スタメンに“命題”“賜物”がいてくれるから、生身のRADWIMPSがちゃんと刺さってくる(武田)
──で、最初に言った『あにゅー』で新たにRADWIMPSが再誕生した感じがするっていうのは、ほんとに根本的なもので。まっさらな気持ちで聴いて「このRADWIMPSっていうバンド、いいじゃん」って改めて思うぐらい、根本的に生まれ変わった感じ。
野田 よかった。
──これはほんとに半年ぐらいのあいだに残り10曲をゼロから仕上げた感じ?
野田 もともと10曲以内ぐらいで考えていて「10曲ぐらいのアルバムって今までないよな、ついつい増えちゃうね」って言ってて。残り7、8曲ぐらいで考えていたら、やっぱり最後、ついつい増えちゃうんですよ。
武田 (笑)。
──この取材のために音源を待ってたけど、最後に1曲増えたよね。
野田 そうですね。アルバムを作ってるっていう感じが今まで以上にあって楽しかったです。なんか今までのRADWIMPSではやらなかったような、新たなデビュー感を楽しみながら、ドラムのパターンとしてはシンプルな曲をやったり。“ワールドエンドガールフレンド”とか“MOUNTAIN VANILLA ”みたいに、エイトビートをストイックにやり続けるみたいな。単純に「ややこいことしたくないよね」みたいな。それこそ“賜物”“命題”みたいな曲もあるからこそ、シンプルに今まで使ったことがないコード進行で曲を作ってみたらどうなるんだろうとか。そういうマインドでできた。
──ほんと、ややこしいことを全然してないですね。『人間開花』のときも、ややこしいことを一気にしなくなったと思ったんだけど、その比じゃない。
野田・武田 (笑)。
──超シンプル。
野田 最初の10年とか特に、ずっとややこしいことをやり続けてきたバンドではあったので。今回はアルバムとしての聴きやすさを大事にしたくって。なんか“命題”とか切迫した、まくし立てるようなバンド感を出すなら、そのあとは緩やかさが欲しいなとか。こんなにアルバムとしての聴きやすさみたいなことを意識したことはないかもしれない。期待に応えたり、期待を超えながらも、やっぱりバンド20年続けられるっていうのは、ほとんどのバンドができないことだし。そこにちゃんと辿り着けたのはひとつの勲章だと思うし。じゃあ、それを守ろうとするのか、新たに「なんでも自由だね」って思うかは、そのバンド次第だと思っていて。俺らはやっぱり音楽を裏切れないっていうか、バンドはじめたときの自分たちが、自分たちの中にずっとあるから。「じゃあ、また一から好き勝手やろうね」っていうほうを選んだ。この感覚、なんて言えばいいのかな。曲名選びでさえも真面目さを出したくない(笑)。この前、インタビューで「仮タイトルですよね?」って言われて(笑)。
──確かに区別がないよね(笑)。 “まーふぁか”とか“ピリオド。”みたいな曲で、仮タイトルと区別つかない感じはわかるんだけど、たとえば“なんていう”とか“Odakyu Line”みたいな、わりと静かめの曲の中に裸というか、財布も持ってないみたいな感じが出ている。
野田 RADWIMPSにとっては確かに、こんなに生身でいていいのかって感覚はあるけどね。
武田 でもやっぱ、スタメンに“命題”“賜物”がいてくれるから、より飛距離的に生身ってのがちゃんと刺さってくる。
──とはいえ20年やって、40歳になって、普通できないよ、これは(笑)。
野田・武田 (笑)。
──で、『あにゅー』ってタイトルつけられないよ。
野田 タイトル選びは、『あにゅー』もさんざん迷ったんです。僕らの自由さ、今いる場所、このとらわれてなさを何で表現できるんだろう?と思ったら、こういうディテールに表れるっていうのは、すごく思いました。死ぬ気になればなんでもできるじゃないけど、ちょっとしたキッカケで生き長らえた、あのとき拾った命なんだから自分の感覚が向くほうに行きたいなって思ったし、面白いほうを選びたいし。まだ行ってないほう、行ってないほうっていうのは意識しました。RADWIMPSらしさってなんだろう?っていうのを、探しながらやってきたけど20年やってきて、ほんと意外なほど自分たちが鳴らしたものがRADWIMPSなんだなって思える──数日前も“セプテンバーさん”の弾き語りをインスタにあげたんですけど、なんてことない曲だなって思いながら弾き語りであげたんだけど、想像以上にみんな喜んでて。当時も、異質なくらいシンプルな曲だったとは思っていたけど、僕らが鳴らしたらRADWIMPSになるっていう。それは、やっと手にした安心感みたいなものなのかもしれないです。なんか、この前トム・ヨークのソロに行ったときも思ったけど、彼がその場で鳴らしている──もちろん、僕らはまだまだ彼の比ではないし、やってきたことはまったく別ですけど、彼があのステージで鳴らす音に意味があって。音を外そうが何しようが、その場で鳴らしたものが空気を漂って人に届くってことに意味があるっていうか。世の中的にどんどん上手い歌とか、音程を外さないこととかが求められているような気もするけど、なんか僕らはそこではないところで音を鳴らしながら息をしてて。もちろん圧倒的な新しいものを常に提示はしてくつもりだけど、そこだけじゃないところで鳴らせんじゃないかなっていう気持ちではいます。
