もう40年以上前になる初来日時ですら、もうゴドレイ&クレーム組はいなくて、オリジナル・10ccとは縁のない日本のファンにとってグレアム・グールドマンは最後の砦(笑)。そんなグレアム、2014年、<ソングライターの殿堂>入りを果たし、個人的にはこの人の書いた数々のブリティッシュ・ポップス、ビート・ナンバー(ヤードバーズ“Heart Full Of Soul”!!)を歌うソロ・ステージもいつか見てみたいが、そんな彼が支える10ccの看板、輝かないわけがない。現メンバーは70年代からの人も多く、4年ぶりとなる今回のライブも楽しいものになること鉄板、観客誰もが確信し、またみごと、そのとおりになった。
期待感が会場に充満するなかビルボードのステージに4人のメンバーと登場。自ら最高作と語る『シート・ミュージック』の1曲目“The Wall Street Shuffle”、続けて『びっくり電話』の“Art for Art's Sake”で会場中に、<来て良かった!>の空気が充満する。ちょっと甘酸っぱいメロとハーモニー、それを丁寧に肉付けするギターのリック・フェン、会場を把握した音量でアクセントを付ける小技がさすがなドラムスのポール・バージェスらの手堅いプレイが気持ちいい。ポップでありながら組曲風な展開を見せる曲が自然にあったり、リード・ボーカルや楽器類のチェンジなど、どれもスルリとやってのける職人っぽさもこのバンドらしい。
70年代半ばにはスマッシュ・ヒット連発であったが、そこらを巧みに配しているのはさすがで、中盤の“The Things We Do for Love(愛ゆえに )”で一気に会場のテンションが上がるが、『ブラディ・ツーリスト』の“From Rochdale to Ocho Rios(ロッチデールからオチョ・リオスへ)”が飛び出すあたりのセンスが良い。なんだか夢見心地のライブのとどめは、やはりこの曲、“I'm Not in Love”で、回転するミラーボールがこれほど合う曲もなく、誰もがこの曲と出会った瞬間を思い浮かべていたはず。
そんなセンチな気分の目を覚ますのが、ジャマイカでの休暇中のちょいと怖い実体験をネタにした“Dreadlock Holiday(トロピカル・ラヴ)”で、この人気ナンバーでの本編締めくくりはお約束とはいえ、満足感がとても高い。
そして時間短縮のため、引っ込むことなく、そのままアンコールに突入し、グループ初の全英No.1ヒット“Rubber Bullets”を会場中の大盛り上がりと共にくり広げてくれた。何でも出来て、名曲、ヒット曲が沢山あり、徹底的に楽しませることのできるブリティッシュ・ロックのお宝バンドならではの楽しい一夜だった。(大鷹俊一)