これがJ-POPのど真ん中! イトヲカシ、シーンの王道を行く歌ものアルバム『中央突破』を語る

知らない曲を届けるということが一番ミュージシャンの真価を問われる(伊東)


――現在、ツアー中だと思いますが(取材日は5月11日)、手応えとしてはどうですか?

伊東 始まったなっていう実感はもちろんあって。去年は路上ライブをがんばって、イトヲカシというのは路上もライブハウスも両方楽しんでもらいたいと思ってるんですけど、ライブハウスは久しぶりで。いい音で、大きい音で、きれいな照明で届けられるっていう喜びと、あとはまだアルバムを引っさげてないんですね。だからまさに今新曲を聴いてもらってるなという実感があります。

宮田 売れないバンドをやってた時代を思い出すというか、曲を知らない人に対して届けるという点では昔と近い感覚もあって。ライブがよかったらCDを買ってもらえるかもしれないし、会場で予約してもらえるかもしれない。知らない人に届けることができるのは楽しい試練だなと感じてます。

――もうアルバムの曲をバンバンやってるわけですね。

伊東 1曲2曲じゃなくて、ガンガンやってますね。

――届いたって思える瞬間もあります?

伊東 ありますね。知らない曲を届けるということが一番ミュージシャンの真価を問われる場面だと思うので、届けっていう気持ちでやって実際に届いた感覚を持てるとすっげえうれしいです。

――それが見えるというのは大きいですよね。

伊東 お客さんの顔や目から、間違いなく感情が伝わってくるんですよ。

――イトヲカシは王道を追求していて、それはつまり多くの人に聴いてほしいということで。で、多くの人に聴いてもらうにはライブより制作に軸を置く考え方もあるけれど、きっと心を直接届けたいということなんでしょうね。

伊東 両方なんですよね。両方やりたくて。路上ライブって、この前3000人来てくれたことがあったんですけど、例えば沖縄だと30〜40人ということもあって。それは十分というか、バンドのときは何十人も集まることがなかったからうれしいんですけど、沖縄へ行くには諸々かかるものもあったりする。「同じカロリーを使うなら、インターネットに音源をアップロードしてもっと多くの人に聴いてもらったほうがいいんじゃないの?」って言われたことがあって、「たしかに」とも思ったんですけど、そこに行くことで得られるものって、そんなに価値が低いのかなって。だからライブも制作も、両方やっていくとそれぞれにフィードバックがあって、いいんじゃないかなっていう気持ちがありますね。おっしゃるとおり、やっぱり心を伝えたいっていうのが一番にあるので。まあでも制作で心を込めればいいのか――。

宮田 いやたぶん、バンドやってたときと今で圧倒的に違うことって、お客さんへの感謝の気持ちで。バンドやってたときはここまで強く感じてなかったと思う。それはなんでかって考えると、すごいいろんな人の顔が浮かぶというか、路上ライブの経験が大きくて。そこにいるみんなに対して発信してるけど、ひとりひとりとワントゥワンでつながってる感覚を感じるようになった。本当に愛というか、愛情を。それはそういう体験をしてなかったら得られることはなかったなと。端から見たら非効率的なことかもしれないけれども、それを持ってるのと持ってないのとでは根本の部分で違うんじゃないかなって。心を伝えることが一番大事だって言ってるアーティストに心がなかったらね。

伊東 それは最悪だからね。誰のおかげで音楽ができてるんだって話になったときに、俺の中では明確で。お客さんなんです。お客さんって言い方も好きじゃなくて、「あなた」ってよく言ってるんですけど。自分たちの音楽をどのような形であれ聴いてくれる人がいないと表現として成り立たないし、もっと直接的なところで言ったら俺たちは生活できない。

――明日食べるものが。

伊東 そうなんですよ。ミュージシャンっていうのは本当に生かされてるんです。だからお客さんに言う「ありがとう」という言葉も、俺はちゃんと説得力を持って言えてるんじゃないかなっていう気がしてて。

宮田 僕が使っているギターの弦の1本1本は、あなたたちが買ったCDのお金でできてるんですよっていうことを伝えたいなっていうか。そのぐらい結びついてるんだぜっていうことはライブで伝えたいなと思います。

