哀しみや喜びが車窓を高速で過ぎ去っていくロードムーヴィーを連想させるアルバムだ。2年前のデビュー作『ラヴ・リメインズ』が好評だったハウ・トゥ・ドレス・ウェルはケルンとニューヨークを中心に活動するトム・クレールのソロ・プロジェクト。哲学の博士課程を学びながら作ったという前作はグローファイ/チルウェイヴの文脈の中で評価されたわけだが、期待通り本作ではそこから歩を進め、より内省的な写実を繊細に産みだしている。音数は決して多くはないが基本であるR&Bにドローン・ミュージックやアンビエント的な要素をふんだん盛り込み、儚げなファルセットで歌い込んでいく音像はあくまでも爽やかだ。
15ヶ月ほど費やしブルックリン、シカゴ、ナッシュヴィル、ロンドンで書いていったものだというが、そうした旅の感触がトラックのそこかしこから流れだしドラマを妄想させていきその感触そのものがとても心地よい。“愛はとどまる”とした前タイトルから今度は“まる損”となり、トム自身は“先に全く光が見えない状況下であってもその暗闇から抜け出すための方法を探す試みである” と語っている。(大鷹俊一)
まる損の旅
ハウ・トゥ・ドレス・ウェル『トータル・ロス』
2012年10月03日発売
2012年10月03日発売
ALBUM