UK屈指の四つ打ち遊撃部隊、ホット・チップが3年ぶりの新作『フリークアウト/リリース』で帰って来る。まずは先行公開された“ダウン”をチェックしていただきたいが、70年代末~80年代初頭にシカゴで活動していたカルトなR&Bグループの楽曲をサンプリングした、このご機嫌なトラック、デヴィッド・ボウイの“レッツ・ダンス”を想起させるカウベルにナイル・ロジャース~シックが浮かぶ見事なモダンディスコ。
アルバムもこのあたたかなライブ感のあるサウンド&グルーヴを基調にしており、御大ソウルワックスも貢献したタイトル曲でのシンセポップなひねりから、バレアリックなディスコ、ハウスまで、ヒューマンな鼓動に満ちたダンストラックがずらりと並ぶ。今作はバンド所有のスタジオでじっくり取り組んだそうで、これまで以上にメンバー間のコラボとケミストリーを深く探ることができたようだ。
資料によれば、前作ツアー時からライブの定番となったビースティ・ボーイズの名曲“サボタージュ”のカバーもこの活気をインスパイアしたらしい。なるほど、アドロックのアイコニックにブチ切れな《もう我慢できねぇよ!》のシャウトは前作から今作までの3年間に誰もが潜り耐えてきた様々な重圧/鬱屈/不安に立てる中指として大いに有効だし、本作のタイトル「フリークアウト」(=パニクり状態)なメンタルとも呼応する(“ダウン”は孤独の生む狂気を描いた映画『シャイニング』を参照している)。
だが「リリース」(=解放)もタイトルに含む今作はヒステリックに叫んではいない。前半はホット・チップ史上、最も直球にポップな曲やメランコリックな美が内から輝くメロディが連打され、後半は実存的な憂いや問いかけをそっとフロアに流し、心を揺らす。パンデミックはまだ予断を許さないとはいえ、本作に通底するみんなへのいわば「お疲れさま」の優しさにはホッと泣けてしまう。
アルバムデビューから18年にもかかわらず、バンドとしていよいよ本格的に脂がのったことを伝える本アルバムは夏真っ盛りの8月19日に投下。踊ってむしゃくしゃを吹っ飛ばしてくれると同時に、クールダウンさせてもくれる――22年夏のサントラ真打ちの登場だ。 (坂本麻里子)
ホット・チップの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』8月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。
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