ゴッドスピード・ユー!・ブラック・エンペラー @ LIQUIDROOM ebisu

ゴッドスピード・ユー!・ブラック・エンペラー @ LIQUIDROOM ebisu - All pics by YUSUKE KITAMURAAll pics by YUSUKE KITAMURA
約2年ぶりとなるゴッドスピード・ユー!・ブラック・エンペラー(GY!BE)の来日公演に行ってきた。2011年の前回来日は新木場スタジオコーストで行われた屋内フェス「I’ll Be Your Mirror」のヘッドライナーとしての来日で、翌日にはエクストラの単独ライヴもあったものの、正規の単独ツアーというかたちでは本当に久々の日本ということになる。

そもそもGY!BEは2003年の活動休止から2010年の再始動に至るまで、7年ものブランクがあったバンドだ。昨年リリースされた『アレルヤー! ドント・ベンド! アセンド!』もまた、実に10年ぶりのオリジナル・アルバムだった。もしかしたら若いリスナーの中には彼らのキャリアや功績をご存じない方も多いかもしれないので改めて紹介しておくと、GY!BEはカナダ・モントリオール出身、俗にポスト・ロック、エクスペリメンタル・ロックと呼ばれる音楽で90年代末~2000年代初頭にかけてセンセーショナルな名盤を数枚リリースしてきたバンドだ。中でも2000年リリースのセカンド『アンテナズ・トゥ・ヘヴン』はモグワイの『カム・オン・ダイ・ヤング』等と共に当時のトレンドともなっていた轟音ロックの金字塔を打ち立てた作品だった。

そう、GY!BEは90年代以降のカナダのアヴァンギャルド・シーンを牽引する存在だったわけだが、その後のポスト・ロックの一般化・陳腐化の流れの中で歩みを止めざるをえなくなったストイックなバンドでもあった。なぜなら2000年代とは予めロックが「ポスト」たることを内包していた時代であって、ポスト・ロックなるジャンルはそこに優位性や実験性を見出すことができなくなったからだ。しかしあれから10年が経ち、エクスペリメンタル・ロックの再評価の流れが来た中で、GY!BEもまた再び自分たちの音楽にアクチュアリティを持てるようになったのではないか。サウンド・スタイルとしてのポスト・ロックではなく、アティチュードとしてのそれを再確認すること。新作『アレルヤー! ドント・ベンド! アセンド!』はまさにそういうアルバムだったし、今回のステージも10年を経て今なおGY!BEは「正しかった」ことを改めて証明する内容になっていた。

現在のGY!BEは8人編成だ。ステージにまずヴァイオリンとコントラバス奏者が登場してチューニングを始め、そのチューニングが徐々に不協和音、そしてノイズへと変貌していく。他メンバーも途中から各人のタイミングでばらばらとステージに現れ、そのノイズにひとり、またひとりと加担していく。3人のギタリストとベーシストは基本椅子に腰かけていて、そのうちのひとりはほぼ客席に背中を向けてバンドの指揮者のような役割も果たしている。1曲目は“Hope Drone”。オープニングにして長大な助走の意味もあるナンバーで、ここで時間と空間の在り方がGY!BE仕様に解体・構築され直していくのを感じる。文字通りノイズのドローンで始まり、徐々に厚みを増しながら高速になっていくアンサンブルは、中近東のメロディからマリアッチ、はたまたブルースへとうねり、変貌を繰り返していく。

ゴッドスピード・ユー!・ブラック・エンペラー @ LIQUIDROOM ebisu
ステージ後方には巨大スクリーンが設置され、「HOPE」の文字がチカチカと点滅を繰り返し、いつしかそれはモノクロ映像のコラージュにとって代わる。1曲の中で時間をかけてサウンドとヴィジュアル・イメージの両面から抽象から具体への変化を描いていくのがGY!BEのスタイルなのだが、その具体性をぐちゃぐちゃに破壊する無作為のカタルシスが最後に待ちかまえ、再びゼロに戻って終わるのがGY!BEの音楽がアヴァンギャルドたる所以でもあるのだ。たとえばモグワイやシガー・ロスといったバンド達とGY!BEの最大の違いは物語性だと思うのだが、GY!BEの音楽にはその物語性及び余韻というものがほとんど存在しない。極端なことを言えば1曲毎に音楽が生まれてはきっちり死ぬ、その繰り返しが彼らのエクスペリメンタル・ロックのマナーなのだ。ちなみに“Hope Drone”は30分で終わる。1曲30分。これが、彼らの普通のタイム感だ。

続く“Mladic”は新作からのナンバーだが、この曲は新録の新曲であると同時に以前からライヴでは別タイトルで既に何度もプレイされていたナンバーのため、フロアからはわっとひときわ大きな歓声が上がる。ロード―ムーヴィー調の映像に乗って走るダイナミックなオーケストラル・ロックで、こちらも20分超えの大曲にも拘らず“Hope Drone”に比べるとかなりポップでシンプルに聞こえる。そう、この曲がポップでシンプルに聞こえる時点ですでに私達の耳はGY!BE仕様にリセットされているということだ。

ゴッドスピード・ユー!・ブラック・エンペラー @ LIQUIDROOM ebisu
“Mladic”以降の3曲は完全シームレスで繋がれていくため、ほぼ1時間強のノイズ・タペストリーが目の前で広げられているような気分にもなる。押しては返す波のように圧縮と拡散を繰り返しながら、一段、また一段と音圧が上がり、気づいたころには身体の内と外を分ける境界も曖昧に感じるくらいのノイズで自分と自分を取り巻く空間が満たされていくのを感じる。スクリーンには実際のところかなりポリティカルなメッセージを持つ映像が流れているし、GY!BEの根底にはパンク精神や反体制の気概があるのも間違いないのだろうが、前述のとおり彼らの音楽はそこに物語を持たせない。むしろどんなメッセージ性も飲む込む「過剰な無」であるという矛盾こそが彼らの凄さなのだと実感させられるような中盤の1時間だった。一瞬のブレイクを挟んで最後に鳴ったのはアンセム“The Sad Mafioso”。“Hope Drone”が30分のイントロだったとしたら、“The Sad Mafioso”は30分のアウトロだ。5曲で2時間。終演後、抜けがらの自分の身体が妙に軽く感じた。(粉川しの)

Hope Drone
Mladic
Gathering Storm
Behemoth
The Sad Mafioso
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