現在発売中のロッキング・オン11月号では、最新メタルシーンを徹底解説する論考を掲載しています。
以下、本記事の冒頭部分より。
文=増田勇一
メタル界隈に、地殻変動が起きている。ロックミュージックの範疇においていちばん不変性が高いとみられがちなこのカテゴリーだが、遠い昔からずっと細分化が進んでいたのもまた事実。いわばメタルという雑居ビルの中に少しずつ毛色の違う専門店が混在し、隣り合う店同士の境界線から過去にはなかったものが生まれてきたり、「それはむしろ隣りのビルのほうが収まりがいいんじゃないの?」というような異質さを持ったものが登場してきたりしている。
そこで困ってしまうのが、たとえば「2025年のメタルを象徴する存在といえば?」といった問いに対する回答を迫られた場合だ。セールス実績や話題性なども踏まえて客観的に判断するならば、たとえばスリープ・トークンあたりの名前を挙げたくなるところではある。この謎めいた匿名集団による最新アルバム『イーヴン・イン・アーケイディア』は発売早々に英米のみならず欧州各国やオーストラリアのアルバムチャートでも首位を奪取しており、バンド自体もこの夏、名だたる大型フェスでヘッドライナーを務めてきた。そうした成功ぶりからすればまさしく「2025年の顔」と言っていいだろう。
ただ、「2025年の顔」でありながら実際の顔がわからないという点はさておき、『イーヴン〜』を「2025年を代表するメタル作品」と呼んだならば、きっと「あれはメタルなのか?」という異論が少なからず聞こえてくることになるだろう。たとえばグリーン・デイが登場した当時でさえ、いわゆるオリジナルパンクに強い思い入れを抱く人たちから「あれをパンクと呼んでいいのか?」的な声があがっていたものだし、世代差による受け止め方の違いというのは常にあった。そうした傾向はロックミュージックの歴史が長くなってくるにつれて強まってきたところもあるように思われる。
スリープ・トークンの場合にもそうした部分はいくぶんあるはずだが、それ以前に音楽そのものの質感が従来のメタルとは性質を異にしている。素性を隠したそのミステリアスなたたずまいは、それこそ今から四半世紀前に猟奇趣味的激烈音楽集団との異名をとったスリップノットを連想させもするが、彼らの楽曲をプレイリストに入れようとする時、一緒に並べたくなるのはメタルバンドの楽曲ばかりではない。極論を言えば、むしろビリー・アイリッシュやザ・ウィークエンドと並べたほうが違和感なく聴けるようにも思う。
メタルの細分化は、長きにわたり、基本的にはエクストリームな方向へと進んできた。80年代の地下シーンからスラッシュメタルが浮上してきた際には「これが俺たちの世代にとってのリアルなメタルだ!」という声ばかりではなく「こんなのはメタルどころか音楽じゃない」という否定的な反応も多かったが、それを発端としながらより激烈な方向に答えを求めようとするバンドたちが続出し、デスメタル、ブラックメタル、グラインドコア、デスラッシュ……等々と細かく枝分かれが進んでいくと、そもそも尖鋭的なものとしてみられていたスラッシュメタルはむしろ新世代にとってのルーツミュージックのひとつのように捉えられるようになっていった。(以下、本誌記事へ続く)
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