BRAHMAN/EGO-WRAPPIN’ @ SHIBUYA-AX

BRAHMAN/EGO-WRAPPIN’ @ SHIBUYA-AX
BRAHMAN/EGO-WRAPPIN’ @ SHIBUYA-AX
BRAHMAN/EGO-WRAPPIN’ @ SHIBUYA-AX - pics by TSUKASA MIYOSHIpics by TSUKASA MIYOSHI
ステージを薄い乳白色の幕が覆い隠しているのだが、その向こうでEGO-WRAPPIN’/中納良恵がピアノを、森雅樹がドラムを、向かい合ってプレイしているのが透かし見える。そして歌い出されたのはBRAHMAN“Speculation”のカバーだ。美しくしなやかな中納の歌声が、フロアに伸びて広がっていった。新レーベル〈NOFRAMES〉を立ち上げ、5月には合同ユニットとしてシングル『SURE SHOT』もリリースしたブラフマンとエゴラッピン。今回はそのスペシャル・ジョイント・ライブである。先に行われた大阪での公演はブラフマンが先攻だったそうだが、今日はまずエゴがステージに登場、という形になっていた。

“Speculation”を披露し終えると、ステージ上が急転換されエゴラッピン本来のステージ・セットへと移る。THE GOSSIP OF JAXXを率いてのバンド・セットである。幕が開くと同時にアップライト・ベースの不穏なフレーズが鳴り響き、“Nervous Breakdown”のスタートだ。中納が威勢良くアジテーションを行い、真紅に光り輝くランタンを振り回している。序盤からあたかもブラフマンとの対バンを見越したような、凄まじく攻撃的なジャズ・アンサンブルが轟いていった。“RED SHADOW”ではサイレンのようなキーボード・リフと中納の拡声器パフォーマンスで更に煽り立てる。こんなにアグレッシブなエゴを観るのは、個人的には初めてかも知れない。なのに。

中納:「今日、まったく呑んでないね」
森:「頭から、ドラム叩かなあかんかったから。手が震えたらいかんと思って」
中納:「呑まん方が、震えるんとちゃう?」
森:「あ、そうか」

嗚呼。このユルいMCで、珍しいぐらい尖りまくっていた雰囲気が台無しだ。やっぱりエゴはエゴのままで安心というか、ちょっと残念というか。ムードを一変させて“Dear mama”の、穏やかで温かいメロディが紡がれてゆく。でも、この後に中納はこんな風にも語りかけていた。「なかなか、ブラフマンのファンが静かですねえ。まだ時間もらってるから、仲良くして? 良かったら、ガンガン来てもらってもOKなんで」。このときの愛くるしい挑発ポーズに、オーディエンスが乗った。後半はカリブ/ラテン・ジャズのフレイバーが盛り込まれた、アッパーだけれども序盤とは違う陽性パフォーマンスとなった。一気にフロアが波打って弾ける。特に、ロックステディ風の“love scene”と、エモーショナルなメロディで走る“BRAND NEW DAY”の、7/7リリース予定のニュー・シングル収録曲は素晴らしかった。

さて、オープニングと転換中にDJを務めているのは、DAD MOM GODこと冷牟田竜之。これまた豪華な。急遽、参加を決めてくれたそうだ。そして後攻はブラフマンである。こちらもエゴのカヴァー曲“Nervous Breakdown”から、エゴにカヴァーされた本家“Speculation”と繋いでゆくオープニング。エゴのアンサンブルがさまざまな方向に放たれる各パートの絡み合いだとすると、ブラフマンのアンサンブルは凄まじい情報量で放たれるエモーショナルな音が、聴き手の体のど真ん中を貫く感じだ。なんというか、至近距離で発射されるショットガンというか、ミリ単位でターゲット補正可能な長距離弾道ミサイルというか。その武器はそうやって使うものじゃないだろう、と突っ込みたくなるような一点集中型のとんでもない破壊力なのである。精神力と体力の極限を目指すかのような、まるでメドレーのように放たれるハードコアな音塊の数々。オールタイムなセット・リストの中で次第次第にMAKOTO(B.)のアクションは大きくなり、エゴの中納よりも一回り大きな真紅のライトを振り回していたTOSHI-LOWは、あっという間にそれを破壊して放り出していたのだった。

そんないつもどおりにカオスで破壊的なパフォーマンスを見せるブラフマンだったけれども、今回のステージにおけるハイライトは後半、“CAUSATION”“A WHITE DEEP MORNING”“FOR ONE'S LIFE”と続いた、KOHKIの眩いギター・フレーズを中心に奏でられるブラフマンのポップ・サイドとも言えるような一面を覗かせたときであった。エゴラッピンとの共演という今回のステージにおいては、こういう美しい楽曲群が、対抗意識の見せ方としても面白いと思えたのだ。彼らのライブはフロアの盛り上がり方も尋常じゃないけれど、割とフロアの前線の方にもエゴのTシャツを着たオーディエンスの姿が見える。それぞれが独特のスタイルを確立した、指向としては一見とても掛け離れている2組のグループでありながら、その共闘/ジョイントには大きな価値と喜びが見出すことが出来るのだ。

というわけでアンコールはブラフマンとエゴによるジョイント・パフォーマンスである。頭にサリーを巻いた衣装に姿を変えた中納が、数輪のバラをオーディエンスにプレゼントしていた。そしてシングル『SURE SHOT』からのジョイント曲“promenade”と“WE ARE HERE”が披露される。中納とTOSHI-LOWが交互に届けてくるキャッチーなメロが鮮やかなのだけれど、ライブで聴くと急転する爆走ビートの迫力がとんでもないことになっていた。RONZI(Dr.)の本領が見事に発揮されている。カジュアルな装いに着替えたブラフマンのメンバーも、アグレッシブな音の中にあっていつになく和気あいあいと楽しそうな印象で、そんな姿からもこの二組の幸福な共闘態勢が浮き彫りになっている気がした。(小池宏和)
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