15歳からラッパーとしての活動を始め、Zeebra主宰レーベル「GRAND MASTER」との契約後、本格的なアーティスト活動をスタート。その後、SKY-HI主宰のマネジメント/レーベル「BMSG」に第1弾アーティストとして移籍し、2021年12月、メジャー1stアルバム『A GREAT FOOL』をリリース。自身の過去の傷や孤独に真正面から向き合うように制作されたこのアルバムは、その痛みの分、より深いメッセージを孕む作品となった。そして2ndアルバム『No Pressure』が8月3日にリリースされた。この新作は、1stで「過去の昇華」を試みたあとに開けた、見晴らしのいい現在地を映し出す、とてもポジティブなバイブスを内包する作品となった。この変化はとても大きい。ラッパーとして、シンガーソングライターとして、Novel Coreが今、強い自信を得たのはなぜなのか。「No Pressure」と言い切れる強さはどこからもたらされたのか。楽曲制作の背景から深掘りしていく。
インタビュー=杉浦美恵 撮影=伊藤元気(symphonic)
“TROUBLE”はBe The Minority的な意思表明として作った曲。今までなかったスタンダードを作りたいっていう感覚を今はすごく大事にしている
――前作の『A GREAT FOOL』が、自分の過去に向き合って昇華させようと思うきっかけとなった作品だとすれば、今作はそれを一歩進めて、過去が報われたと感じられるようなポジティブな作品だと思います。「前作の時は鬱屈とした感情とかトラウマと対峙して、そこで過去に一旦ピリオドを打てた分、今作では自分の目の前にある大切なものを見て、今のNovel Coreとして新たにスタートが切れた作品になったなと思います」
――まず1曲目の“TROUBLE”。ダークでブルージーな響きのあるトラックに乗せて、辛辣でアイロニカルなリリックが突きつけられる曲です。これを1曲目に置いたのは?
「“TROUBLE”は、自分自身や自分のチームが、喜んで『トラブル』とか『エラー』と呼ばれるような存在になっていくっていうBe The Minority的な意思表明として作った曲です。今までなかったスタンダードを作りたいっていう感覚を今はすごく大事にしているフェーズで。自分のファン、スタッフ、チームで一緒に大きくなっていくという所信表明としてアルバム1曲目に置きました。自分の今後の指針みたいなものを示してスタートさせたかったんです」
――2曲目の“JUST NOISE”からも、世のはみ出し者だと思われてもいい、むしろそういう人にこそ響く楽曲をというメッセージを受け取れるし、さらにそれを推し進めたのが“BABEL”だなと。
「歴史上の偉人も――たとえばライト兄弟とかエジソンだって――はじめは世間から、飛行機で空を飛んだり電球を作るなんて戯言だと笑われていたわけですよね。でも彼らは信じてやり続けた。その結果、社会が豊かになった。その事実を僕自身、すごく自分の助けにしてきたというところがあって。新しいことに挑戦しようとする時、誰もやったことがないことをやろうとした時、まわりから批判されたり笑われたりした人にこそ聴いてほしいと思って作った曲です」
リファレンス云々ではなく「フェスで自分のことを知らないお客さんの前で演って、これ一曲でがっつり掴める曲を作りたいです」っていう話をして
――そこから遊び心に溢れた、“No Stylist”へ。これがすごく楽しい曲で、Coreさんのファッション観、表現観みたいなものが溢れていて、ここまでぶっちぎりで自分の主観のみで書き進めたリリックも新鮮です。「そうですね。今までは、特にアルバム単位で音源を作る時には、しっかりとメッセージが伝わるように、ということを最重要視していたんですよね。いわゆるノリ的なところに着地するのは抵抗があったんですけど、本作はもう、今の自分として歌いたいことを歌おうっていうスタンスで。“No Stylist”は、自分がファッションが好きで、スタイリストさんも入れずに私服でステージに立ったりしてるっていうのを、そのまんま曲にしただけなんですけど。シンプルに友達の名前や、いつも通ってるお店の店長さんの名前とかをいっぱいネームドロップしながら、自分自身もすごく楽しかったです」
――“独創ファンタジスタ”がまた、ものすごくオープンマインドな曲で、今作ならではのリード曲。ちょっと危ういくらいに突っ走った曲なんだけど、「楽しむことを恐れるな」「全力で楽しめ」っていうメッセージも受け取れる作品になっていますよね。
「ジャンルをまたぐような感覚を大事にしたかったんです。それで、KNOTTさんにお願いしたんですけど、KNOTTさんはヒップホップが軸にあるけどオールジャンルで縦横無尽にやる方々なので。最初のミーティングでもう、リファレンス云々ではなく『フェスで自分のことを知らないお客さんの前で演って、これ一曲でがっつり掴める曲を作りたいです』っていう話をして。無理難題ですよね(笑)」
――要は「最強の一曲をお願いします」ってことですもんね(笑)。
「そうなんです(笑)。でもそれで来た楽曲がめちゃめちゃよかったんですよ。この曲では、なんとも言えない懐かしさみたいなのを入れたくて、日本の歌謡曲らしさをどこかにちりばめたかったんですよね。歌詞とか歌い方のテンションとか」
――確かにメロディの感じは懐かしさがありつつ、ビートや上モノの鳴り方がロックっぽくもあり、強いもの同士を掛け合わせて作り上げたっていう感じがします。
「邦楽はもともと好きなんですけど、相川七瀬さんとか、自分とは世代の違う邦楽アーティストが大好きで、母親の影響でよく聴いていたんです。なんか最近そこらへんのバイブスがほしくなってて。ちょうどそのタイミングでこの曲の制作だったので、その世代の感覚をちりばめるのを意識していました。歌詞はもう半分ふざけてるんですけどね(笑)。自分で書いてて爆笑してましたから」
――アルバム後半はもう真正面から、前作からの変化というか、Coreさんの現在地を表現する曲が続きますよね。タイトル曲である“No Pressure”は、UTAさんとのコライトで。
「前作で、“THANKS, ALL MY TEARS”という曲をUTAさんと作って、それはアルバム最後の曲だったんですけど、自分としては次のフェーズのオープニング曲というか、序章としてあの曲は置いていたんですよね。その繋がりで、UTAさんには今回のタイトル曲をやっていただきたいなと。まず今作は『A GREAT FOOL』の時に感じていた不自由さみたいなものから解き放たれたいっていう願望が単純にあって、『No Pressure』っていうアルバムタイトルをつけて。で、いざこの曲を書き始めたら、自分が表現したい『No Pressure』って、『もうプレッシャーがない』とか『感じない』っていうことではなくて、プレッシャーがあったからこそ、そこから脱した時に自由に感じられてる自分がいるんだっていうことに気づいたんですね。なので、ネガティブな感情も受け入れて愛せるような曲にしたかったんです」