2015年初のHostess Club Weekenderは、初日にベル・アンド・セバスチャンという珠玉のポップ・アクトをヘッドライナーに据え、以下出演順にイースト・インディア・ユース、ハウ・トゥ・ドレス・ウェル、チューン・ヤーズ、カリブーという最先端の若手アクトが揃い踏みとなった(レポートはこちら→http://ro69.jp/live/detail/119168)。そして迎えた2日目も、新木場スタジオコーストは見事な盛況ぶりである。この日は、多様にして刺激的なギター・サウンドが前面に押し出される、インディー・ロック・ファン垂涎のブッキングとなった。
「Hostess Club Weekenderへようこそ!」と、ご機嫌にトップ・バッターらしい挨拶も交えてパフォーマンスを繰り広げていったのはフィリップ・セルウェイ。言わずと知れたレディオヘッドのドラマーであり、現在はソロ2作目『ウェザーハウス』を携えてのワールド・ツアー真っ最中というところ。素朴な歌心に驚かされたデビュー作から一転、新作ではレディオヘッドを彷彿とさせる冒険的なアンサンブル/グルーヴの構築を聴かせてくれたが、それを踏まえたバンド・セットは“Miles Away”のオープニングからしてシンセ・ベースや生ドラムのアタック感が強烈。“By Some Miracle”辺りの過去曲も、力強いバンド・アレンジで生まれ変わっている。くるくるとパート・チェンジを繰り返すメンバーの動きが面白くて、ヴィブラフォンやヴァイオリンも持ち込まれる自由度の高い演奏だ。EP曲“Running Blind”はバカテク・ドラマーが敢えてリズム・パッドを叩きまくるアレンジに。《声が、僕を連れ戻すんだ》と歌われる“Ghosts”のメロディの美しさは、さすがレディオヘッドのクリエイティヴィティを支え続けて来た男という印象である。そんなフィル自身は時折ギターを携え、照れくさそうにしながら歌い続けていた。彼のソングライターとしての才覚を、ユニークなミュージシャンたちと分かち合うステージであった。
ニュージャージーの5ピースであるリアル・エステイトは、マーティン(Vo/G)とマット(G)が温かみに満ちたギター・サウンドを織り成しつつ、最新作『アトラス』のオープニングを飾っていた“Had to Hear”でパフォーマンスをスタート。飛び抜けて目立つキャラクターがいるわけではないし、豪快なサウンドで驚かせるわけでもない。ただただ丹念に、ドリーミーなポップ・ソングを紡ぎ、奏で、歌う。そんな生真面目な5人のスタンスが、徐々にフロア全域へと伝播してゆく手応えがあった。ドミノからのリリースが始まるよりも前、2010年の初来日時のことを振り返ったり、「東京は本当にいいところだよね。人も、食べ物も、建物も……(アレックス)」「いいところは5つだけ?(マット)」と和気あいあいとしながら、往年のナンバー“Suburban Dogs”も披露する。もちろん、高らかなハーモニーのフックを備えた“It's Real”や日溜まりのサイケ・ポップ“Out of Tune”といった『デイズ』のナンバーも届けられ、充実のバンド・ライフが観る者にまで伝わるようなステージを繰り広げるのだった。ミュージシャンとしての活動が心底羨ましくなってしまうバンドというのは、実はこういうバンドなのではないだろうか。
3組目には、アルバム『サン・ストラクチャーズ』リリースから約1年を経たUKバンドのテンプルズ。昨年のフジロックにも出演してオーディエンスを大いに沸かせていたが、今回はコズミック・サイケなイントロからエスニックな哀愁メロへと傾れ込んでグルーヴする“The Golden Throne”のオープニングで、さっそくライヴ・アクトとしての飛躍ぶりを見せつけていた。ジェームス(Vo/G)のグラマラスな佇まいにもますます磨きがかかり、アダムの深みのあるキーボード・フレーズが響く中に急転直下のリフが転がる“Sun Structures”へと連なってゆく。《未来が見失われたときにこそ、過去が未来を運んでくるんだぜ》と歌われる“A Question Isn't Answered”が示すように、テンプルズはラーガ・ロックやグラム・ロックの神秘性を参照しつつ、爆発的な表現エネルギーを導き出そうとしている。この日の出演者の中では最もキャリアの浅い彼らが、誰よりロック史の奥深くにまで手を突っ込もうとしている点も面白い。「次の曲はスネアに合わせてクラップしてくれよ」とオーディエンスを巻き込む“Keep in the Dark”や迫力の長尺ジャムに持ち込む“Mesmerise”、そして最後までソウルフルなヴォーカルが燃え盛る“Shelter Song”と、余りに堂々としたパフォーマンスは清々しい余韻を残してくれた。
