会場が暗転しSEが鳴り始めると、ステージ正面の壁に大きく飾られたバンドフラッグが両サイドからのライトで照らされる。その光景はまるで映画のオープニングのような壮大さだった。ツアーファイナルというひとつの終わりが始まろうとする会場は、期待感と寂しさが入り混じった空気で満たされていた。
「こんなど平日なので、こんなにもの人が仕事を辞めて来てくれたんだなと思うと本当に嬉しい。ありがとう」と飯田が冗談交じりに感謝を告げると、もれなく失職認定された観客は大歓声で応える。そしてここで本公演のライヴDVDが発売されるというまさかのサプライズ発表がアナウンスされると、会場からは一段と大きな歓声が上がった。飯田は「楽しくない顔をしていたらモザイクかけるから、楽しんでね」と、楽しそうじゃない顔の人がどこにいる?というくらいの笑顔満開の会場に呼び掛けた。
そして、三島、辻友貴(G)、飯田が久野洋平(Dr)の方を向いて全員で呼吸を合わせると、久野のカウントを合図に“borka”の、飯田の伸びやかな歌声が響く。そんな音の心地良さに浸る間も無く、久野の叩きだす腹の底を直接殴られるような力強いドラミングにハっと我に返り、そのまま“shiranai hito”の異空間に投げ込まる。飯田の伸びやかな歌声と辻の織りなす不協和音、そして三島の壮絶なシャウトが交錯し、今まで演奏されてきた楽曲とはまた違ったcinema staffのダークな部分を魅せた。続く“super throw”でも感じられる、飯田の透き通る声と三島の熱を帯びたシャウトが導くギャップ。真逆の響きを持つ声は、互いの声の魅力と曲が持つ陰と陽を一層引き立てる。
ここで、一呼吸置いてから今作について話し始めた飯田の「大切に聴いてください、お願いします」と祈るような言葉には、このアルバムがバンドのキャリアの中で大きなポイントになっているということを改めて実感させられた。
そんな今回のツアーを「修学旅行みたいだった」と振り返った飯田から、「ありがとう。楽しかったよ、すごい」というメンバーへの突然の感謝の言葉が贈られる。そのあまりの自然さに三島も「じゃあ、おれも、ありがとう」と素直に応え、久野が「あれ、これ俺も言う流れ?(笑)…みんな、ありがとう!」と伝えた。こういうところにcinema staffの温かい人間らしさを感じた。
そしてここで、久野の紹介に呼ばれて、ツアーの特別ゲストとして“sitar of bizarre”のレコーディングに参加したインドのシタール奏者であるナマステさんが会場後方から登場!ところがナマステさんが意気揚々とステージに上がると、三島から「ナマステさん、ひげ剃りました?」と指摘され、まさかの衣装ミス(付けひげの付け忘れ)が発覚。「なんていうかもう、辻ですよね」と思わず飯田も正体を零してしまうが、それにもめげずにインド人キャラを貫く辻…ではなくナマステさん。そして14公演に渡る今回のツアーに全てインドからの日帰りで参加してくれたというナマステさんとのラストセッションの1曲目は、ツアー恒例となっていたカヴァー曲。ナマステさんが持つ3枚の皿にはそれぞれカヴァー曲のキーワードが書いてあり、それを非公開のまま観客に選んでもらうというものだった。そして今回の締めくくりに選ばれたのはTHE YELLOW MONKEYの“LOVE LOVE SHOW”!かの大名曲も飯田が歌うと途端にcinema staffの曲になるし、《LOVE LOVEしよう》なんてきっと自身のバンドの曲中では歌わないであろう歌詞のギャップがなんとも良かった。そして「ナマステさんのフライト時間が迫っている」とのことで、ラストは会場全員での「ナマステー!」のコールを合図に“sitar of bizarre”の飛び跳ね遊ぶような音が会場いっぱいにちりばめられた。
熱烈な拍手に呼ばれたアンコールでは、この日に情報解禁となった『残響record Compilation Vol.4』のCM撮影が行われ、更なる特別感が演出された。そして「最後なんで楽しんでください」との飯田の言葉から“AMK HOLLIC”“Poltergeist”の2曲を披露。最後には、辻は着ていたTシャツを脱ぎすてフロアにダイヴ、三島のシャウトが轟音と共に耳を突き抜け、飯田は寝転びながらプレイ、久野は一心不乱にドラムを叩くというまさにカオスな光景がこの待ち受けていた。音楽に狂ったような4人の姿は、まさに中毒(HOLLIC)者のようだった。
この日アナウンスされた本公演のライヴDVD情報や、自身が参加する『残響record Compilation Vol.4』、さらに今年11/1(土)に故郷岐阜で行われるcinema staffの自主企画「OOPARTS2014」に関する詳細はHPに追ってアップするとのこと。彼らの今後の活動からも目が離せない。(峯岸利恵)
■セットリスト
01.dawnrider
02.sea said
03.奇跡
04.borka
05.shiranai hito
06.super throw
07.unsung
08.fiery
09.君になりたい
10.LOVE LOVE SHOW(THE YELLOW MONKEY カヴァー)
11.sitar of bizarre
12.チェンジアップ
13.ニトロ
14.KARAKURI in the skywalkers
15.great escape
16.西南西の虹
17.tokyo surf
18.theme of us
(encore1)
19.AMK HOLLIC
20.Poltergeist
(encore2)
21.GATE