あいみょんの新曲“あのね”は、そのタイトルが思わせる通り、大切な気づきやふと思いを巡らせた真実、あるいは聴き手に問いかけた、伝えたい言葉とメロディが静かに込められたバラードである。ここには本当に必要なものしかない――そんなふうに形容したくなるほどに洗練された美しいバラードだ。あいみょんの歌も優しく、まっすぐに染み渡らせていくように歌われている。この楽曲は、映画『窓ぎわのトットちゃん』の主題歌として作られた楽曲で、さすがあいみょん一流の、まさに作品の主題を心から愛でることで生まれたメッセージソングである。と同時に、シンガーソングライターあいみょんの新曲として、また新たな高みに達した確かな実感が押し寄せる楽曲でもある。たとえば、「ありがとう」という、僕たちの日々で擦り切れるように飛び交っているたった5文字のこの言葉を、これほど豊かな感性と物語を込めながら歌い切ることができるアーティストはあいみょんをおいて他にそうはいないと僕は思う。もっというなら、この不世出のソングライターをして、これほどまでに正確な「表現」ができる場所に今、あいみょんは立っている、ということなのだろう。2023年の暮れ、1年の手応えを通して語られる言葉を受け止めてほしい。
また、12月28日(木)発売の『ROCKIN’ON JAPAN』は、あいみょんが表紙巻頭。新曲“あのね”を含め、2時間に及ぶロングインタビューで、デビュー7年の足あとを振り返ってもらったので、そちらも楽しみにお待ちいただけたら嬉しい。
インタビュー=小栁大輔 撮影=川島小鳥
「ありがとう」には、寂しい意味を込められることもあるって。何かを失う経験をしたことがある人だけがわかる「ありがとう」がある
――ツアーも無事に終わり。「ありがとうございます! お越しいただきまして、ありがとうございます」
――いや、素晴らしいライブでした。
「なんとか終わりました」
――40公演。よかったねえ! やり切れて。
「心のどっかでは、誰かまたメンバー欠けるかなとかもあったんですけど。まあ、そんなこともなく、無事にできたのでよかったです」
――『紅白』も発表されたね。
「発表されるまでは、いっつもソワソワします。今年に関しては、朝ドラ(『らんまん』)が決まった去年から、この年末までっていう気持ちではもちろんいたんですけど。あるかどうかわからないっていう気持ちは大事にしています」
――『窓ぎわのトットちゃん』観させてもらいまして。本当に素晴らしい映画だね。
「そうなんですよ! 仮の映像のときから、うるうるうるってなって。ありがたい作品に声をかけてもらえたなって思いながら(“あのね”を)作りました」
――今回、バラードじゃない?
「はい、バラードですね」
――で、6分46秒もある。
「馬鹿長いです。今までの楽曲で、いちばん長い」
――どういう流れでこういう曲になっていったの?
「(原作は)児童書っていうイメージが強かったんですよ。だから、映画の中で歌われているような、お遊戯っぽい曲、童謡っぽい曲でもいいし、バラードもいい、逆張りでアップテンポもありかなとか、いろんな候補がありすぎて、超悩んで。思いついたものを、とにかく書いて聴かせる、書いて聴かせる、書いて聴かせるってやっていました。(“あのね”は)その中のひとつだったんですけど、別の曲になっていたかもしれないぐらい、誰もがわかんなかった。難しかったです。曲の内容も、いろんな主人公がいて。滝沢カレンさんが(声優を)やった(大石)先生もよかったし、校長先生もいいし。どの目線もあるなあと思ったんですけど、やっぱり泰明ちゃんとトットちゃんの関係性を、少し年齢を上げて書きました」
――年齢を上げる。そこがポイントだよね。
「そうなんですよ。子どもっぽくすると、言葉を選びづらいので。年齢を上げて書こうっていう。普通にラブソングの気持ちで書きました」
――さすがのバラードなんだけども、あいみょんには何度も話してきたことだけども、相変わらず2Aの歌詞は出色ですね。《「ありがとう」その台詞には/不安も過る 不思議だね/素敵な言葉なんだと/教わったはずなのに/消えてしまいそうで》。
「大人になって気づくことですよね。『ありがとう』には、寂しい意味を込められることもあるって。何かを失う経験をしたことがある人だけがわかる『ありがとう』がありますね」
――このフレーズは、あいみょんの中で、どのように生まれてきたの?
