デビュー以来、アルバムをリリースするごとに、元来のポップネスに加えバンドとしてのタフネスを着々と積み上げてきたDISH//は、今まさにバンドとして確かな充実期を迎えている。そして、これまでこれほどにメンバーそれぞれの人生がその音に、歌に滲んだ作品もなかっただろう。それはそのままバンドとしての自信の表れであり、DISH//というバンドをメンバー全員で「アレンジ」し続けてきた到達点である。この大充実作が生まれた背景を4人へのインタビューでひもとく。
インタビュー=杉浦美恵 撮影=マスダレンゾ
──DISH//らしく多様な楽曲が収録された、それでいてしっかりと人生讃歌とも思えるあたたかいメッセージが伝わるアルバムになりました。100曲以上あったデモの中から厳選したんですけど、どれもクオリティが高くて、妥協せずにちゃんと作れたなと思います(泉)
矢部昌暉(Cho・G) DISH//は今年で15周年を迎えるんですけど、アルバムに入れる新曲たちは、昔ならもっとアゲアゲ! イエイ!みたいな曲が多くなったと思うんですよね。今回は音楽的にも歌詞的にも、深くて落ち着いたものが増えた気がします。
北村匠海(Vo・G) 実際にできあがってみると、当初『aRange』というアルバムタイトルに込めた意味も、いろいろ広がるなあと思って。この作品の存在意義は、聴く人によってもアレンジされていくんだなあって。自分が書いた歌詞も、全員に届けとは思ってないんですよね。何か1曲でも、1フレーズでも、それぞれの人生のコアに届くものになればいいなって。それがこちらの意図と違うとしても。
──リリースした今となっては、『aRange』というタイトルの意味さえもリスナーに委ねられるというか。
北村 ある意味、それが音楽のあるべき姿だと思うし。そういう意味合いの幅や自由度の高さが、個人的にすごく気に入っています。
泉大智(Dr) 今回は100曲以上あったデモの中から厳選したんですけど、どれもクオリティが高くて、妥協せずにちゃんと作れたなあと思います。カルロス(Carlos K.)さんが制作に入ってくれて、新しい発見がたくさんありましたし、ほんとに満足のいく1枚になりました。
橘柊生(DJ・Key) ギリギリまで入れるかどうか悩んだ曲もいっぱいあって、どっちにする? こっちにする?って話しながら最終決定した曲たちなんですけど、「これはライブでどうなるんだろう」という曲も多くて、既にライブで披露するのが楽しみですね。
──具体的には収録曲はどうやって決めていったんですか?
橘 まずデモ曲を一覧にして、それを僕と大智とカルロスさんの3人が各々で聴いて。そのうえで、「これがいい」という曲を挙げていきました。その中で被っている曲をまずはピックアップしたり、あとはゼロイチで作った曲もあるし、もともとあった曲同士を組み合わせたものもあるし。
──その作業も『aRange』というタイトルにつながりますね。それにしても100曲以上とはすごいです。その選定は大変だったのでは?
泉 僕らは4人とも曲を作れるから、それがDISH//の強みでもあるんだけど、それだけデモは膨大な量になるんですよね(笑)。確かに大変でしたけど、DISH//が今のタイミングだからこそ出すアルバムということも意識して選んでいきました。
──北村さんは、そのセレクトについて何か意見を言ったりは?
北村 今回、僕は意図的に3人のコミュニケーションに介入しないようにしていました。あと出しで自分がまた違う意見を言うのは、あまりクリエイティブだと思えなかったんですよね。だから、柊生とかに相談されても、3人のコミュニケーションがしっかりとれていて、気持ちよくやれてるならいいんじゃない?って信頼してました。これまでも“ごはん”とかいろんな楽曲を既にカルロスさんとやっていたし、その制作の過程が楽しそうだったのも見ていたので、自分がやるべきことは、選ばれた楽曲たちに「今出す意味」を付加することだなと思っていました。
──バンドとしての信頼関係がそこにあり、各々の役割が明確だったということですね。28歳になった今だからこそ人生の楽しさも悲しみも知ったし、自分の人生を書くことに自信が持てる(北村)
北村 そうですね。歌詞でいえば、今回自分が作詞した楽曲は、自分自身の今の状態が表れていたり、メッセージもすごく主観的な言葉が多いんですよね。リアルに自分が経験してきた感情を表現しているというか。結局、歌詞ってその人の人生経験でしか成り立たないと僕は思うし、背伸びして「こういう歌詞を書きたい」というだけでは薄っぺらくなってしまうから、そういう方向の「アレンジ」はしたくなくて。柊生が歌詞を書いた“泣くもんさ”にしても、これは橘柊生にしか書けない橘柊生の人生だなって思う。自分の人生を振り返っても、28歳になった今だからこそ人生の楽しさも悲しみも知ったし、自分の人生を書くことに自信が持てるんですよね。
──その歌を届けるための「アレンジ」が重要だと。
北村 自分の人生も誰かにアレンジしてもらって続いてきているんだなということも考えました。この人と出会ったから人生の方向が変化していったなとか──“ヒーロー”という曲も、『刑事、ふりだしに戻る』っていうドラマのタイアップがなければ、こうアレンジはされていかなかったよなとか。そういういろんな出会いやつながりで分岐点が訪れて、今がある。それを体現できた作品になったと思います。
──“ヒーロー”はどんなふうに作っていったんですか?
矢部 はじめに柊生の家に匠海以外の3人が集まって、うだうだしゃべりながらトラックを作って、それを匠海に投げてメロディをつけてもらって。そもそもは別のタイアップ曲を作ろうというときに一緒に作ってた曲で、これもいい曲だからいつか出そうかって言ってたんですよね。そこに『刑事、ふりだしに戻る』のタイアップの話がきて、これがいいんじゃない?って。
橘 これ、匠海らしい歌詞だよね。俺、2Aの歌詞がすげえ好きで。
北村 《オセロ》のとこ?
橘 うん。“ヒーロー”っていうタイトルで歌詞を書くときに、「オセロの角」って普通出てこなくない? そこの柔軟な発想力が好き。
北村 「ヒーロー」って、白黒はっきりつけるっていうイメージがあるけど、僕は勧善懲悪みたいなのが好きじゃなくて。グレーでもいいじゃんっていう。悪は黒、正義は白みたいな決めつけが好きじゃないっていうのがありますね。
橘 昔から言ってるよね。敵から見たら黒も正義だし、みたいなこと。
北村 “プランA”の歌詞とかもそうだけど、どちらにも大義名分があって、だからこそ難しい。でも悪魔が「白黒はっきりさせよう」って言ってくるならノーだなって。