伊東 本当にそうなんだよね。

宮田 みなさんが買ってくれたCDのおかげで、この路上ライブをしてるレンタカーもスピーカーも全部。

伊東 全部そう。もっと言うと、ライブ中の拍手とか、表情っていうのも、例えば俺、好きなアーティストのライブを観てもちろん拍手するけど、この拍手ってどうせ俺がしなくても影響しないんだろうなって思ってたんですけど、自分のライブで曲が終わって、ありがとうございますって頭を下げたときにみんながいい笑顔で拍手してくれるのを見ると、そのひとつひとつがマジで力になる。本当に力になるってことをもっとわかってもらいたい(笑)。

――《あなたには伝わってるかな?》(“あなたが好き”)という気持ちですね。

伊東 この曲、何回かライブで披露したんですけど、そういうつもりで書いたわけじゃなくても、俺もいろんなアーティストのファンだから、もしかしてファンがアーティストに向かって思う気持ちもこの歌詞で表現できてるんじゃないかって、この前気づきました。伝わってるか不安にもなるけど、本当に好きだよっていう。

何にも負けず、腐らず、このまま真面目に一生懸命やっていきたい(伊東)


――最後に、お互いをどう思うかについて訊かせてもらえますか。

伊東 マジっすか。

宮田 走力は◎(笑)。

伊東 俺、走力はAぐらいあるかな。

――できれば音楽的なことで(笑)。

伊東 ですよね(笑)。そうだな……音楽を手段にすることが悪いとは思わないですけど、俺はできなくて。仮にそうだったらライブで嘘をついてる気になっちゃうし、取材でもたぶん嘘をつくことになる。こうやって歌ったら売れるんだろうなとか、そういうのは嘘だと思っちゃうから。そこは大人になれないんですよ。お客さんに感謝して、音楽が好きだからやってるっていう、シンプルなんですけどそれができてる人ってなかなかいないと思うんです。で、彼はそれができてる、って言い方も変ですけど、やろうと思ってやってるというかそれがそのまま生き様だと思うんですけど、そういう人間と音楽ができるっていうのは俺は幸せだなって。

――アレンジをする人ってイメージ的に「ここをこうしたほうが売れる」とか言いそうですけど。

伊東 もちろんそういう視点というか、売れるというより「もっとよくなる」って意味での提案はしてくれますけどね。心根の部分を俺はどうしても求めてしまうので、そこがすごくいいなって思ってます。

宮田 ……ありがとうございます(笑)。僕は自分で歌うことができないので、音楽をやるなら誰かと一緒でしかできないってなったときに、彼は、まあボーカリストに歌うまいって言っちゃいけないと思うんだけど、料理人に料理うまいって言ってるようなもんだから。

伊東 たしかに。

宮田 歌うまい人はいっぱいいる中で彼の何が好きかって言うと、被りますけど、心っていう部分。言霊……言葉ですらないのかな、魂なのかな、言葉も器でしかないから。音楽ってものが好きだったり、伝えたい想いだったり、心の部分が強くて。それを歌に乗っけて届けることができるボーカリストだなって思うことがすごくあって。やるならそういう人とやりたいと思うし、そういう人間が中学からの同級生でいるってすげえなって思います。

伊東 そう言えばそうだね。

宮田 変な学校で、ダンサーとして第一線でやってるやつとか、舞台女優でグイグイいってるやつとかいろいろいたのもすごいなと思うけど、まさかこれぐらいの歳になってまで中学の同級生と相方っていうか、パートナーシップを結んでやってるのって本当にすげえことだと思うから。そういう縁みたいなものも含めて、運命的なものなんじゃないかなって思ってやってますね。

――イトヲカシとして、そしてきっと音楽として一番大事なところでおふたりが結びついているのがわかりました。この先もずっとふたりで歩んでいってほしいし、歩んでいけるんじゃないかと思ってます。

伊東 すげえうれしいです!

宮田 だといいな(笑)。

伊東 ふたりとも真面目だと思うんです。だから何にも負けず、腐らず、このまま真面目に一生懸命やっていきたいと思ってます。

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