UKロックに異変が起こっている。
その異変は一言で言えば「復活」なのだが、単なるリバイバルではなく、ロックに対する全く新しい意識と価値観を持つ新世代アーティストによる実験場と化しているのが何よりスリリングだ。ウルフ・アリスやフォンテインズD.C.を筆頭に、近年UKで大成功を収めているバンドの多くがインディ・レーベル所属の純然たるインディ・バンドであるのも特筆すべきだろう。
そう、UKロックの復活とは、UKインディの逆襲でもあるのだ。
近年のUKインディの活況を伝える最たる場がサウス・ロンドンのバンド・シーンであるのは言うまでもない。今回取り上げるバンドの多くも同シーンから登場しており、ブリクストンのベニュー、ウィンドミルを中心に育まれたポジティブな競争心と互助精神からなるそのコミュニティは、ストリーミング時代のバンド・シーンのもうひとつの顔、リアルな繋がりの普遍の価値を伝えるものだ。
また、現UKロックの最重要プロデューサー、ダン・キャリーの主宰する「スピーディー・ワンダーグラウンド」の存在も大きい。同レーベルはUKインディの最前線のさらに切っ先で、ブラック・ミディやブラック・カントリー・ニュー・ロード(以下、BCNR)、スクイッドらは皆ここから巣立っていったバンドたちだ。
サウス・ロンドンや「スピーディー・ワンダーグラウンド」のバンドたちのポスト・パンク、エクスペリメンタル、マス・ロック云々と形容されるサウンドに共通するのは、純音楽主義とでも呼ぶべきものだ。中には音楽の専門教育やジャズの薫陶を受けたバンドも多く、テクニックとセンスを競い合いながら未知の興奮を追い求めるフロンティアが、彼らの前には広がっている。
革新性を問う場が完全にロック以外のジャンルに移っているUSシーンと比較すると、ロックにイノベイティブな可能性を見出す機運が近年むしろ高まっているUKシーンは、幸福なガラパゴス状態にあると言えるかもしれない。
そして今年、そんなUK新世代の革新性を象徴する2組のバンド、BCNRとサウス・ロンドンの新星で4ADと契約したドライ・クリーニングのデビュー・アルバムが揃って全英4位を記録し、気難しい評論家からの絶賛と商業的成功を両立させるという快挙を達成してしまった。
彼らの成功にはギター・ミュージックへの脊髄反射的なネガティブ論と、盲目的なポジティブ論で分断されていた時代の終わりをつくづく感じるし、一周回って「面白いロック」と「退屈なロック」という至極シンプルなジャッジにアーティストとリスナーが共に立ち返った健全さがそこにはあるのだ。
次のページからは、シーンの最前線に立つインディ・レーベルの担当者たちへのインタビューをお届けする。ラフ・トレードからは創設者のジェフ・トラヴィスとジャネット・リーが登場。オリジナル・パンクの時代からUKインディを牽引してきたレジェンドであり、現在はブラック・ミディやゴート・ガールを見出した彼らが大きなサイクルの中で2020年代のUKシーンを語る意味は大きい。
また、BCNRを見事にヒットさせたニンジャ・チューン、待望のデビュー・アルバム『ブライト・グリーン・フィールド』をついにリリースするスクイッドと契約したワープの担当者にも話を聞いた。クラブ・カルチャーと深く結びついたニンジャ・チューンやワープがギター・ロックの震源地になっている現状もまた昨今のUKロックの特異点を象徴しているし、今起こっている異変とは、まさに新時代の地殻変動なのだということが、彼らの証言からは浮かび上がってくるはずだ。(テキスト&インタビュー、粉川しの)
次のページからは、ロッキング・オン6月号に掲載されている「UKロック特集」、各レーベル・インタビューの全文をお楽しみ頂けます。