【インタビュー】adieu(上白石萌歌)が表現する唯一無二のファンタジックな音楽世界。最新作『adieu 5』に見る、表現者としての揺るぎない自信

【インタビュー】adieu(上白石萌歌)が表現する唯一無二のファンタジックな音楽世界。最新作『adieu 5』に見る、表現者としての揺るぎない自信

上白石萌歌がadieuとして音楽活動をスタートさせたのは2017年。彼女がまだ17歳の頃にまで遡る。以来、ドリーミー&ファンタジックな世界観を紡ぎ出すadieuというシンガーの存在感は、作品をリリースするごとに多くの音楽ファンを虜にしていく。楽曲ごとに個性の異なるコンポーザーやアレンジャーを起用し、さまざまな音楽性を見せながらも、それを「adieuの歌声」がゆるぎなく統べるのである。どんな楽曲を表現しようとも、それはすべてadieuとなる。そのマジカルともいえる独自の世界観は、最新ミニアルバム『adieu 5』で確立を見た。自身が「adieuとは何か」という問いから解き放たれ、adieuとしての自信を手にしたのだ。今、彼女はadieuというもうひとりの自分にどう向き合うのか。インタビュー=杉浦美恵

“ナラタージュ”が出たとき、私は高校2年生で、自分でもわけがわからなくて(笑)。紛れもなく自分自身なんだけど、表向きには自分じゃないみたいな不思議な感覚で

──まずは幼少期を含め、音楽に触れた原体験のことからお聞きしたいです。私の母親が小学校の音楽の先生で、ピアノの先生もやっていたんですよね。それでご近所の生徒さんが家に来てピアノのレッスンを受けていたりする環境で、でも不思議と私はピアノは習わず、母の演奏に合わせて歌うというのが日常でした。父も音楽が好きで、これはちょっと自慢なんですけど(笑)、家族でメキシコに住んでいたとき、父にポリスのライブに連れていってもらったのが初めてのライブ体験でしたね。2007年だったので、再結成のタイミングかな。私は幼すぎて、そのときの記憶はほとんどないんですけど、今ではポリスもスティングも大好きだし、音楽を好きになったのは両親のおかげなんです。──ザ・キュアーやデヴィッド・ボウイも好きなんですよね? そうした音楽を聴くようになったきっかけは?キュアーやボウイは、父親はあまり通っていなかったみたいで、私は映画のサントラで知りました。たとえば“フライデイ・アイム・イン・ラブ”を、『アバウト・タイム』という映画で知ったり、ボウイは『汚れた血』のリバイバル上映を観たときに知って。大人になって初めてレオス・カラックス監督作品に触れたんですけど、“モダン・ラヴ”が、夜の街を疾走するシーンで流れて、なんてかっこいいんだろうと思って。“モダン・ラヴ”は『フランシス・ハ』でも使われてましたけど、私は映画から音楽を知ることが多いですね。映画を観る前にサントラを聴いてから行くこともあるし、そこで好きになった曲があると、これはどういうシーンで流れるんだろうってすごく楽しみになります。最近は、ギレルモ・デル・トロ監督の『シェイプ・オブ・ウォーター』がお気に入りで、あのサントラが素晴らしすぎて。私は映画が大好きなので、音楽と映画はやはり密接な関係にありますね。──自身が音楽活動をするとか、自分で歌って表現するという未来は、いつからイメージしていましたか?私は俳優としてのデビューが先で、adieuの始まりとしては、2017年に『ナラタージュ』という映画で主題歌を歌わせていただいたことでした。その当時はまだ私は何者でもなくて、プロデューサーさんが、CMで歌っていた私の声を聴いて、そこから“ナラタージュ”を歌うことになったんですけど、それ1曲限りのことだと思っていたし、こんな未来があるとは思っていませんでした。それがこうしてadieuとして作品をリリースし続けることになるなんて、すごく幸せだし恵まれているなと思います。──当初はadieuはまだ覆面シンガーというか、その正体を知られていませんでしたよね。“ナラタージュ”が出たとき、私は高校2年生で、自分でもわけがわからなくて(笑)。紛れもなく自分自身なんだけど、表向きには自分じゃないみたいな不思議な感覚で。隣のクラスの子に「adieuって萌歌ちゃんだよね?」って言われて困惑したこともありました。「え、そうなの?」なんてとぼけたりして(笑)。大人には「(正体を)明かしちゃダメ」って言われていたので。──察知した人、すごいですね。そうですよね。RADWIMPSは私たち世代はもうど真ん中で。今もそうですけど、当時から大人気で、野田(洋次郎)さんを崇拝してる子がたくさんいたから、「“ナラタージュ”聴いた? あれ誰?」みたいな話が普通にされてる中に自分もいて、不思議でしたね。いつ「それ私だよ」って言えるんだろうって。──“ナラタージュ”に対してadieuというアーティストネームで歌唱して、それが上白石萌歌さんだということが公表されたあとも、音楽活動は引き続きadieuという名前で行っていくというのは自然な流れでしたか?そうですね。“ナラタージュ”を歌わせていただいたとき、adieuというものがとても魅力的に思えて、どんどん惹かれていく感覚がありました。未だにadieuとはなんぞやと、聴いてくださる方も、そして自分自身も思ったりしますが、「adieu=上白石萌歌」とは一概に言えない感じも面白くて。上白石萌歌としての活動とは別のどこかにadieuが手を引いて連れて行ってくれるようでもあり、人格が変わるわけではないんですけど、文体が変わる、書く文字が変わるような感覚でやっています。

