ART-SCHOOL@LIQUIDROOM ebisu

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4月リリースの傑作アルバム『YOU』を携えて敢行された、全国15公演のツアー。札幌、名古屋、大阪と終盤をワンマンで駆け抜け、辿り着いたファイナルは恵比寿リキッドルームである。とめどない痛みを描き出す楽曲群、そのすべてが鮮烈に迷いなく響き渡り、ART-SCHOOLという存在のなんたるかを伝えていた。お馴染みエイフェックス・ツインのオープニングSEに満場の歓声が沸き上がると、戸高賢史(G)が、そして今のART-SCHOOLには欠かせない存在となったサポート2名の中尾憲太郎(B)と藤田勇(Dr)が登場し、木下理樹(Vo・G)はオーディエンスの表情を捉えるべくカメラを手に姿を見せると、いよいよステージの幕開けだ。

まずはART-SCHOOL流グランジ/オルタナティヴの風が吹き荒れる“real love/slow dawn”を叩き付けると、藤田の威勢の良い「ワン、ツー!」コールに導かれ、『YOU』から退廃的な情景にロマンスを見出そうとする“Promised Land”、そしてバンド一丸となって大振りなリフを振り回しつつのたうち回る“Miss Violence”と楽曲群を畳み掛ける。今にも膝から崩れ落ちそうな痛ましい歌の数々を吐き出す木下に対し、肩を抱えて支えるのではなく、周囲を取り囲んで倒れることも許さず、突き飛ばすようにしながら無理矢理立ち続けさせるような、今のART-SCHOOLのバンド・アンサンブルは本当に凄まじい。その音の中には、余りにも過剰で極端な、愛と理解の形がある。

きっちりと抑揚をつけて繰り出される“サッドマシーン”の終盤、ギターを搔き毟って嵐のようなサウンドを放っていたトディが挨拶すると、藤田の渾身のスネアが突き刺さる豪腕ナンバー“Perfect Days”、今も変わらずズタボロになりながら確かめるように愛の言葉を交わそうとする“Driftwood”と、新作収録曲が披露される。この直後には“DIVA”“アイリス”“乾いた花”と初期曲が続けざまに放たれて驚かされたのだが、巧みなメロディを練り上げつつ胸に真っすぐ飛び込んで来る新作曲の手応えは、初期曲のフレッシュさと並んでいてもまったく違和感がない。

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「ヴェルヴェット・アンダーグラウンドでいう、ニコみたいな存在です。UCARY & THE VALENTINEさんです」と木下が紹介してUCARYをステージに迎え入れると、“BLACK SUNSHINE”を経てモータウン・ビートで転がる“Water”、沸々とサウンドが膨らむ“YOU”、そして昨年発売のミニ・アルバム『The Alchemist』収録曲の“フローズンガール”といった楽曲群でUCARYは透明感のあるコーラスを加えてくれる。とりわけ、“YOU”でのドリーミーなヴォーカル・リフレインは素晴らしかった。そして彼女を見送ると、「今日ねえ、ワールドカップだと思ったんですよ。日本の。朝10時に目覚ましをセットして。そしたら全然関係ないニュースばっかやってて。日本はこんなにもサッカーに希望を失ってしまったのか、そんなわけない、と思って……明後日だった」と、余りにも木下理樹なW杯トークである。

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しかし、楽曲の話題となると一転してシリアスなMCへ。「“革命家は夢を観る”って歌詞を書いたんだけど、ほとんど廃人のように部屋に閉じ篭ってた毎日だったんですよ。どんなメッセージでも、聴く側が自由に解釈してくれればいいんですけど、革命家はバカみたいな理想をカタに、敗北するものなんですよ。そうでないと、革命家ではないんですよ。レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンの1993年ぐらいのライヴを良く観るんですけど、(ヴォーカリストの)ザックさんは怒りとかだけじゃなくて、哀しいような目をしているんですよね。革命なんて、負けるから哀しいんですよ。そうありたいと思います」。そう語ってラッパーの環ROYを招き入れ、ROYが「リキとトディが、リキッドで、ライヴしてる!」と押韻を披露しつつ、“革命家は夢を観る”を届けるのだった。木下のMC前には“その指で”でファンキーなグルーヴが温めてあり、ヴォーカルのコンビネーションもきっちり決める名演であった。

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「今日はファイナルだー! こっから激しいライヴに突入するので、準備はいいですか!?(木下)」「東京のお客さんはまだあったかいです(戸田)」「そんなんじゃ足りないんだよう!(木下)」とご機嫌に荒ぶりつつ、再びUCARYも登場して木下の背面ダイヴから“RocknRoll Radio”で本編のラスト・スパートへ。“車輪の下”→“ロリータ キルズ ミー”→“UNDER MY SKIN”、そして極めつけに“FADE TO BLACK”という必殺曲の連打はさすがに圧巻だったけれど、ここでも新作曲が発火点になっていたのが素晴らしかった。

アンコールに応えると、トディの「あとは燃え尽きるまでやるだけだなあ、と。ひとつよろしくお願いします」という挨拶に続き、木下は“Hate Song”について「最近、変でしょ。親が子を虐待したりとか。負の連鎖、っていう言い方をされがちなんだけど、そういう育てられ方をした人が、そういうことをするって。でも、俺はふざけるなって思ってて。もし、そういうことを感じている人がいたら、そんなことないよって伝えるために、この曲を作りました」と語り、UCARYを加えた編成で理想を美しく奏でていった。ART-SCHOOLは、確かに哀しい革命家かも知れない。いや、ずっとそうだった。むしろ、勝者になっていないから、ボロボロになりながら戦い続け、『YOU』を生み出すことが出来たのだと思う。絶大なエネルギーを放つ音と、勝者になりえない者の信念が、完璧に合致した作品であり、そしてライヴだった。

この後も、UCARYが愛してやまないという“SWAN DIVE”の共演に続いて、実にトリプル・アンコールまで全30曲。木下が「千代の富士で言うと、体力の限界です」と告げながら披露したのは“SWAN SONG”で、しかし最後まで鮮烈なサウンドをキープしたまま《どうでもいい、でも一度/心の底から笑ってみたいんです》《はいつくばってみっともないな、でも今日はそんな風に思うんです》と歌った。その声と音がこの世からすべて消え去る日まで、革命は終わってはいないのだ。(小池宏和)

■セットリスト

01.real love/slow dawn
02.Promised Land
03.Miss Violence
04.FLOWERS
05.サッドマシーン
06.Perfect Days
07.Driftwood
08.DIVA
09.アイリス
10.乾いた花
11.BLACK SUNSHINE
12.Water
13.YOU
14.フローズンガール
15.1965
16.その指で
17.革命家は夢を観る
18.RocknRoll Radio
19.車輪の下
20.ロリータ キルズ ミー
21.UNDER MY SKIN
22.FADE TO BLACK

(encore1)
23.Hate Song
24.SWAN DIVE
25.スカーレット
26.あと10秒で

(encore2)
27.刺青
28.MISS WORLD
29.BOY MEETS GIRL

(encore3)
30.SWAN SONG
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