局所性ジストニアにより長らくライブ活動を休止していたドラム・加賀屋航平が12月28日のライブをもって脱退することが発表され、加賀屋が参加する作品としては最後となる2nd EPの『オールタイムラブユー E.P.』がリリースされた。グッドメロディと躍動感あふれるアンサンブル、繊細で巧みな情景描写が宿った歌詞というthe paddlesらしさが全開ながらも、初のバラード“ワンスター”や10年間の活動と未来が詰まった“余白を埋める”が収録されるなど、新たな扉を勢いよく開いた作品でもある。
そんなバンドの第二章のスタートとなる本作について、作詞作曲を手がける柄須賀皇司(Vo・G)と松嶋航大(B)に話を聞いた。
また、12月27日(金)発売のROCKIN’ON JAPANでは、アップデートされ続ける恋愛ソングライティングについて語ってくれている。ぜひ両方チェックして、今のthe paddlesを知ってほしい。
インタビュー=小松香里
──2nd EP『オールタイムラブユー E.P.』を作るうえで具体的にイメージしたことはあったんでしょうか?これまででいちばんthe paddlesっぽい作品ができた感触があるので、航平らしさ全開のEPを引っ提げて1月からツアーをやるっていう感覚がありますね。最後に力を託してもらった気がしてます(柄須賀)
柄須賀 1年前に初めての5曲入りのEP『ベリーハートビート E.P.』を作って、EPってバラエティのある作品にしやすいなって思ったんですよね。それを踏まえて「the paddlesらしいな」っていう曲もあれば、「こんな曲もthe paddlesにはあんねや」っていう曲もある幅広いEPにしようっていうところから始まりました。
──ドラムの加賀屋航平さんが局所性ジストニアのためにライブ活動を休止していましたが、『オールタイムラブユー E.P.』の制作と12月28日に開催される寝屋川VINTAGEでのライブをもって脱退されるという。
柄須賀 そうですね。EPが完成したあとに航平が抜けることが決まったんです。急に「結婚すんねん」っていうLINEが来て、そこで話し合いをして、航平は自分のことがバンドにとってマイナスにならないようにってずっと気にしてたので、もちろん寂しい気持ちはありますけど、「じゃあ脱退するにはいいタイミングなんじゃないか」っていうことになったんです。『オールタイムラブユー E.P.』はこれまででいちばんthe paddlesっぽい作品ができた感触があるので、航平らしさ全開のEPを引っ提げて1月からツアーをやるっていう感覚がありますね。最後に力を託してもらった気がしてます。
松嶋 航平がライブ活動を休止してから1年半以上経ちますけど、その間も制作はずっと一緒にやってて。今回のEPだと1曲目の“愛の塊”には航平のタンバリンが盛り盛りで入ってます。航平のエッセンスがいろいろ入ったいいEPができたんじゃないかなと思ってます。
──4曲目の“ワンスター”は徐々にドラマティックになっていくバラードで、これまでこういう曲はなかったですよね。
松嶋 バラードは音数が少なくなるっていうこともあって、ファルセット中心のメロディが作りたかったんです。僕の弾き語りのデモの時点でサビメロが先に出てきて。めちゃくちゃキーが高いんですけど、僕もこれまでやってなかったことをやりたかったのでファルセット中心で歌いました。それによって言葉の入り方も変わってくるのでいいなって思いましたね。
──バラードを作ってこなかったのは何か理由があったんですか?
柄須賀 ルーツになさすぎて(笑)。
松嶋 それやね。
──ASIAN KUNG-FU GENERATIONやウィーザーがルーツだと言ってましたよね。
柄須賀 そうですね。だからバラードっていうとアジカンの“海岸通り”っていう感じなんですけど。あと、THE YELLOW MONKEYの“JAM”とか。“ワンスター”は特に何かを意識するというよりは、出てきたものを素直に入れていこうっていう感じでしたね。ミドルテンポの曲はこれまで出してきてて、ウィーザーやアジカンやBase Ball Bearの曲のエッセンスを入れたりして作ってましたけど、バラードはやってなかったから、出てきたものを素直に曲にしたっていう。新しい扉が開けた気はしますね。今回のEPでいちばんの新しい挑戦でした。これからもバラードは作っていきたいですね。
──“愛の塊”はサウンド的にはthe paddlesらしいパワーポップですが、《ねぇ 君が好き 誰よりも愛してる》という歌詞があり、かなりストレートに言い切った印象がありました。これも新たなトライだったという感じなんでしょうか?これまでthe paddlesは「ストレートやな」って言われることが多かったんです。めちゃくちゃストレートな歌詞はやってなかったんですけど、一旦ストレートを投げてみたくなったんですよね(柄須賀)
柄須賀 これまでthe paddlesは「ストレートやな」って言われることが多かったんですが、それは“Alright”だったりサウンド面の印象が大きいと思うんですよね。めちゃくちゃストレートな歌詞はやってなかったんですけど、それをやった感じがありますね。《君が好き》とか《誰よりも愛してる》っていう言葉を使わずにどう恋愛ソングを書くかっていうことをやってきたけれど、一旦ストレートを投げてみたくなったんですよね。
──他のパートの歌詞が「これってこういうことなんだろうな」というふうに想像させる描写になっているので、よりストレートな歌詞が効いてくる感じがあります。
柄須賀 確かに「ここぞ」な感じがありますよね。あと、落ちメロの《君は僕のため僕は君のために生きていこう》のところは航大のベースだけにして僕がフリーになって、ライブではみんなで歌ってもらいたいって思ったので、1回聴いてすぐに意味がわかる歌詞にして歌いやすくしたっていうのはあります。
──3曲目の“余白を埋める”はパワーポップやギターロック満載の楽曲ですが、結成から10年間の道筋と未来への気持ちが描かれた曲に聴こえました。
柄須賀 そうですね。自分たちの過去の曲名や1月からの対バンツアーに出てくれるバンドの名前をたくさん歌詞に入れました。ArakezuriとかTRACK15とか。あと、ライブハウスの名前も入れて。
──《東館からあの日の3人がこっちを見てる/荒削りな強いファンファーレが聴こえる》という歌詞はthe paddlesが前身となるバンドを結成した四條畷高校時代の景色ですよね。
柄須賀 マジでそうです。前に“東館3F”っていう曲を出したこともありますけど、サウンド面じゃない自分自身のルーツを掘り起こして書いてみました。“余白を埋める”っていうのはthe paddlesがずっと開催しているイベントのタイトルでもあるし、特別な曲ですね。