そもそもGY!BEは2003年の活動休止から2010年の再始動に至るまで、7年ものブランクがあったバンドだ。昨年リリースされた『アレルヤー! ドント・ベンド! アセンド!』もまた、実に10年ぶりのオリジナル・アルバムだった。もしかしたら若いリスナーの中には彼らのキャリアや功績をご存じない方も多いかもしれないので改めて紹介しておくと、GY!BEはカナダ・モントリオール出身、俗にポスト・ロック、エクスペリメンタル・ロックと呼ばれる音楽で90年代末~2000年代初頭にかけてセンセーショナルな名盤を数枚リリースしてきたバンドだ。中でも2000年リリースのセカンド『アンテナズ・トゥ・ヘヴン』はモグワイの『カム・オン・ダイ・ヤング』等と共に当時のトレンドともなっていた轟音ロックの金字塔を打ち立てた作品だった。
そう、GY!BEは90年代以降のカナダのアヴァンギャルド・シーンを牽引する存在だったわけだが、その後のポスト・ロックの一般化・陳腐化の流れの中で歩みを止めざるをえなくなったストイックなバンドでもあった。なぜなら2000年代とは予めロックが「ポスト」たることを内包していた時代であって、ポスト・ロックなるジャンルはそこに優位性や実験性を見出すことができなくなったからだ。しかしあれから10年が経ち、エクスペリメンタル・ロックの再評価の流れが来た中で、GY!BEもまた再び自分たちの音楽にアクチュアリティを持てるようになったのではないか。サウンド・スタイルとしてのポスト・ロックではなく、アティチュードとしてのそれを再確認すること。新作『アレルヤー! ドント・ベンド! アセンド!』はまさにそういうアルバムだったし、今回のステージも10年を経て今なおGY!BEは「正しかった」ことを改めて証明する内容になっていた。
現在のGY!BEは8人編成だ。ステージにまずヴァイオリンとコントラバス奏者が登場してチューニングを始め、そのチューニングが徐々に不協和音、そしてノイズへと変貌していく。他メンバーも途中から各人のタイミングでばらばらとステージに現れ、そのノイズにひとり、またひとりと加担していく。3人のギタリストとベーシストは基本椅子に腰かけていて、そのうちのひとりはほぼ客席に背中を向けてバンドの指揮者のような役割も果たしている。1曲目は“Hope Drone”。オープニングにして長大な助走の意味もあるナンバーで、ここで時間と空間の在り方がGY!BE仕様に解体・構築され直していくのを感じる。文字通りノイズのドローンで始まり、徐々に厚みを増しながら高速になっていくアンサンブルは、中近東のメロディからマリアッチ、はたまたブルースへとうねり、変貌を繰り返していく。
続く“Mladic”は新作からのナンバーだが、この曲は新録の新曲であると同時に以前からライヴでは別タイトルで既に何度もプレイされていたナンバーのため、フロアからはわっとひときわ大きな歓声が上がる。ロード―ムーヴィー調の映像に乗って走るダイナミックなオーケストラル・ロックで、こちらも20分超えの大曲にも拘らず“Hope Drone”に比べるとかなりポップでシンプルに聞こえる。そう、この曲がポップでシンプルに聞こえる時点ですでに私達の耳はGY!BE仕様にリセットされているということだ。
Hope Drone
Mladic
Gathering Storm
Behemoth
The Sad Mafioso