その新たな境地と姿勢を明確に打ち出したのが最新曲でありTVアニメ『呪術廻戦』「死滅回游 前編」オープニングテーマでもある“AIZO”だ。高速ドラムンベースと狂ったミクスチャートラックに乗って、この時代そのものを振り切って本能と愛と憎しみを奪い返すようなMADなアンセム。これぞKing Gnu、待ってたぜ!
時代とどう向き合うべきか、バンドの進化との関係、そして常田の思想、メンバーの思い、などあらゆる角度から「なぜ今、初期衝動に満ちた原点回帰とも言えるこの曲が生まれたのか」をじっくりと語ってもらった。2026年に向けてKing Gnuのファイティングポーズがリアルに伝わると思う。
インタビュー=山崎洋一郎 撮影=川上智之
──“AIZO”、この曲はヤバいですね。(“AIZO”は)構成の変化を経てソリッドになって、曲の強度と練度が高まった。渾身のストレートパンチになってたらいいなって(新井)
常田大希(G・Vo) よかった(笑)。
──ものすごく画期的な曲だと思う。ちなみにベースは、生じゃない?
新井和輝(B) 生も入ってますけど、頭はシンベで、サビはエレベだったりで、ありとあらゆることにトライしています。
──ドラムは完全に打ち込み?
勢喜遊(Dr・Sampler) 完全に打ち込みです。でも、ライブはわりと生になると思います。最近、「こんなのできないだろ」っていうのを無理やり打ち込むのが好きで。
──ただ、曲調としてはわりとKing Gnuらしいというか、MILLENNIUM PARADEも含めて何回かやっていたスタイルではあって、似たアプローチの曲はあるけど、ここまでのドラムンベースは初だよね。
常田 成長した感じもあるかもしれないですね。正統な流れではあるが、構築の仕方の精度が昔より上がった感じ。進化形な気がします。
──そして、決定版感があるよ。進化形というだけじゃなくて、基本に戻ったゼロ型という意味での安定感もある。
常田 たまには狙ってかないとなって(笑)。
──まず、この曲がどうできたかを話してもらえますか?
新井 ベースラインでいうと、大希が作ってきたラインをそのまま僕が弾き直した感じでした。大希がSNSでちょっと見せてた曲の一部分でもありつつ、かなりキャッチーなベースラインが来たので、それをよりよい形にする作業だったんですけど──ほかの曲よりもかなりいろんな音像感でトライしましたね。パソコンの中で歪(ひず)みを作ってみたり、オクターブ下を重ねてみたり、いろんなことを試して。そういう意味でかなり思い入れのある曲ですね。構成をこねくり回した曲でもあるので、バンドとしての制作という意味でも思い入れがあります。
──でも、構成は結構シンプルな曲じゃない?
常田 もっとプログレッシブな展開だったんですけど、いろいろと削って、現状のを聴くとそんなにトリッキーには聞こえない構成かな。
新井 そうそう。構成の変化を経て、曲としてもソリッドになって、曲の強度と練度が高まったなあって感じてて。だから、手応えがあるというか、やり切った感じです。渾身のストレートパンチになってたらいいなって。
──超ストレートパンチだと思う。
新井 それはよかった!
──井口くんはどう?
井口理(Vo・Key) 歌の部分でいうと──“一途”とかもロックチューンではあったんですけど、そこまでストレートな、ロック的な歌唱ではなかったなという印象があって──ひと昔前の“Vinyl”とか“Flash!!!”とかの歌唱感というか、王道な感じの歌い方にはなりましたね。
──勢喜くんはどう?