2012年11月、第3回のHCW以来となる出演のサーストン・ムーアだが、今回の出演クレジットは正式にはザ・サーストン・ムーア・バンド。最新アルバム『ザ・ベスト・デイ』を製作した、盟友スティーヴ・シェリー(Dr)、ジェイムス・エドワーズ(G)、そしてマイ・ブラッディ・ヴァレンタインのデビー・グッギ(Ba)という顔ぶれである。サウンド・チェック時にちょこっとだけデビー&サーストンがダンスを見せるという微笑ましい一幕もあったのだが、いざ始まったステージ本編は超ソリッド&ダイナミックなギター音響ショウと、ユーモラスで楽しいMCの往復ビンタである。メンバーのスキルに物言わせるフリーなドローン・セッションに始まり、重いビートにポスト・ハードコア・サウンドが轟く“Forevermore”、ギラギラとヒートアップする“Speak to the Wild”と新作曲を放ってゆく。歓声の合間に猫や犬の鳴きマネが飛ぶフロアを前に「キャット・コールをありがとう」と告げながら、とにかくキッスが最高のバンドなんだと熱弁するサーストン。「そうだな……キッスとザ・クラッシュだったら、どっちがいい?」「クラッシュ!!」「答えはキッスだ。キッスとヤードバーズだったら?……マジで? あのファッキン・ヤードバーズだぜ?」と笑顔で喋りまくる。ミニマルな熱狂を育みながら、ベタつかずにサクッとフィニッシュするカッコ良さも引っ括めて、ユーモラスなMCがいつでも臨戦態勢な生き様を引き立てるステージになった。「このメンバーで、今度はまったく違う感じの、新しいアルバムも作るよ。そうすべきだと思うしね」という嬉しい報告もあったので、楽しみにしておきたい。
さあ、2日目のアンカーを担うのは、先頃単独公演も行われたセイント・ヴィンセントだ。昨年のフジロックでもお披露目されていた『セイント・ヴィンセント』最新モードのセットだが、開演アナウンスがショウとしての完成度の高さを期待させてくれるように、アニー・クラークが前衛性とショウアップされたエンターテインメントを恐れず鷲掴みにしてしまうさまは圧巻だった。“Digital Witness”ではお馴染みトーコ・ヤスダ(イーノン、元ブロンド・レッドヘッド)と揃いの振りを踊って観る者を惹き付け、或いはちょこちょことゼンマイ仕掛けのロボットのようにステップしながら、鮮烈なサウンドのチョーキング・リフをぶっ放す。敢えてガジェット感を引き受け、トリッキーなロック・スター然として振る舞う姿は、デヴィッド・バーンとのコラボ・ワークによって喚起された部分もあるだろうか。それ以降、更に加速している。大胆な「間」でグルーヴするシークエンスと、あの絶妙な音選びが嵌るギター・サウンドが、軽やかにギター・ロックを更新してしまうのだった。
「コンバンハー、フリークス! コンバンハー、アウトサイダーズ!」と挨拶するアニーは、「子供の頃、お店でおにぎりをこっそりポケットに忍ばせたりもしたわよね。あなたは有罪よ」「でも、たくさん懺悔もしたけど、今まで罰が当たったりはしなかったでしょ?」といった、余りにも詩的で美しいMCを残しながら、パフォーマンスを進める。ラウドかつダイナミックに展開する“Year of the Tiger”や、トーコ・ヤスダによる意図的にタイム感のズレたキーボードがグルーヴに味わいを加える“Surgeon”など過去曲も散りばめ、スローモーションで階段状セットから転げ落ちるような演技で締め括られた“Prince Johnny”(一瞬の暗転ののち、ヤスダと並んですぐ仁王立ちになっているのがカッコいい)以降は新曲群のつるべ打ちだ。コーラスの掛け合いで美しいフックを生み出す“Regret”を経ると、“Birth in Reverse”をタイトに繰り出して本編を締め括る。アンコールに応えてからは、ストレンジ・グルーヴを練り上げて爆発感を導き、そして優雅に腕を振りながらバンド・メンバーを紹介すると、深々とお辞儀してアニーは可愛らしく小走りで去っていった。今後もHostess Club Weekenderには、こんなふうに独創的で素晴らしいライヴ・アクトたちを紹介し続けて欲しいと、切に願う。(小池宏和)