──そして、そういうアルバムの最後に“ピアフ”っていう曲が入っていて。『あにゅー』というアルバムを作って見えた風景がこれなんだという。すごく新鮮な風景という感じがしました。少しは自分を信じられて、自分っていう人間が発する言葉で、もしかしたら誰かを救えるかもしれないって思えるまでに20年かかりました(野田)
野田 すごくニュートラルに、諦めでもないし、変に希望にすがるでもない言葉を入れた気がします。エディット・ピアフを描いた舞台を数年前に観たときの感覚が残ってて。だから仮タイトルとしてずっと置いていたのかな。
──この曲でこのアルバムは終わるんだけど、RADWIMPSというバンドの未来がこの先に大きく広がっている感じがする。
野田 なんか言い切れちゃった感じもしていて。でも、これをちゃんと言葉にできたのはデカくて。ずっと人を励ますようなこととか、誰かを救えるような歌を歌えるほど大それた人間じゃないなあと思っていたし。結局、これまでは自分を救う言葉を紡げたときによしとしていたというか。自分が救える言葉を自分で書けたら、結果的にもしかしたら聴いた人も救われるかもしれない。二次的な効果はあるかもしれないけど、誰かを応援したり、励ましたり、救うような曲は、自分には書けないんだろうなって感覚がずっとあった。でも、こうやってちゃんと、目の前に誰かがいて、その人の明日を救いたいと思ったときに、ちゃんとその人に投げかける救いの言葉が言えるようになったのは、すごくデカいかな。僕、『bridge』でロッキング・オンの渋谷(陽一)さんのインタビューを受けたことが一回だけあったんですけど「君は自分のためにしか歌詞を書かないよね」みたいなことを言われて。で、「誰かのために歌詞を書く日がいつか来るかもね」みたいな、それが、なんか記憶に残ってて。もう20年近く前だったから、そのときは「へえ」ぐらいの感じだった。もしかしたらそこに通じるのかもしれない。そのときは自分に信用がなさすぎて、その自分が誰かのために何かを発して、その人が救われるみたいな事象って起きづらい感覚がずっとあった中で、少しは自分を信じられて、自分っていう人間が発する言葉で、もしかしたら誰かを救えるかもしれないっていう。20年かかりましたけど。もしかしたら、少しだけそういう強さみたいなものは得られたのかもしれないと思います。
──野田くん自身が本当に救われるのは、まさにエディット・ピアフみたいな表現なわけですよね。そういう曲を野田くん自身が、遂に書けるようになった感覚なんですね。
野田 うん、自分がこの痛みを経験してきたから、今の自分がこれを言ってもなんか価値はあるんじゃないか、みたいなふうに思えるし。『絶体絶命』のラストで “救世主”って曲があって。あれとかも、なんとかして目の前の人を救いたいんだけど、結局は、君がいなくなってしまったら、君から見た世界に僕もいないしっていう文脈で、結局は主語が僕なんだな、結局は自分のためだったのかとか。そういう意味では、相手のことを救いたいって思ったときに、言葉の角度が変わったと思う。
武田 “ピアフ”のいちばん最後の歌詞、むちゃくちゃ好きです。
野田 あら。ありがとうございます(笑)。
──最後の3行?
武田 はい。
野田 嬉しい。これしかなかったね、最後の曲。
武田 すごい好き。
──『あにゅー』というアルバムを作り終えた今のRADWIMPSというのは改めて、どうですか?
野田 20年音楽を続けてきても、こんなに音楽が好きで、がむしゃらにのたうち回りながらスタジオで頭を抱えながら曲を作ったり。かたや、ただただ鳴らしてて楽しいねって曲もアルバムの中に共存させられたのも嬉しいし。もうちょっと音楽というものをハンドリングできる未来を想像していたっていうか、音楽を手懐けて、もうちょっと上手いこと付き合えるのかなって想像してたんですけど、20年以上音楽やっても、こんなに何ひとつわからずに面白いんだって。そういう気持ちの中で音楽を作れてるのが嬉しい。で、今はひとつやり切っちゃったから、何も見えてないっていう(笑)。でもお客さんに僕らはいつでも育てられている気もするから。このアルバムを受けて、お客さんが反応してくれたことで見える地平があるんだと思うし。「全然違げえよ」って言われるのか「やりすぎだ」って言われるのか、「面白いじゃん」って言われるのか。いろんな声を聞いたうえでどこに向かおうか、また見つけられたらいいですね。
ヘア&メイク=根本亜沙美 スタイリング=髙田勇人 美術制作=山家章宏
RADWIMPSのインタビュー全文は発売『ROCKIN'ON JAPAN』2025年11月号に掲載!
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