今年1月に発表された2ndアルバム『フォー・ザ・マッシズ』を携えての、我らがハドーケン!による来日公演。単独としては2度目の来日だけれども、サマソニや昨年のウォリアーズ・ダンス・フェストにも登場していたので、デビュー以来毎年、日本でのステージを披露しているということになる。日本のファンとの絆は強い。マッシブかつアグレッシブなダンス・ミュージックの要素はそのまま、自らの表現世界をさらに大きく広げようとする意志がタイトルに宿った『フォー・ザ・マッシズ』によって、彼らのライブ・パフォーマンスにはどのような変化が起きているのだろうか。
開演予定時間の19:00、定刻どおりにステージが幕を開ける。パーカーのフードを被ってアディダスを履いた、お決まりのスタイルで登場するフロントマンのジェイムス。ステージ序盤はデビュー・アルバムからのナンバーを中心に、さすがのお馴染み感も手伝って一気にオーディエンスを沸点に到達させてしまった。マシーン・ビートのようなニックのドラム、太くうねりまくるダンス・ミュージック譲りのクリスのベース、そしてけたたましくレイヴ感を煽り立てるアリスのシンセ・サウンド、それだけでもすでに、ハドーケン!のサウンドは頑強かつ記名性そのもののような外殻を完成させてしまう。00年代のUKシーンに、インディー・ロック・カルチャーとレイヴ・カルチャーとグライム・カルチャーをまとめて解放してしまったハドーケン!のバンド・サウンドは、そもそもが「フォー・ザ・マッシズ(大衆のために)」という指針を内包したものであったのだと思う。
それにしても、この日のO-EASTに集ったオーディエンスは熱い。四肢を振り乱してサウンドに乗り、ハドーケン!を援護射撃するようにスクリームし、またシンガロングする。ラップを繰り出すジェイムスのマイク音量が今ひとつ小さく(自分の陣取った場所が悪いのかと思って移動してみたりしたが、それにしても小さかった)、うまく届いてこないのが残念だったのだが、満場のオーディエンスはまるでジェイムスのボーカル・パートを奪い取るようにして歌いまくるのである。素晴らしい。オーディエンスのそんな姿に焚き付けられたか、中盤に披露された“マイク・チェック”あたりで遂に、バンドの本領が発揮され始めた。ボーカルのフックも含めて、ハドーケン!のロックがぐぐっと引き締まって密度/質量が増した感じ。これが『フォー・ザ・マッシズ』モードのハドーケン!の手応えなのだろう。
そう言えば、以前は大きなアクションとともにステージ上を跳ね回っていたジェイムスが、今回はほとんどステージ中央から動かない。そういう部分でも、露骨に自爆覚悟だった以前の彼らのパフォーマンスとはモードが切り替わっている。マイクにかじりつくようなジェイムスの姿勢が、今のハドーケン!を説明している(それだけにやはり、彼のボーカルとダンのギターの音量が小さいのは残念だった)。「偉大なブリティッシュ・バンドの曲をやるよ」と彼が告げて披露されたのはなんと、ブラーの“ソング2”だったのだが、この曲のキモはやはりボーカルのフレーズとギター・リフである。大いに盛り上がったのは良かったけれども、このカバー曲が披露されたことによって、「ハドーケン!におけるボーカルとギターの占める役割は大きい」という事実を再認識させられたこともまた収穫であった。
終盤は、『フォー・ザ・マッシズ』収録のキラー・チューンを固め撃ちすることで大きなクライマックスを形成していった。ロック色の強い“ボムショック”とともにジェイムスはフロアに飛び込んでオーディエンスの大歓声を浴びる。「今日は本当にありがとう、ファッキン・オウサム・クラウズだよ」と彼は言っていたが、よくある社交辞令ではなく本当にそうだったと思う。手探りでモード・チェンジを行っている段階のパフォーマンスだった気がするし、アンコールなし、あっという間の1時間弱で終演となったことには悲鳴のような声も多く上がっていたが、4/7の大阪公演はいったいどのようなものになるだろうか。気になる。(小池宏和)