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ノイジーなギターがサウンドの主軸を貫く、最初期と現在とを繋ぐかのような2曲。後半のグルーヴの爆発が凄絶な“実験中”も文句無しに素晴らしいが、ここでは“白日のもと”をこそ特筆したい。情感の膨張を抑え込みつつ、気高く凛としたメロディで、椎名はこう歌う。《いまという未来。私がイメージしたことあったっけ。いいえ、まだ新緑の眩しささえ、愛せずにいる。》と。そして、《過去に帰りたい。かつては全知全能だったっけ。いいえ、いまも。私の胸に唯一の愛、姿だけ変える。最初は深海。やがて夜空を経て洞窟まで。転身の度、肥大する存在。砕けそうだ。》と、自身のキャリアを真正面から振り返るのだ。社会現象化に伴い深き傷を負い、東京事変という兵器を纏っての治癒を経て個人名義に戻り、常に表現を更新しながら、ついには女性作家たちを直接的にエンパワーメントするまでに至った今日までの彼女の歩み。その重みが落とし込まれたこの曲で表現される、どこまでも正直な誇りと痛みには、どうにも落涙を禁じ得ない。(長瀬昇)(『ROCKIN'ON JAPAN』2025年10月号より)
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