勢喜 最初にデモもらった時に、「ああ、ドラムンベースをやるんだ」と思って。ちょうどYohji(Igarashi)くんとのプロジェクト(勢喜遊 & Yohji Igarashi)をやろうかなっていうタイミングだったんですけど、そっちでもドラムンベースをやってたから、リンクしたというか。King Gnuでもできたのが嬉しかったです。ドラムンベースみたいなことは、そこまでやったことなくて。
──ドラムンベースのイメージはあるんだけど、実はそんなにやってなかったよね。
常田 “KICK BACK”(米津玄師と常田の共同編曲)のイメージがあるからかも。
──なるほど。ドラムンベースのビートで、こういうバイブスの曲に落とし込むという構造は似てるかもね。
常田 そう。“KICK BACK”がいい感じに仕上がって、もちろん当事者でもありつつ、ちょっと悔しかった。「欲しい!」みたいな。その思いを詰めた感じも、曲作りの初動にはありますね。
──本音すぎだよ(笑)。
常田 ははは。でも、今までのヌーのアッパーな曲とか、外部で(ほかのミュージシャンと)一緒にやった曲とかを通過したうえで今出す曲となると、ある程度ハードルはあるから。そこはちゃんと越えられたかなって思います。
──この曲はTVアニメ『呪術廻戦』のタイアップだけど、作品とのリンケージはどう考えたんですか?
常田 正直、あんまり気にしてないというのが本音ではあります。要は、自分たちにとって必要な曲が、『呪術廻戦』にはありがたいことに自然と親和性があるという──並走してる感覚に近いです。だから、『呪術廻戦』に捧げようという意識より、自分たちの剛速球が結果として『呪術廻戦』と並走してくれるんじゃないかって。その強さが向こうにもありますし、お互いどっしりとしてる感じがします。
新井 King Gnuの質感や雰囲気と、『呪術廻戦』の持ってるものが、ある側面でそもそも近いということがすべてだと思います。それによって、こっちも信頼があるし、向こうも信頼があるという感じの制作でしたね。
──音楽的な部分でいうと、完全にどファンクな曲になってるじゃない? そのあたりも、いろんなことを経た今のKing Gnuの一歩を象徴してるのかなと思ったんだけど。自分の声的にはChill Mixに登場するような歌い方だと思うんですけど、King Gnuで、今そんなにないロック的な歌い方をすることは意味があるんだろうなって(井口)
常田 今、チルっぽいのとか、いいムードのものが世界的なトレンドというか。全部がチルい中で、僕が今、子どもだったらたぶん音楽には行ってないなって思う。そういう意味で、こういうアプローチ──いわゆるロックバンドみたいなことが、世の中的には逆に新鮮に映るんじゃないかなと思いながら作ってました。
──やっぱそうなんだね。そういう欲求不満が募ってたところに、これじゃん!っていう曲だった。
常田 世間もそう思ってくれたら嬉しいですね。
新井 “Vinyl”“Flash!!!”からの進化と、ドラムンベースを乗っけてるけど曲は8分(はちぶ)ベースでストレートみたいなことって、2ndアルバム『Sympa』(2019年)らへんのKing Gnuの、何かに対して何かをぶつける、ストレートなものにストレートなものを乗せないという──「トーキョー・ニュー・ミクスチャー・スタイル」って言ってたあの感覚なのかもって。
冷静に考えたら、歌が8分の曲にこれを乗せるって歪なことかもしれない。でも、それを自覚せずできちゃってて、「すごいストレートパンチだね」って言ってもらえてる現状が、これからのKing Gnuに繋がるかもしれないし、今までやってきたことの積み重ねの成果かもしれないし。そういう意味で、さっき仰ったみたいに、ゼロ型みたいな立ち位置の曲なのかもと思いました。
──新しい原形みたいなね。井口くんはどう?
