──それによって出るグルーヴもありそうですよね。そして、アルバムタイトルにもなった「ポイントネモ」という言葉が素晴らしいですね。陸地から最も遠く、それゆえに生物もあまりいない、だから役目を終えた人工衛星の墓場となる場所。そこには悲哀やロマンなどいろんな感覚を覚える余白もあって。この存在は元々知っていたんですか?産まれてこのかた一度たりとも人の気持ちをわかったことがないなって思っているんですよ(吉田)
吉田 いや、知らなかったんですよね。何気なくネットで調べてる時に「ポイントネモ」っていう単語が見えて、なんかいかにもかっこつけた言葉だなと思って調べてみたらめちゃくちゃ……親近感っていうわけでもないんですけど、この言葉の裏側に勝手にいろんなものを感じてしまうなって。そんな気持ちを持ちながら歌詞とかを書いてたら、だんだん「このアルバムの名前かもしれないな」と思ったりして。
──自分のどんな部分とシンパシーを感じたんだと思います?
吉田 人がいる場所からいちばん遠い場所、いちばん関係ない場所に名前がついてることに、まずすごくハッとして。……産まれてこのかた一度たりとも人の気持ちをわかったことがないなって思っているんですよ。思ってもないことを告げられてビックリすることもあるし、こう思ってるんだろうなという想像の的が外れてたり、なんなら一つひとつの言葉の意味も勝手に解釈してるだけで、俺と今まで出会った誰しもが別の世界の存在同士だよなって。それ自体はまあそんなものというか、特段変わったことではないなと思っていたんですけど、この「ポイントネモ」っていう場所に特別な名前がついてて、なんなら人工衛星を安全に落とすために使われていたりとか、意味づけをしている人間たちがいることを知った時に、『あ、その気持ちに名前をつけてよかったんだ』みたいな気づきがあって。自分が一人であるということに対して、新しくできるアクションが増えたというか。一人だから何か叫びたいんだけども、寂しいでも悲しいでも『虚無だ!』でもないそれはポイントネモなのかもしれない。今自分が向き合ってる曲に対する気持ちともシンクロする部分があるかもしれないなって。
──そこから、じゃあこの表題曲も書こうという流れで?
吉田 ということでもないんですよ。曲自体はMVを作っていただいた大石(拓郎)さんとお話をした時に──っていうのも、そもそもずっとストップモーションで何かを作りたいんだ!って言ってたら、レーベルが「10周年だからいいよ」って言ってくれて(笑)。大石さんのスタジオまで「何かやりましょう」って言いに行ったら、月並みなんですけど、人間が何かをした時に否応なく起こってしまう結果の一つひとつがちゃんと、私たちの生きた証なんですね、みたいな気持ちになって。その日のうちにギターを持ったらすぐ出てきて、次の日にはもうスタジオで合わせて形作れたくらいだから、コンセプトありきというよりは、その時の瞬発力で作った曲でした。
山岸 そのあとからアルバムタイトルが決まって、さらにあとに曲名にもしたという。順番的にはそんな感じでした。
──タイトルに相応しい孤独感も抱きながら、これまで以上に言葉がまっすぐ寄り道せず伝わってくる曲ですね。アルバムを作るタームでずっと考えてきたこと、「ポイントネモ」という言葉に出会った時から直感的に表したかったものが結実した(吉田)
吉田 自分の作品の中で、なんか新規性があるなと強く感じながら作ったものではなかったんですよ。ただ、普段から持ってるライブラリーからそのまま、手グセのように文字やメロディに起こしたわけでもないなと思っていて。ちょっとまだ、なんでこうなったのかは自分でもあまりわからないんですけど、実際に書いてレコーディングをしてみてすごく……アルバムを作るタームでずっと考えてきたこと、「ポイントネモ」という言葉に出会った時から直感的に表したかったものが結実した、ちゃんと表現できた歌詞だということは言えると思います。