「泰明ちゃんがトットちゃんに『今までいろんなことありがとうね』ってお別れのありがとうを言ったイメージは、意識的にあったのかもしれないですね。あの『ありがとう』は寂しいんです。『今までいろんなことありがとう。楽しかったね』の『ありがとう』は、『さようなら』なんですよ」
――うん。それにしても、なんで2Aは文学的で本質的な歌詞が出てきやすいんだと思う?
「ええ? 一回1サビまでで物語を完結させているから、続きが書きやすいのかも。1Aは出だしなんで、めっちゃむずいんです。どう入ったらいいんやろうって思うんですけど、ワンコーラスまでしっかりできているから2Aは入りやすい。次はこれ言えるなって。そんな考えずに、ナチュラルにスラスラ書けているのは2Aなのかもしれない。あと、2Aは1Aと対比しながら書けます。(今回の)《「さよなら」》と《「ありがとう」》とか。1Aを見ながら書けるので、物語も作りやすいですし。っていうのはありますね」
イントロがなくて、アウトロがなくてっていう楽曲が多いけど、時代に逆行していきましょうっていう感じはありました。むっちゃ長い(笑)
――あと、特筆すべきは、Dメロだよね。ここで《信じてる》っていう言葉をあいみょんは選んでいて。この曲に関していうなら、他のパートは客観性も高い描写になっていて、風景描写や、映画の中にある空気感を閉じ込めようとしている視点を感じるんだけども、ここだけ、すごく一人称が強い表現になっているよね。「ああ、そうですね、確かに。急に、めちゃめちゃ大人になる感じがする、Dメロは」
――それは自覚していたんだ、書いているとき。
「いや、自覚はなかったんですけど、歌っていて思いました。《信じてる 信じてる》って、グッと込めて歌っているんですけど、そのときは、トットちゃんが今の(黒柳)徹子さんくらいのイメージで。人を信じるっていう気持ちって、大人にしかわからない。子どものときって、信じる/信じないとか、あんまりなかったような気がして。サンタさんとお化けくらいだったんですけど。何かを信じる、人を信じる、この人は絶対に大丈夫とかって、大人になってわかることだったりするんですよね。だから《信じてる》って言葉って、大人しか使わへんなって気もして。もちろん、全体的に年齢を上げているつもりなんですけど、《信じてる》でいちばん、グッと大人になる感じがします」
――そうだよね。ここのDメロの《信じてる》があることで、主題歌でもありながら、あいみょんというひとりのシンガーソングライターの楽曲として肉体性を持つ感じがするんだよね。
「ああ、ありがたいです。いやあ、超ロングな楽曲になったんですけど、これもこれでチャレンジやなって話はしていましたね。短くて、イントロがなくて、アウトロがなくてっていう楽曲が多いけど、まあ、時代に逆行していきましょうっていう感じはありました。むっちゃ長い(笑)」
――なるほどね。でも、もうわかっているんだと思うんだよね、あいみょんは。曲が短いから聴かれるわけではないし、長いから聴かれないわけでもない。
「関係ないですね。まったく関係なくって。聴かれる楽曲は、必然として聴かれる感じは、見えてきてはいますね。6分も!とは言われるけど、今の私が『トットちゃん』に向けて作った楽曲で、歌いたい楽曲には6分が必要っていう感じです」
――うん、だから、この長い尺というのは、あいみょんの自信だと思うんだよね。7分に迫るシンプルなバラードを『トットちゃん』の主題歌、エンディングを飾る曲として聴かせるのは、自信だと思うんだよね。
「長い曲を作っているっていうのは、まったく意識していなかったんです。もちろん、イントロが長いとか、アウトロが長いとかあるんですけど、気づいたらって感じでした。それぐらい作品がいいんですよね。思うことがたくさんありましたし。もっとこうできるかも、ああできるかもっていう気持ちが、増すような作品だったので」