寿リキッドルーム
2008.09.11