前作は自らの生い立ちを述懐する自伝的な内容。音楽的にも英国人としてのアイデンティティーを確認するようなフォーキーでアコースティックな落ち着いた作品で、62歳(当時)という年齢なりの円熟を示していた。スティングにとって、ひとつの区切りとなる達成感のあるアルバだったのだろう。『シンフォニシティ』(2010年)で、ポリスの“ネクスト・トゥ・ユー”を、いつになく攻撃的にセルフ・カヴァーしていたのも伏線になっているのかもしれない。
スティングによれば、「エネルギッシュで喧騒に満ちながら、それでいて思慮深い作品」とのことだ。まさにその通りのアルバムである。
もちろんロック回帰とは言っても、ポリス時代に戻れるわけではない。声も変わりキーも低くなって、同じようには歌えない。だが歳をとってロックをやってるオヤジにありがちな、しぼんだり緩かったり錆び付いたり古臭かったりが一切ないのが驚きだ。キャリアを重ねた投手が力まなくても威力のあるタマを投げられるように、声も演奏も十分に力強く魅力的。カッティング・エッジなオルタナティヴ・ロックからアコギの弾き語りまで表現の幅は広いが、やさぐれた鋭利な知性と大人の男の凄みがどこからも溢れ出ている。正直言ってここまでやるとは思ってなかった。素晴らしい。(小野島大)