目一杯ファンキーなインスト・セッションでライブ本編が幕を開ける。やはりというか、蔡は自慢気にバンド・メンバーの名前をコールしていった。そして松井による軽快なラテン・パーカッションが弾けると、まるで今週の日本を唐突に覆った高気圧のように、バンドは冬のリキッドルームに暖かい陽光と南風を運んでくれる。満場のオーディエンスは一斉ジャンプとハンド・クラップでそれに応じるのだった。サンバ風ラテン・ビートの次にはカリブ海へと北上してスカ・ビートをミックスし、蔡のストレートで伸びやかな愛のメッセージが乗せられてゆく。そして森本の力強くかつ艶かしい、バンドをリードするようなベース・プレイも本領を発揮だ。気がつけば開演から5曲、アッパーな曲だけで一息に駆け抜けてしまった。
「今日はツアー初日です! 飛ばし過ぎたんで休ませてください。チケット、ソールド・アウトありがとうございます。後ろの方が渋滞してしまっているので、不快でない程度に前に詰めて頂けると………。動け、おまえら」と蔡。即座に「最初からそう言えばいいじゃん」と周囲から嗜められる。3人のホーン隊の演奏は確かにバンドの賑やかさに拍車を掛けるのだが、代わるがわるエモーショナルなソロを吹く「押し」の一手だけでなくて、蔡の歌を引き立てる「引き」の絶妙なアレンジも聴かせてくれて実にいい。
“THANK YOU FOR THE MUSIC”でフロアに巻き起こる印象的なハンド・クラップは、もはや大所帯バンド・サウンドの一部であるかのように場内に響いた。さて、前半の暖かい陽射しを感じさせたアッパー・チューン連打が「昼」のモードだとすると、中盤はさしずめ「夜」のモードである。スウィングするロックあり、眩くスペイシーなダンス・チューンあり、そしてアップテンポなのにやたらスモーキーな、これぞボノボというダブ・チューンあり。ステージ上に設置された無数の、色とりどりの照明が、バラエティに富んだ楽曲とともにオーディエンスの意識を別世界へと誘ってゆく。
「俺、めっちゃしんどいよ。誰やこのセット・リスト考えたの。森本さんか。bonobosは2001年に結成して、来年で10周年です。今年が10年目です。…どうせ誰もハッキリしたことは言えんやろ。このモヤモヤっとした2、3年は(笑)ずっとお祭りで行きたいと思います」。蔡は終盤にそう告げていた。ボノボのライブは確かにお祭りである。でも、今回のステージはそれだけではなくて、1本のライブとしてドラマティックな、大きな物語を感じさせるものにもなっていた。本編ラストに披露された新曲“夕景スケープ”が、その大きな物語のエンディングとして、奇麗に残りひとつのピースを埋めるように響き渡ったのが印象的であった。
本編がそういう形で幕を閉じたので、ちょっと風変わりな趣向の今回のアンコールは、まさに番外編という感じで楽しめた。ネタバレになってしまうので詳細を書くことは控えるが、おもしろいのでぜひツアーの続きで確認して頂きたい。名古屋公演は明けて1/23(土)に、大阪公演は1/28(木)に行われる。このアンコール、内容的な部分で、悔しいが東京よりもそちらの方が盛り上がると思う。(小池宏和)