4人揃って長髪&細身のシルエットでまずステージ上に立ったのは、名古屋公演に続いてサポート・アクトを務めるBO-NINGEN。ダークでグラマラス、そして爆発力のあるロック・アンサンブルに、Taigenの切迫した速射砲ボーカルが乗って走る。開演10秒で、2011年の地層に埋もれたロックの神秘性と訴求力を掘り起こしてしまうようなパフォーマンスだ。彼らは在英日本人の4人組であり、UKのレーベルからアルバムもリリースしているという逆輸入バンド。スレイ・ベルズの来日公演もサポートしていた。でも歌詞は日本語だ。非ロックを地でいくライアーズとは佇まいも曲調のアプローチも正反対と言えるけれど、「ロック体験の衝撃」を引き出そうとする緊迫感はなかなか通ずるものがあって面白かった。
続いては、こちらもワン・アンド・オンリーの活動スタンスを貫く3人組のガールズ・バンド、にせんねんもんだい。極少の硬質な音が徐々に重なり合って、淡々と、しかし確実な高揚感を纏ってゆくジャーマン・ミニマルを思い出させるようなパフォーマンスが、O-WESTのフロアを沸かせてゆく。外国籍と思しきオーディエンスが率直に反応しているのも目立っていた。これだけ少ない音を、反復するリズムとメロディで、しかも今の時代に決して古びさせないままシンプルなバンド編成で鳴らしてしまうのは凄いことだ。急がず慌てず、終演した瞬間の「ありがとうございました。にせんねんもんだいでした」という高田正子の繊細な声の挨拶までMCも皆無だったステージングは、四次元のアート・フォームである自分たちのパフォーマンスをどこまでも信じ抜くもので、実に美しかった。
さて、いよいよライアーズの登場。背景のスクリーンには、海辺や森林における肌寒さを伝えるような風景映像が、まるで時折痙攣するかのように、静止状態から動き出したりしている。DVDJで操作しているのだろうか。ステージ上にはベースとギターにそれぞれサポート・メンバーを迎えた5人が立ち、ジュリアン(Dr.)とアーロン(G./Key)が二人掛かりで不穏なドラム・ロールを打ち鳴らすシングル曲“イット・フィット・ホエン・アイ・ワズ・ア・キッド”からステージをスタートさせた。ライアーズはサウンドだけなら極めて無愛想で殺伐としているバンドなのだけれど、ライブにおいては大柄なアンガス(Vo)のコミカルなダンス・パフォーマンスが目を引く。
以後、昨年リリースされた最新アルバム『Sisterworld』からの楽曲群を多く含めながらステージは進められていった。ダブ風のアレンジを効かせた“No Barrier Fun”、オリエンタルなメロディの幽玄なコーラスに彩られた美しい曲調がフリーキーな爆発へと展開してゆく“I Can Still See An Outside World”。残念ながら日本盤の発売には未だ至っていないが、『Sisterworld』はライアーズ史上もっとも、印象的なメロディ群が前面に出たアルバムだった(しかもデラックス盤は本編の全曲をスーサイドのアラン・ヴェガ、アトラス・サウンド、トム・ヨーク、ディヴェンドラ・バンハート、メルヴィンズらといった新旧の豪華アーティストらがリミックスしたディスクが付いている)。
ただし今回のパフォーマンスは、単にその最新作のモードがステージに落とし込まれるだけではなかった。そもそもがワイアーやディス・ヒートといったポスト・パンク時代の「非ロック・脱ロック」バンドの影響を受けて始まったライアーズの歴史だけに、雰囲気だけのポスト・パンクに終始する道は予め絶たれていたも同然だった。アンチ・フォーミュラ/アンチ・テクニックを掲げていた往年のオリジネイターたちからすれば、「非ロック・脱ロック」というスタイルの模倣すら否定されていたのだから。ロック史をお勉強して雰囲気だけ再現させるに留まり、歴史に埋もれていったリヴァイヴァリスト達は、この10年だけでも枚挙に暇がない。
ならばライアーズはどうしたか。活動の中で徐々に自らの筋肉として育っていった表現力を、素直にパフォーマンスに落とし込んだのだ。結果として、演奏のダイナミズムは増し、爆発的なエネルギーの中にも豊かなサウンドの表情を見せることになった。手元の機材でサウンドのピッチをリアルタイムでコントロールし、自らの歌声をサンプリングして塗り重ねてゆくアンガスの手捌きは鮮やかなものだったし、何よりアーロンとサポート・ギタリストのジェシーによる2本のギターのノイジーで美しいコントラストは素晴らしいものだった。終盤に向けてますますヘヴィに、ラウドに転がってゆくライアーズのパフォーマンスは、見た目からは想像もつかないような、堂々たる風格すら感じさせるものになっていた。
アンコールではサポートのジェシーが「日本は本当に美しい国だよ。(来日の)夢を叶えてくれてありがとう!」と満面の笑顔にメガネを光らせて感謝の言葉を飛ばし、大きな拍手が沸き上がった。ここで終演かと思いきや、正式メンバーの3人だけがステージ上に残ってさらにパフォーマンスを続ける。最後に“ブロークン・ウィッチ”(喜!!)を叩き付けて、ステージは幕となった。我が道をゆくバンドたちの賑々しく勇敢な響宴に、なんとも胸のすく思いがした夜であった。(小池宏和)
ライアーズ セットリスト
1:It Fit When I Was A Kid
2:Clear Island
3:No Barrier Fun
4:Loose Nuts On The Veladrome
5:I Can Still See An Outside World
6:Sailing To Byzantium
7:Plaster Casts Of Everything
8:A Visit From Drum
9:Scissor
10:The Overachievers
11:Proud Evolution
12:The Other Side Of Mt. Heart Attack
13:Scarecrows On A Killer Slant
EN-1:Too Much, Too Much
EN-2:Here Comes All The People
EN-3:Be Quiet Mt. Heart Attack
EN-4:Broken Witch