時代の声を代弁するビリー・アイリッシュ ―― 『ヒット・ミー・ハード・アンド・ソフト』で幕を開けた壮大な新章

時代の声を代弁するビリー・アイリッシュ ―― 『ヒット・ミー・ハード・アンド・ソフト』で幕を開けた壮大な新章 - rockin'on 2024年7月号 中面rockin'on 2024年7月号 中面

現在発売中のロッキング・オン7月号では、巻頭特集『ビヨンセテイラー・スウィフトビリー・アイリッシュ』の中で、ビリー・アイリッシュの新作『ヒット・ミー・ハード・アンド・ソフト』の全曲解説を掲載しています。本原稿の一部をご紹介。


最新アルバム『ヒット・ミー・ハード・アンド・ソフト』全曲解説

文=中村明美

米公共ラジオNPRの取材で「新作は、自分が誰かを説明するのではなく、これまでで一番そのままの自分を表現したものになった」と語っていたビリー・アイリッシュ。13歳で発表した“オーシャン・アイズ”で脚光を浴びた後、17歳のデビュー作『ホエン・ウィ・オール・フォール・アスリープ〜』から、19歳の『ハピアー・ザン・エヴァー』、“007/ノー・タイム・トゥ・ダイ”&『バービー』のサントラ曲に至るまで、そのキャリアで数々の“史上最年少記録”を作り、グラミー賞は9つ受賞したばかりか、アカデミー賞もふたつ受賞した驚異の才能と実力の持ち主。

多感なティーン時代を世界の注目の中で成長しながらも、現在22歳、大人になったビリーが発表した3作目『ヒット・ミー・ハード・アンド・ソフト』は、初めてそのままの自分を表現できたと言うように、過去のビリーの破格の才能は、まだ序章でしかなかったと告げるような内容。真の可能性が開花した決定的な作品だ。ダークで抑制された2作は、オリジンストーリーだったのかもしれない。

前作同様フィニアスとふたりで、彼の自宅スタジオで約2年かけて制作された今作。『ハピアー〜』では、突然の名声やスターダムに戸惑い、アイデンティティを失ったことを、抑制されたサウンドで表現。ボディイメージや女性性などを通して世界や社会が見る自分へ抵抗してみせたが、今作では反発ではなくて、真の自分とは一体何なのかを表現している。

ジャケットがその過程を象徴するようだけど、真の自分の心の扉を開けて海に深く沈み、自己と対峙している。だから、これまで抑えられていたものが一気にここで解放されているような作品でもある。“扉を開ける”ことはある種のメタファーで、クローゼットに隠してあった自らのクィアとしてのセクシャリティの告白も意味していると思う。それをここで描けたことも真の自分を語る大きなきっかけになっているはずだ。

歌詞では、恋愛や、傷心など複雑な心情をこれまでになく生々しく語っているので、リスナーは彼女の心にさらに1歩近付くはずだ。親密なウィスパーから過去にない高音域まで、ボーカルの表現力もこれまでの域をはるかに超えている。ボサノバに、フォーク、ダンスミュージックに、レディオヘッドからダフト・パンク、さらにビリーも前から好きだと言っていたジェシー・ウェアなど現在のUKソウルの影響力も感じさせるサウンドは、伝統的なソングライティングを下敷きにしてた過去の作品ともまた違うアプローチだ。

2曲を合わせたような婉曲したポップは、今のメインストリームのどこに属するのかも不明で、独自の道を突き進んでいる。そもそもこのストリーム時代に、ビヨンセやテイラー・スウィフトが約30曲発表している中、45分以内の10曲に集中。これまでになく研ぎ澄まされたサウンドで、最後まで聴き通すLPを完成させている。(以下、本誌記事へ続く)



ビリー・アイリッシュの記事の続きは、現在発売中の『ロッキング・オン』7月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。

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