プリンスをダンス・カルトから一挙にメジャーなアーティストへとクロスオーバーさせる足掛かりとなったあまりにも重要なアルバムのリマスタリング再発が本作。前作『戦慄の貴公子』でもほのめかされていたが歌詞的には時事性も加わり、さらに“リトル・レッド・コルヴェット”などロック的な成り立ちを持った曲や、ニュー・ウェイブに近い感性のアレンジなど、一気に幅広いオーディエンスとファンを獲得することになった名作。
今回の再発ではエディションによってシングル・バージョンやB面曲、さらに未発表曲やアウトテイク音源、当時のライブ音源なども収録されているが、ファンとして当然気になるのは未発表音源の数々。ディスク2枚分あるので、これは端的に嬉しい。驚くのは『バットマン』のシングル“パーティマン”のB面曲“フィール・ユー・アップ”がすでにこの頃、ほぼあの形になっていたことだ。てっきり『バットマン』のインスピレーションの中で書かれた曲だと思っていたので、プリンスの鬼才ぶりがよく窺われる。ほかにも“ポゼスド”、“ムーンビーム・レヴェルズ”など、どれも出来が悪いわけではなくて、ただ本編収録曲の方がさらによかったというだけだ。このアルバムのソリッドさがなおさら実感できるという意味でも、プリンス伝説の底知れなさは本当だったとあらためて畏れ入ってしまう。
ライブ音源の方は1999ツアーのもので、ツアー後に脱退するギタリストのデズ・ディッカーソンが“リトル・レッド・コルヴェット”でソロを取る貴重なもの。前半は“リトル・レッド・コルヴェット”以外はそれまでの持ち歌で、後半はこれもまた貴重な“つれない素振り”も含めた『1999』の楽曲でたたみかける攻撃的なセット。時代の狭間にあるプリンスとバンドをよくドキュメントしている。 (高見展)
詳細はWarner Music Japanの公式サイトよりご確認ください。
ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』12月号に掲載中です。
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