【インタビュー】adieu(上白石萌歌)が表現する唯一無二のファンタジックな音楽世界。最新作『adieu 5』に見る、表現者としての揺るぎない自信

【インタビュー】adieu(上白石萌歌)が表現する唯一無二のファンタジックな音楽世界。最新作『adieu 5』に見る、表現者としての揺るぎない自信

【インタビュー】adieu(上白石萌歌)が表現する唯一無二のファンタジックな音楽世界。最新作『adieu 5』に見る、表現者としての揺るぎない自信

大人になればなるほど、なんだか複雑になって「一体私は今何色なんだろう」って。“ブルーアワー”はそんな「あわい」を練り歩いている曲

──2曲目の“泣いてしまいそう”はbetcover!!の柳瀬二郎さんの作詞・作曲。浮遊感のあるドリームポップに耳が惹かれます。柳瀬さんに曲を書いてもらうのはこれが3作目。私がbetcover!!の曲に出会ったのは6年くらい前です。共演した子が柳瀬さんとお友達で、betcover!!の音楽を「きっと、めちゃめちゃ好きだと思う」と教えてくれて、聴いてみたらほんとにビビッときて。いつか曲を書いてほしいと思っていて、adieuのミーティングのときに「ぜひ柳瀬さんに」と言ったのが、ご縁の始まりでしたね。提案したそのときの私に感謝です(笑)。柳瀬さんが書いてくれる言葉もすごく面白くて、とてもチャーミングで、でも鬱屈として捻くれ者っぽいところも魅力的で、歌っていて楽しいです。──柳瀬さんはadieuのよき理解者ですね。betcover!!のライブにはよく行くけど、プライベートでは会ったことがないので、実際どう感じているかはわからないんですけどね。この曲、MV撮りたいなあ。柳瀬さんとお芝居とかしてみたいです。絶対面白いと思うんですよね。同世代だし、尖っているし、今すごく海外でも評価されていて、いろんなことを教わりたい、追いかけたい存在です。──続いて“ブルーアワー”。こちらはMVも公開されていて、映像の美しさに引き込まれました。luvisさんの作詞・作曲・編曲で、悲しみも喜びも憧れもときめきも、すべての感情が溶け合って表現されているような楽曲ですね。今回の『adieu 5』にはもうひとつのテーマとして「あわい」というものがあるんです。大人になればなるほど、自分が今どういう感情なのかわからなくなるときがあって。子供の頃は原色みたいにはっきりと喜怒哀楽の感情を表現していたけど、大人になるといろんな感情が混ざって、どんな色なのかわからなくなる。たとえば別れ話をするときも、悲しいけれど少し晴れやかな気持ちもあるし、これで次に進めると思えばちょっと嬉しいし⋯⋯みたいなことってたまにありますよね。大人になればなるほど、なんだか複雑になって「一体私は今何色なんだろう」っていうときがどんどん増えていくと思うんです。“ブルーアワー”はそんな「あわい」を練り歩いている曲で。“ブルーアワー”って夜明け前の空の色のことを指しているんですけど、この曲も進むにしたがって空が明るくなっていくような疾走感があって、そんな感情を大切にしながら歌いました。──疾走感のあるギターポップのサウンド感に、ちょっとキュアーっぽさを感じました。ほんとですか? 嬉しいです。

──そして“ナイトバード”。これはまたミニマルなサウンドで空間が広がっていくような曲で。とても耳心地のよい楽曲です。chilldspotの比喩根さんが作詞・作曲を手掛けている曲ですね。比喩根ちゃんは同世代で。luvisくんと比喩根ちゃんの3人のグループLINEがあるんですけど、よく面白かった漫画の話とかしていて、同世代だからこその響き合いがあるんですよね。最近出会った人だから、そんなに深く話したことはないんですけど、同じ時代を同じ歩幅で生きてきた者同士、わかりあえる気持ちみたいなものがこの曲にもあって。比喩根さんの曲は、自分の弱さとかどうしようもなさをいちばんストレートに出せるんです。自分の体重を思い切りかけても安心できる曲ですね。──そして、澤部渡(スカート)さんの書いた“植物園”。『adieu 3』に収録されていた“景色 / 欄干”もそうでしたが、このメロディ感と歌詞はさすが澤部さんですね。すごく心を揺さぶられました。この曲を初めて聴いたとき、ぱっと自分の故郷のことを思い出したんです。──鹿児島の?そうです。adieuの曲って、過去の誰かのこととか、自分のこととかが浮かぶ曲が多いんですけど、この曲はすごく、自分の街のことが思い浮かびました。私は13歳で地元を出たんですが、その頃に見ていた地元の街がぽっと頭に浮かんで。《ナイーヴな子供が/みんなナイーヴなまま大人になるわけではなかった》という歌詞があるんですけど、私もすごい人見知りな子供だったりして、でも、そのまんまでは生きてこれなかったよなあって。この曲は歌っててすごく切なくなって、レコーディングのとき、あまりにも歌詞が素晴らしくて、最初思わず感極まって声がかすれてしまうほどでした。──その歌詞もそうだし、《停滞は私の大切な ああ/旧い友達なんです》という歌詞表現とかも、すごいですよね。人は本来不器用でどうしようもないものなのに、大人になるにつれて器用さやそののなさを求められることが増えて、岩や石が転がるうちに丸くなるように変わっていってしまう。自分の欠点だってほんとはすごく大切な個性なのに、それを失っていかざるを得なくて。それが大人になることでもあるんですけど⋯⋯。停滞とかナイーブさというものを、私はすごく大切にしたいと思っていて、それを失いたくない切実さみたいなものがこの歌詞には出ているので、初めて聴いたとき泣きました。ライブでは泣かないように頑張らなきゃいけない(笑)。この曲は自分のパーソナルなところをぐっと押される感じがするんです。
【インタビュー】adieu(上白石萌歌)が表現する唯一無二のファンタジックな音楽世界。最新作『adieu 5』に見る、表現者としての揺るぎない自信

