メンバー構成、マイルズ・ケイン、ジェットのニック・セスター、ブラーのグレアム・コクソン、ミューズのマシュー・ベラミー、ザ・ズートンズのショーン・ペイン、ギタリストであるジェイミー・デイヴィス。それぞれのバンドが集まれば大型フェスのメイン・ステージが余裕で埋まってしまうであろう、紛うこと無きスーパー・グループである。2017年のジェイミーのバースデイ・パーティにおけるビートルズのトリビュート・バンドとして結成され、その後も不定期にライブ活動を続けてきた彼らが、ここに晴れてフル・アルバムをリリースしてくれた。個々人の多忙さからしてスケジュール調整の気の遠くなるような困難さは想像に難くなく、そして何よりこの一分の隙も無い圧巻の内容を聴いてしまうと、僥倖としか言いようがない。本作のテーマとして、バンドは「ノーザン・ソウル(イギリス北部でモータウンなどアメリカのソウル音楽をプレイし盛り上がったクラブ・カルチャー)の知られざる名曲をカバーすること」、また「古い曲を再発明することが多いジャズのように、ビートルズやストーンズがどのようにして始めたかという伝統を引き継ぐこと」があったと語っている。その言葉の通り、クラウトロックを通過したグレアムのノイジーかつ快楽指数の高いギター(特に“Long And LonesomeRoad”でのぶっ飛んだブルーズ・ギターの破壊力たるや!)や、偏執的なまでに緻密に構成されたマシューのコーラス・ワークなど、個々人のミュージシャンとしての強烈な技巧を存分に発揮しながらも、このアルバムは全ての曲が確実に始祖のロックンロールに帰結している。完成されたソウルやブルーズの名曲を各々の個性によってロックンロールに引き寄せ、爆裂した破綻さえも魅力へと変えてしまうという、正しくかつてビートルズが、ストーンズが、フーが、キンクスがやっていたことを同等の熱量と勢いをもってやり遂げているのである。ビートルズのトリビュート・バンドとして、ビートルズのカバーをするよりも真にビートルズに接近するため、この手法を選んだのだろう。大成功である。ただ1点だけ贅沢を言うとすると、制作において国を越えたデータのやり取りによって完成させたという今回は難しかったのだろうが、ボーカリストとしてイギーのワイルドネスを彷彿とさせるニックと、一昨年の『COUP DE GRACE』で突入したグラム・ロック・スター・モードそのままにボウイのような妖気を纏ったマイルズとの掛け合いが聴きたかった。この夢の続きがもし見られるならば、次はそこに期待したい。 (長瀬昇)
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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』11月号に掲載中です。
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