──他の曲についてもいくつか触れたいんですが、まず“イエスタデイ・ワンスモア・ワンスモア”がすごく面白い。このオリエンタルなシンセの感じは今までなかったし、でもちゃんとズーカラデルの音にフィットしていて。
吉田 そうですね。なんかいいメロディを思いついて、バンドでやったらかっこよくて。最高でしたね。
鷲見 ベースも好きにやっちゃってます(笑)。オリエンタルなムードは漂っているんですけど、下にはカントリー調のアプローチがあったり、根底にあるのは結構バンドが得意としていることな気がしていて。なのでずっとやってきたスタイルは持ちつつ、ちょっと新しいスパイスを加えることで見え方が変わったというか。
──あと、個人的には“330”がとても好きです。このインディーロック、オルタナなギターの音がこのアルバムの中にひとつ入っていることの嬉しさがあって。
吉田 ありがとうございます。ギターのリフというかコードストロークから始まるんですけど、自分の持ってるギターでかっこいい音を出したいなと思って弾いたら、なんかかっこいい音が出たぞ!というところから制作自体も始まったので。やっぱりそういう、楽器でかっこいい音を出せるって嬉しいんですよね。
──わかりますよ。しかも普段はもうちょっとクリーン寄りの音を使うイメージもあるけど、特に間奏のエフェクトとかはかなりキツめで。でも、元々ルーツの中にはこういう音もあるわけですよね。
吉田 そうですね。こんなのばっかり聴いてるっちゃ聴いてるし、間違いなく自分の中の最初のほうにいるというか。ずっと歩み寄りたいけど届かない場所に、勇気を持って入っていった気持ちはあったかもしれないです。オルタナの感じとかインディーっぽい感じとか──。
山岸 イントロの長さとかね(笑)。
吉田 (笑)。
鷲見 イントロが長いものは出しづらい世の中な気はしてるけど、この曲がいちばん輝くのはこのイントロの長さだったし。どうしても入れたい曲のひとつではあったので、こういう曲を入れられるのもアルバムを作る意味だなと感じました。イントロのギターの音色作りも結構な時間を費やして……火も出たり。
──え?
吉田 一回、最高な音が出た!って喜んでしばらく置いておいたら、出し方を忘れちゃったことがあって。その時にいろいろやってアンプから火を出しました。
鷲見 無理させちゃって(笑)。
──そんなことになるとは(笑)。で、その次に最終曲として収まってる“ローリンローリン”がある意味浮いた感じで流れてくるのもいいですよね。
鷲見 確かに。
吉田 本当、人様に書いた曲なんですけど、やってみたらすごく自分事としてしっくりきたところもあったし、すべてを回収してくれる気もしたので、最後に置きました。
──これからツアー等で演奏して気づいていくことも多いでしょうけど、バンドにとって大きな一枚になりそうですね。
鷲見 レーベルの人がいる前でだいぶ無責任な発言ですけど(笑)、セールスとか置いておいても「これを作れてよかった」と言えるところまでいけたことに、すごく満足してます。だからこそちゃんと今まで以上に遠くまで届いてほしいという願いもあって。
山岸 これがズーカラデルのやりたいことだと自信を持って言える一枚になったので、じっくり聴いてほしいし、かつ多くの人にも広まってほしいという欲張りな気持ちがあるんですけど……売れてくれたら嬉しいです(笑)。
──吉田さんは自分のやりたいことに忠実に向き合った成果、どうでしたか?
吉田 2025年の7月くらいまでの自分はかなり詰め込めむことができたなと思うし、バンドで録音することで思った以上にかっこよくできたという点で、非常に最高だったなと思って……最近は新しい曲を作り始めてます。
──あ、既に?
吉田 (笑)。本当にフルスイングした感触はあるので、それがどんな結果になるのかが楽しみですし、「いいですよ」と自信を持って言いたいです。