【インタビュー】圧倒的な歌声が、喜びも悲しみも寂しさも、すべての感情を色濃く映し出す。アルバム『B.G.M.』に深く刻み込んだ、菅原圭の音楽の本質

【インタビュー】圧倒的な歌声が、喜びも悲しみも寂しさも、すべての感情を色濃く映し出す。アルバム『B.G.M.』に深く刻み込んだ、菅原圭の音楽の本質
唯一無二の歌声、その深い響きには抗いがたい中毒性があり、「喜怒哀楽」と単純に切り分けることのできない複雑な感情をも表現する。そして何より、菅原圭は「言葉」を繊細に綴るシンガーソングライターでもある。彼女の発信する歌には、どんな抽象的な言葉にも「その言葉である必然」が宿るような気がするのだ。
2ndフルアルバム『B.G.M.』に収録された全12曲は、よりその気配を濃くする。人間の生活の中の様々な場面や感情を掬い取り、寄り添い、時には声にならない痛みを代弁するアルバムにもなった。「BGM」という言葉を聞くと、聞き流す音楽、なんとなく後ろで鳴っているものというイメージもあるが、その概念を塗り替えるようなアルバムである。「人生の背景で鳴る音楽」として、今、菅原圭はどんな思いでこの作品を作り上げたのか。その創作の源泉を深掘りしてみよう。

インタビュー=杉浦美恵


元気な私もいるけれど悲しい時もあって、誰かを励ましたいけれど励まされたい自分もいる。自分の人生の中のいろんな感情の背景を音楽にできた感じ

──まず、今回のアルバムのタイトルが『B.G.M.』だというのが興味深いなと。

私の中で『B.G.M.』というのは、「選ばれし曲」というイメージです。「今このタイミングでこの曲を聴きたい」と思う時、それは数あるお気に入りの曲の中から選ばれたもので、つまり、その人のBGMとなるものですよね。なので、そうなるようにという思いを込めてつけました。悲しい時に寄り添ってくれる曲、わくわくしたい時に聴きたい曲、寂しい時に癒される曲……そうやって心の色を変えてくれるような楽曲を盛り込んでいきました。アルバムを作り終わった時、「ああ、生活だなあ」って思えて、ようやく私のBGMができたという気持ちでした。元気な私もいるけれど悲しい時もあって、誰かを励ましたい自分もいるけれど励まされたい自分もいる。自分の人生の中のいろんな感情の背景を音楽にできた感じがしています。

──1曲目が“夜の惑星”。シティポップライクなグルーヴ感で響く、1曲目にふさわしい滑り出し。これはどういう感情から生まれた楽曲でしたか?

私はたとえば、お仕事のメールを開く時に、とても勇気がいるタイプなんです。開けば「始まってしまう」感覚があって。すぐに返事をしなければいけないという責任もあるし、「よーい、ドン!」の「よーい」の状態に入ってしまうのが、少し気が重いというか。仕事だけじゃなくて、お風呂に入らなければとか、料理を作らなければとか、日常の作業でも、「よーい」の状態を感じる場面はたくさんあって、この「よーい」の状態がほんとに心苦しいんですよ。なので「30分だけやろう」という気持ちからできた曲でした。そういう「よーい」の状態にいる人がたくさんいるんじゃないかと思ったんですよね。

──この曲の《30分じゃ足りない貴方》と歌う声が強く響きます。

30分やってたら意外と筆が乗ってしまったということはよくあって、その《30分》の先にいる人たちは、きっと今輝いているよなあって。終電とかで帰ってくると、マンションの窓にはまだ灯りがいくつか点いてたりして、それを見ると「ああ、“夜の惑星”の住人だあ」って、よく思うんですね。電気が消えてるところが多いからこそ、余計に光ってる部屋がよくわかる。あの人たちは“夜の惑星”に住んでいて、今何かを発信をしているんだなって思っています。

──その次が“ORACLE”。菅原さん自身が書いたものではなく、春野さんが作詞・作曲・編曲を手がけた提供曲ですね。

春野さんとは、私が中学生の頃からの知り合いで、ずっと尊敬しているアーティストです。何年か前に“celeste feat. 春野”という楽曲でご一緒させていただいた時は、私が作詞・作曲して「一緒に歌ってほしい」とオファーした形だったんですが、今回は自分に対しての提供曲としていただいて、すごく嬉しかったです。でも、実はかなり難航したみたいで。春野さんとしても「これが菅原圭だ」というものを出したいというので、何曲か提案していただきました。で、「これいいね!」って言っても、「でもこれじゃない気がする。もうちょっと納期を伸ばしてもらってもいい?」って言われて、また新たにいただいたのがこの曲でした。


──すごいですね。そこまで「菅原圭」という人間を表現しようと。

歌詞を見て、この人は私のことをずっと見ていてくれたんだなって思えて、私の過去を長く知ってくれている人の大切さというのを改めて思い知りました。面食らいましたね。この人はなんてやさしい歌詞を書くんだろうと。言葉が強いのにやさしい。春野さんのことをまた一層尊敬した一曲でした。

──自身で書くもの以上に「菅原圭」という人間を表す楽曲になったと思いますか?

