強力そのものだった。新作『ザ・ホープ・シックス・デモリッション・プロジェクト』がキャリア初の全英チャート1位を記録して勢いに乗るPJハーヴェイ。22年ぶりの単独来日公演となったこの日は、演奏の完成度も、アートとしての品格も、創意と工夫で新鮮な音像を作り出す知性も、ありきたりな楽器構成や安易なルーティンを打ち破ろうとする勇気も、一糸乱れぬアンサンブルを実現する集中力も、世界中でここにしかない個性を打ち立てようとする志の高さも、なにもかもが破格。PJハーヴェイは、もはや誰にも追いつけない圧倒的にオリジナルな領域に到達していた。文句なしにかっこいい。
ジョン・パリッシュやミック・ハーヴェイ、アラン・ヨハネスといった腕利き9人を従えた計10人のバンド編成。それぞれ複数の楽器を持ち替え、全員がコーラスで歌いハンドクラップしたり、さまざまなアンサンブルを披露する。そこに通底するのは、たとえばドラム・キットを解体して鼓笛隊のように叩く太鼓が示すように、徹底的にロックのルーティンを解体・回避して、既存の常識からもセオリーからもとことん解放されんとする姿勢だ。ブルースやR&B、トラッド・フォーク、東欧の民俗音楽、現代音楽などを自在に往還し、なおかつそのどこにも属さず、伸縮し融和し飛躍する発想の自由さは特筆もの。それでいて楽曲はポップなメロディとキャッチーなリフレインの連続で、耳を惹かれずにはいられない。
映像はなし。照明もセットも簡素で、黒を基調とした装いで統一されたメンバーの衣装も含め、シンプルでシック。日本語のお礼と簡単なメンバー紹介以外のMCも一切なし。だが、だからこそ音楽の切っ先が際立つ。
ポーリーは華奢な体型で時に独り芝居のようなシアトリカルなパフォーマンスを見せるが、決して激情をぶちまけるといった類いのものではなく、曲ごとに微妙に歌唱法や発声を変えながら、10人編成のアンサンブルの中での役割をクールに、そして圧倒的な存在感で果たしている。初期に比べると視線が社会的・歴史的に広がったぶん、昔のように抜き身のナイフで斬りつけるような衝撃や危うい足場に立ったような不安定さはなくなったが、「今歌うべき歌、届けるべきメッセージ」を歌う鋭利な知性と豊かな感性がそこかしこに閃いていたのだった。
演奏楽曲は、かねがね伝えられていた通り、新作『ザ・ホープ・シックス・デモリッション・プロジェクト』のほぼ全曲を中心に、『レット・イングランド・シェイク』(2011)、『ホワイト・チョーク』(2007)と、近作の曲が大半を占めたが、今の彼女はファン・サービスで初期楽曲などやる必要がない。ライブを観た人の全員がそう思ったはずだ。それだけに初期アルバムから唯一選曲された“50ft Queenie”が、往年のカッティング・エッジな切れ味を残しながら、現在進行形のバンドにふさわしい形に改変されていたのは、彼女の逞しい成長と、ひたむきに前進を続ける強さを端的に示していたと思う。
圧巻だった。近いうちにもう一度、観たい。(小野島大)
〈SETLIST〉
01. Chain of Keys
02. The Ministry of Defence
03. The Community of Hope
04. The Orange Monkey
05. A Line in the Sand
06. Let England Shake
07. The Words That Maketh Murder
08. The Glorious Land
09. Written on the Forehead
10. To Talk to You
11. Dollar, Dollar
12. The Devil
13. The Wheel
14. The Ministry of Social Affairs
15. 50ft Queenie
16. Down by the Water
17. To Bring You My Love
18. River Anacostia
En1. Near the Memorials to Vietnam and Lincoln
En2. The River