ここ数年続いてきたロックとダンス・ミュージックのクロスオーバーという文脈で語られたりするのかもしれないが、内実はまったく違うバンドだ。というか、そんなことは大した問題じゃないと音楽自体が言明している。こういう作品が2010年代の口火を切るようにリリースされるのは、もしかすると必然かもしれない。そして、それがマンチェスター出身のバンドだったというのが、やはりどうしても運命を感じる。
この10年の音楽産業は、正直デジタルの持つ大きな力とどう向き合うかという格闘の10年だった。それは商業的な面ももちろんだが、こと音楽的な面やシーンの側面から見てもそんな印象がある。グーグルで検索をかけると、すぐさま検索結果が表示されるように、様々なキーワードが現れては、消費され、消えていった。その非常にスピードの速い、便利なネットワークを前にして、ミュージシャン自身も困惑していたところがある。だから、レディオヘッドは音源の価格をあなたに委ねたし、海賊ダウンロードを巡ってはミュージシャン同士が対立するような状況になってしまった。けれど、このマンチェスターの3人の若者は、伝統的な反骨精神と直感を頼りに、口にしてみせるのだ。そんなに大騒ぎするほどのことでもないだろ、と。
90年代の「テクノ」を彷彿とさせる彼らのスタイルは目新しいものではない。けれど、そうした文法をすべて自らの情念を表出させるために注ぎ込んでいる。どの曲も魅力的な旋律を持つのはだからだろう。半導体経由の人間回帰。テクノロジーは変わっても人の求めるものは変わらない。そう告げている。(古川琢也)
醒めている
デルフィック『アコライト』
2010年01月27日発売
2010年01月27日発売
ALBUM