そうですね。私は自分の内面のことを書くより、創作というか、「こういう人たちもいるよね」っていう曲を書くほうが好きなんです。自分のことを語りすぎたくないというか。でも“ORACLE”を歌っていると、自分が書いた曲じゃないのに、何より自分のことを歌っているかのような奇妙な感覚になります。これをもらった時、誰にも理解してもらえないと思っていた自分を、理解してもらえたような気がして、すごく泣きそうになったんです。尊敬している人に曲を書いてもらうというだけで恐れ多いのに、その人が、私をこういうふうに見ていてくれる。私が言えなかったことを赤裸々に書いてくれて、音楽にして私に言わせてくれるんだという感動がすごく強くて。自分の作詞・作曲ではないけれど、『B.G.M.』の中ではいちばんと言っても過言ではないくらい、ほんとに思い入れのある楽曲になりました。

──すごく興味深いです。《思い返せば許せないことだらけだが/今のとこは殺さないでやっても良い》という歌詞も、すごく心に刺さります。

私だったらきっと書けない。書いちゃダメなような気がしていて。でも「いや、これがおまえだろ」って言われているような気がして、春野さんの表現の幅広さを感じたし、そういうものを言葉にできるところに、より尊敬と畏怖を感じました。

【インタビュー】圧倒的な歌声が、喜びも悲しみも寂しさも、すべての感情を色濃く映し出す。アルバム『B.G.M.』に深く刻み込んだ、菅原圭の音楽の本質 - COUNTDOWN JAPAN 25/26COUNTDOWN JAPAN 25/26

ダサいって思われるかな、じゃあ着ないでおこうなんていうのは、そこに心はあるのかとさえ思う。ダサいって言われるかなと思ったのでやめましたっていうほうが、よっぽどダサいんじゃない?って[

──そして次が“mean”という曲で、ダークだけどドリーミーな中毒性の高いポップス。これはyuigot(PAS TASTA)さんとのコライトで、英詞と日本語詞のミックスが新鮮でした。

そうなんです。初めての試みで。『ムーミン』みたいな世界観のファンタジックなものを作りたいなって思っていたんです。英語と日本語の書き分けに関しては、英語の部分で本質を歌っているんですよね。英語の部分が「暗闇はささやいた。愛とは壊すことだと。でもあなたは時間だけを置いて、どこかに去ってしまった」みたいな意味で。日本語にすると直接的すぎてうまくノレないんですけど、英語ならさらっと歌えるんですよね。


──日本語部分は抽象的な詩のような雰囲気で、よりダークでファンタジックな雰囲気が出ますよね。これはどういうことを歌っている?

《ある日 化け物が私を見ていた/食して嬲って 一部になっていた》っていうのは暗闇を表現していて。化け物は「愛」だと思ってそうしていた――親の影響とかで、それを愛と勘違いしている人がたくさんいるんじゃないか、というところから着想しています。学校生活でもあると思いますけど、多感な時期に小さな世界にいるとその場の空気にのまれやすいですよね。私自身も高校くらいまでは、人とのコミュニケーションの中で「私はあなたより下です」とか、「私はあなたより不幸ですよ」っていう自虐の態度が喜ばれるのだと思っていたんです。だけど、上京してみたら「いやいやそんなことないよ。楽しい話をしようよ。あなたは素敵だよ」っていうマインドのほうがOKとされて、その違いを描きたかったのもありますね。

──そしてアルバムのリード曲となる“ハイセンス=ナンセンス”は、強烈なファンクネスで菅原さんの歌が炸裂する楽曲でした。

結構前に作った曲なんですけど、自分を鼓舞している曲でもあって。一次創作であったり、身につけるものでもそうですけど、「流行っていればハイセンスなのか?」、「流行ってみんなが身につけるようになったらナンセンスになるのか?」っていう思考から作った曲です。ラブブとかもそうだけど、「いちばん最初に身につけた人はハイセンスで、それがめっちゃ流行ったらもうナンセンスなのか?」とか。「その境界ってどこにある?」と思って。でも、「『あの人に影響されてやってんだな』って思われたら嫌だ」っていうのがあったとしても、創作ではそういう思惑はとっぱらったほうがいいと思うんです。これがハイセンスなのかナンセンスなのかはマジでどうでもいいけど、私が「いい」と思うからやる、みたいな感じでいたほうがいいんですよ。ダサいって思われるかな、じゃあ着ないでおこう、世に出さないでおこうなんていうのは、そこに心はあるのかとさえ思う。ダサいって言われるかなと思ったのでやめましたっていうほうが、よっぽどダサいんじゃない?って。

──“ハイセンス=ナンセンス”は、サウンドにも歌声にもその思いが炸裂してますね。

今作でいえば“おんなのこってね”や“ordinary”もそうなんですけど、タグチ(Hajime Taguchi)さんの編曲は、ド直球で「こうであってほしい」というものに仕上げてくださるんですよね。“ハイセンス=ナンセンス”は、それがナンセンスかハイセンスかなんてどうでもよくて、ここで踊っていたらかっこいいだろっていう感じの編曲。レコーディング時もそういう気持ちで歌っていたより、踊っていたというほうが近かったですね(笑)。

次のページなんだかみんなに嫌われてるような気がしてしまう。でもその「みんな」って誰?と考えると、自分の心の中に住んでいる「実在しない誰か」でしかない
公式SNSアカウントをフォローする
フォローする
音楽WEBメディア rockin’on.com
邦楽誌 ROCKIN’ON JAPAN
洋楽誌 rockin’on