お芝居に近いところもあって。歌の中には主人公がいて、その主人公にどう心を与えていくかというのが、自分の裁量

──そしてadieuとしてのミニアルバムも今回が5作目。完成した『adieu 5』は、さらに音楽性の広がりや、歌とサウンドの心地好さが増幅しているように感じました。いやもう、今まで出したアルバムの中でいちばん自信がある!と、言い切ってしまいます(笑)。今までも自信がなかったわけじゃないですけど、今回のアルバムのテーマとして「adieu is adieu」というのがひとつあって。なんというか、自分でもadieuってなんだろうと思ってきた中で、adieuはadieuでいいじゃないかみたいな気持ちになれたんですよね。これまでインタビューでも、何を話せばいいんだろうって思っていたんです。私が曲を書いたわけじゃないし、私は歌っているだけだし、っていう引け目があって。でも今は「私が歌っているんだし、私だって楽器だし」って胸を張って言えるというか。──うんうん。お芝居に近いところもあって。歌の中には主人公がいて、その主人公にどう心を与えていくかというのが、自分の裁量なんですよね。そうやって歌っている今のadieuがとても好きだし、今のadieuをもっといろんな人に知ってほしいです。──今作も錚々たるクリエイター陣が参加していて、adieuが歌えばすべてadieuになるということを、この作品がはっきりと証明したと思います。ありがとうございます。──まず1曲目の“元気?”は柴田聡子さんの提供曲ですが、これは変拍子のリズムがとても不思議な魅力を放つ楽曲で。大好きな曲です。でもこれはとても難しかった(笑)。私、柴田さんが神保町試聴室でやっているレギュラー企画(「柴田聡子の神保町ひとりぼっち」)にもよく行くんですけど、たぶん今、日本のシンガーソングライターでいちばん好きなのが柴田さん。型にはまらないというか、散文っぽい不思議な世界が本当に好きで。柴田さんの詩集も大好きなんですけど、とっても素敵な方。もう、恋に近い感情でもありますね(笑)。──“元気?”の歌詞にある《言葉がほしいほどに弱くいたい》とか、《ゆるして欲しいほどに情けなくいたい》とか、その感情のニュアンスは確かに言葉で説明し難いけれど、でもそれを感覚的にわからせてくれるのがadieuの歌声なんですよ。嬉しいです。曲をいただいたときは、その内容についてはほとんど話さず、自分なりの解釈で歌います。聴いていても具体的な意味はわからない歌ってありますよね。特に私はスピッツが大好きなんですけど、スピッツの歌詞も「はて、これは?」と思う、その謎な感じがとっても好きで。歌には秘密がたくさんあって、その秘密を解き明かさなくても、秘密は秘密のまま歌ってもいいかなって思います。もちろんいろいろ想像はするけれど、この“元気?”なんかは、歌った口が自由だったらいいっていうところがあって。まず(声を)音として出してみてどういう気持ちになるか、その先の意味みたいなものを大切にしています。柴田さんの言葉は、すごく理解のある友達みたいな感じがするんです。いつも、ありがとうって思いながら歌います。

次のページ大人になればなるほど、なんだか複雑になって「一体私は今何色なんだろう」って。“ブルーアワー”はそんな「あわい」を練り歩いている曲
公式SNSアカウントをフォローする

人気記事

最新ブログ

フォローする
音楽WEBメディア rockin’on.com
邦楽誌 ROCKIN’ON JAPAN
洋楽誌 rockin’on