井口 僕、最近舞台(『キャッシュ・オン・デリバリー』)をやってて。Amazonで、シャクティマット──6千本とかの鍼がついてるマットを買ったんです。で、それに20分くらい寝なきゃいけないんですけど、痛すぎて変な考えがあまり浮かばないというか(笑)。
新井・勢喜 ははははは。
井口 毎日自宅でそれをやりながら、ちょっと恥ずかしいんですけど──SpotifyのChill Mixみたいなのを流してて。
──なんか最悪だなあ。
井口 最悪でしょ?(笑)。それってさっきの話というか──音楽がただの補助になってるな、みたいに思って。たとえばドライブの時に聴く曲は、もしかしたらKing Gnuじゃない、ナイトドライブのプレイリストみたいなものかもしれない。最近、音楽自体がそういうBGM的なものに成り下がってるんだろうなと。
でも、King Gnuの音楽って、流して聴けるものじゃないじゃないですか。逆に言えば、強度があるというか、集中して聴かなきゃいけないものになってるのかなとも思っていて。自分の声的にはたぶんChill Mixに登場するような歌い方だと思うんですけど、King Gnuというバンドの中で、あえて今そんなにないロック的な歌い方をすることは、何かしら意味があるんだろうなって、シャクティマットやりながら思ってます(笑)。
──(笑)だから、元々のロックバンドとしてのスタンスを明快に宣言してるというか、改めてそこに立ってることを感じさせる曲だよね。ある意味、原点回帰と言えるかもしれないけど、それを最新デザインの最新エンジンの、最新イクイップメントでやってるという。
井口 聴かせる音楽ってことなんだと思うんですよね、たぶん。
常田 わざわざ時間を割いて、お金を払って、そいつらのライブを観に行きたいと思うかという視点で考えると、BGMを2時間ダラダラ聴くために人は動かないと思うから。だから、ある意味、王道なやり方をしてる気がします。ありがたいことに、それを観たいって言ってくれるお客さんも年々増えてるわけで。そういう意味では、立ち位置も含めて原点回帰感はある。
──この曲はそれがすごくわかりやすく出てる。それこそ、冒頭の笙の音とコードにはヨナ抜き感というか。
常田 ああ、和感ありますね。
──King Gnuの最初はそうだったじゃない? ファーイーストの日本を客観的視点で見た世界観というか。
常田 でも、昔だったら、和感を出す時にああいうアプローチはちょっと恥ずかしくて。ただ、人にはそこまで伝わらないんだなって。自分の中の音構築とか組み合わせのオリジナリティが明確にあるんですけど、世の中の評論家だとか、わりと音楽詳しいってされてるやつらの中で「あ、そういうのをいいとするんだ?」っていうのがあると、やっぱり自分とは感覚が違うんだ、というのをキャリアの中で感じてきたというか。だから俺の中では結構(クエンティン・)タランティーノの影響下にいるって感じで。あのくらいトータルのスピード感と抜け感をもっとストレートに、わかりやすく出していいんじゃないかって。
──ミクスチャーくらいの感覚だと曖昧になるから、もっとぶつけるような、よりラフで明快なやり方をしたっていうことだよね。
常田 ──っていうのを、ポップスとして新鮮に映すことができそうだなって。あそこも別に、笙とバイオリンなんて白玉で弾いちゃえば同じようなニュアンスを出せるけど、笙でいいじゃんというか。
──三味線も入ってるしね。
常田 三味線も入ってる。遊の奥さんが弾いてね。
井口 やっぱり最初の笙の音を聴いて、日本人が捉えてる和楽器感の入れ方じゃないなってすごく思いましたね。タランティーノが日本を吸い上げて『キル・ビル』にしたとか、マカロニ・ウェスタン(イタリア製西部劇)の感じとか、逆輸入みたいな入れ方をしてる印象があったので。
──日本のロックバンドを相対化したうえでJ-POPをやります、というのが最初のKing Gnuだったじゃん。その相対化加減がこの曲に出てると思う。それを外国人が見た日本くらいの明確さでやってる。
常田 今回の『死滅回游編』がいろんな時代から(術師が)現代に蘇る話だったことも、そういうアプローチに作用はしてます。そういう意味では、ちゃんと合わせてますね。
──俺も40年くらい評論家として音楽を聴いていて、日本のバンドによる雅楽のイントロで始まる曲って、普通だったら「ああ、はいはい」ってなるのに、それを鳥肌が立つレベルで聴かせられるというのは、かなり衝撃的だった。
常田 いや、ありがたいですね。でも、雅楽と三味線も時代は違うらしくて。現代の雅楽の曲としてはあるらしいんですけど、楽器の時代設定的には結構違う。それは『呪術廻戦』にもすごいフィットしてるかも──という後づけ(笑)。
新井 (笑)でも、『呪術』っぽいなって思ってくれる人も多いと思う。俺らの意図してない部分でも、そう思ってもらえる曲だと思いますね。