自分が与えているようで、みなさんにたくさんエネルギーをもらっています。ライブをやるたびにadieuでいてよかったなって思える

──ラストの“Untitled”ではJeremy Quartus(Nulbarich)さんとの初タッグ。サックスがフィーチャーされた、モダンな楽曲がとても新鮮でした。今回、Yuka(Kawabata/prodz)さんがサウンドアレンジをしてくださったんですが、Yukaさん自身がサックスを吹いてくださっていて。そのアレンジも含めてすごくジェントルな曲ができあがりました。JQさんの持つ色香や紳士的なかっこ良さをすごく感じて、私の勝手なイメージなんですけど、『君の名前で僕を呼んで』を思い浮かべてしまいましたね。この映画のサントラも主題歌も大好きなので。──スフィアン・スティーヴンスの?そうです。“ミステリー・オブ・ラブ”。あの映画もすごく複雑で純粋な愛を描いていたけれど、“Untitled”にも《難解な愛》という表現があって、そこからイメージが広がりました。すごく切実だけど、どこか居住いがかっこいい曲ですごくハンサムな楽曲だなと思います。──冒頭に雨音のSEが入っていたり、まさに映画のような音楽です。最後のアウトロに差し掛かる流れでボーカルが重なる部分も、美しいシークエンスのようでした。この曲はもともとアルバムの最後に置く予定ではなかったんですけど、これは最後の曲だという気がして、私の希望でそうさせてもらいました。なんとなくエンドロールっぽくて、また何かが次に始まりそうな予感もあって。──確かにそんな余韻の残るエンディング。今回、とても素敵なミニアルバムが完成して、さらにadieuとして活動していくモチベーションも高まったのではないかと思いますが、今後はたとえば自身が作詞をするとか、そういう未来を思い描いていたりしますか?そうですね。作詞はしたいです。言葉が大好きだし、エッセイとかも書いていて、機会はずっと探っていますね。いつか「今だ」と明確に思えるときがきたら作詞はしたいです。──一方でadieuの歌声があれば、すべてその世界観を表現できるし、セルフでソングライティングすることが必ずしも重要ではない気もするんですよね。そうなんですよ。アーティストはどんどんシンガーソングライター主義になりつつあるけれど、私は日本の昭和歌謡も大好きで、素晴らしい作曲家、作詞家の方々が作った曲を別の歌手が歌うという構図もすごく好きなんです。たとえば松田聖子さんがすごい作曲家の方が書いたものを、自分なりに咀嚼して、聖子さんにしかできない投影方法で歌ってらっしゃるのを聴くと、自分が(曲を)書かないからといって、それが自分の歌ではないということはまったくなくて、むしろより面白がれて、素晴らしい曲になっていくんですよね。松田聖子さんというひとりのミューズがいて、みんなが聖子さんに触発されて素敵な楽曲が生まれてくるという現象にも憧れます。──そして、5月にはまたライブの予定もありますね。新作からの楽曲も披露されると思いますが、どんなライブにしたいですか?ライブは、やる前はほんとにナイーブになるんですけど、いざステージに立つと、自分が与えているようで、みなさんにたくさんエネルギーをもらっています。ライブをやるたびにadieuでいてよかったなって思えるんですよね。今回は以前にもまして楽器も頑張りたいと思っているので、より自主性を持った現在のadieuを見せられると思います。それまでに鬼練して(笑)、頑張りたいと思います。楽しみにしていてほしいです。
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